第38話 闇のギルドの視線
『中立都市ラビリンス』の空は、光属性の清浄な魔力と、闇属性の瘴気が混じり合い、常に薄曇りだった。街路には、厳粛な神殿のシスターから、全身に闇のタトゥーを入れた魔族系の者までが闊歩しており、その混沌としたエネルギーが俺の『コピーキャット』の紋章を激しく刺激した。
「すごいわ、この街。あらゆる属性の魔力が、規則性なく混ざり合っている。ユウトの六属性複合の最終訓練に、これほど適した場所はないわ!」ルナは、知的な興奮を隠せない。
「チッ、油断すんな。この街の闇は、王族の小細工とはレベルが違うぜ」カエデは、すぐに周囲の危険な視線に気づき、俺の傍を離れなかった。
俺たちがまず向かったのは、情報を得やすい『闇市ギルド』の縄張りにある宿屋だった。この街で安全を確保するには、闇のルールを理解する必要がある。
宿屋のカウンターで、俺たちが荷を解いていると、一人の男が声をかけてきた。全身黒のローブに身を包み、鋭い目つきをしたその男は、間違いなく闇のギルドの人間だ。
「アンタたち…特に、東の国の男。尋常じゃない混沌の匂いを放ってるな」
男は、俺の光と闇が混ざり合った魔力にすぐに気づいた。「この街じゃ、あんたほどの属性の混ざり具合は珍しい。うちのギルドで、いい仕事があるんだが、どうだ?」
闇のギルドの仕事。それは、裏切り、暗殺、盗掘など、すべてが危険と隣り合わせだ。彼らは、俺の『調和の道』ではなく、『混沌の力』に目をつけ、俺を都合の良い道具として利用しようとしている。
俺が断ろうとした瞬間、リリアが一歩前に出た。彼女は、神殿の聖衣ではなく、目立たない灰色のローブを纏っていたが、その威厳は周囲を一瞬で静まらせた。
リリアは、闇のギルドの男の目を真っすぐ見て、静かに、しかし強い意志を込めて言った。
「その者は、聖都ルーメンの聖女たる私の専属の騎士です」
男は鼻で笑った。「聖女?こんな混沌の街で、光の権威など通用せんぞ」
リリアは、ここで神殿の権威ではなく、俺への愛を武器にした。
「確かに、この街で聖女の地位は意味をなさないでしょう。ですが、この騎士は、私の命であり、私の最も大切な存在です」
リリアは、周囲の無法者たちにも聞こえるように、公的な牽制を行った。
「この騎士に手を出そうとする者は、私、リリア・シルヴァーナを『最も深い個人的な敵』とする。私は、聖女の権威を捨てても、この騎士を守る。彼の能力が、貴方たちの仕事**に使われることは、一切ありません」
リリアの言葉は、「聖女の所有物」という従来の支配的な表現ではなく、「私個人の命より大切な存在」という、究極の愛情と決意の表明だった。これは、神殿の権威ではなく、リリア自身の愛に基づく、新たな形の公言だった。
闇のギルドの男は、リリアの命を賭けた決意に、初めて動揺の色を見せた。この街の無法者たちは、権威よりも**「個人的な怨恨」を恐れる。リリアは、自分自身を俺の盾としたのだ。
男は、不機嫌そうに舌打ちし、去っていった。
宿屋の部屋に戻った後、カエデは興奮気味に言った。「ハッ!シスターもなかなかやるじゃねえか。あの公言は、『この男に手を出すなら、一生追い回してやる』って言ってるようなもんだぜ!」
ルナは、リリアの行動を知的戦略として評価した。「リリアは、この街で最も有効な『防衛の論理』を適用したわ。貴方の安全は、一時的に確保された」
リリアは、疲れた表情で俺を見つめた。「ユウトさん。私は、貴方の安全のためなら、どんな混沌にも立ち向かいます。これが、王族の秩序から解放された、私の愛の形です」
俺は、リリアの新たな決意に感動した。彼女は、もはや光の檻で俺を囲うのではなく、自分の命を賭けて俺を守ろうとしている。
俺は、リリアの手をとり、優しく言った。「ありがとうございます、リリアさん。僕の究極の単一属性は、必ず貴方の愛の光を証明するために完成させます」
しかし、ルナの表情は晴れなかった。
「リリアの牽制は、一時的なものよ。この街には、『均衡の守護者』の支部も存在しているはず。彼らは、表の闇のギルドではなく、裏の闇の権力と繋がっている」
ルナは、俺に警告した。「ユウト。あなたの『究極の単一属性』を完成させるには、この街の全ての混沌の魔力を取り込み、最終調和を達成する必要がある。それは、この街の闇そのものと戦うことを意味するわ」
中立都市ラビリンスは、俺にとって最終試練の場となる。俺は、愛するヒロインたちと共に、世界の混沌と、闇の勢力の真のリーダーに立ち向かうための、最後の準備を進めるのだった。




