第6話 魔導士の指導と鉄壁のスキルの獲得
『苔むした坑道』の深部へ向かう道中、ルナ・アークライドの態度は劇的に変化していた。
「まさか、スキルを二つ同時に、しかも部位と効果を分けて使用するなんて…」
ルナはローブのフードの下で、驚きと興奮を隠せずにいた。彼女はもはや俺を『ゴミ』とは呼ばず、珍しい研究対象でも見るかのように、食い入るように観察している。
「ユウト、聞きたいことがあるわ。貴方は、どうやって『肉体強化』を左腕だけに集中させたの?」
「えっと…無意識に、そうしたいと強く思ったから、としか言いようがなくて」
「強く思ったから、ね。馬鹿げているわ。普通のスキル使いは、発動と同時に全身に魔力を循環させる。貴方のスキルは、どうやら魔力の流れを完全に自由に変えられるようね」
ルナは立ち止まり、俺の前に杖を突きつけた。
「いい?『氷結弾』は、遠距離で敵の動きを封じるためのものよ。貴方の魔力ではまだ威力が弱い。だから、近距離で、凍らせるよりも重さに特化させた方が効果的。そして、『肉体強化』は、回避と攻撃の切り替えに特化させるべきだわ」
ルナは、毒舌を交えながらも、驚くほど的確なアドバイスを与え始めた。彼女は俺のチートスキルが、理論物理学のように面白いと感じ始めたらしい。
一方、カエデは俺の戦闘スタイルを見て、目をギラつかせていた。
「フン!さっきのゴーレムじゃ、ユウトの相手にはならねえな。ルナ、いい獲物を見つけろ。ユウトには、もっと防御力が高くて硬い奴とやらせてみたい」
カエデは掲示板の依頼書に目をやり、ニヤリと笑った。
「ちょうどいい。坑道のさらに奥。最深部への通路を守る『岩壁の番人』の討伐依頼だ。あれは硬さだけなら上級魔物にも匹敵するぜ」
ルナは渋い顔をした。「待って、カエデ!今のユウトの火力じゃ、ストーン・ガーディアンの甲羅は破壊できないわ。危険すぎる」
「心配すんな。俺とルナが仕留める。ユウトは、アイツの防御スキルをコピーすることに専念しろ」
カエデは、俺の能力を極限まで引き出すことしか考えていないようだった。
そして、俺たちは最深部へと足を踏み入れた。そこにいたのは、高さ3メートルはあろうかという、岩石と苔でできた人型の巨大魔物だった。全身が堅牢な岩の甲羅に覆われ、手に持つ鈍器のような腕を、ゆっくりと振り上げている。
「グオォォ!」
ストーン・ガーディアンは重い足音を立てて、俺たちに向かって突進してきた。
「ユウト!動くな!」
ルナが叫び、魔力を全開にした。
「氷結牢獄!」
ルナの杖から、先の氷結弾とは比較にならない、巨大な青白い魔力の奔流が放たれ、ストーン・ガーディアンの巨体を一瞬で凍りつかせた。
その瞬間、ストーン・ガーディアンの全身の岩の甲羅から、土色の光が放たれた。それは、自身を周囲の岩壁と一体化させ、防御力を桁外れに高める防護スキルだった。
【スキル:地盤強化を模倣しました】
俺の紋章が、今までにないほど強く輝いた。ルナの強力な魔法を間近で見たことで、模倣の成功率が一時的に跳ね上がったのだ。
「カエデ!今だ!」
ルナの叫びに応え、カエデは紅蓮の炎を纏った大剣を振りかぶった。
「破砕の炎斬!」
一撃は、魔物の凍りついた甲羅に直撃し、防御を固めたストーン・ガーディアンの体は、音を立てて崩れ落ちた。
討伐後、カエデは息を荒くしながらも満足そうに言った。
「どうだ、ユウト!コピーできたか?」
「…はい。『地盤強化』です」
俺は地面に手をかざし、発動させた。手の周りの地面が微かに盛り上がり、固くなる。これは、自分だけでなく、周囲の環境まで利用して防御力を上げるスキルだった。
ルナは驚愕した。「土属性の高度なスキル…それを、一瞬で!?」
俺は考えた。
『肉体強化』で自身の身体を防衛し、
『ライト・ウォール』で魔力の障壁を作り、
そして、この『地盤強化』で足場と周囲の防御を固める。
三重の防御チートだ。
もし俺が、この三つの防御スキルを同時に、かつ最適に複合させることができたら…。
「ユウト、あんたはとんでもない化け物だ」
カエデは興奮のあまり、俺の肩を強く掴んだ。その瞳には、すでに最強の相棒に対する期待と、独占欲が浮かび上がっていた。
「これで、俺たちのパーティーは上級ダンジョンに挑める。街に戻ってすぐに、次の依頼を選ぶぞ」
ダンジョンを後にする俺を、ルナは静かに見つめていた。彼女の冷たい目は、もはや俺を嘲笑するものではなく、そのスキルが持つ無限の可能性を真剣に見極めようとしている色に変わっていた。
俺の異世界での居場所は、純粋な聖女、好戦的な戦士、そして知的な魔導士という、三人の異なるタイプの美少女たちによって、着実に作られ始めていた。




