第3話 光の街ルーメンと二番目のチート発見
「…すごい」
森を抜け、俺たちを導く街道を歩くこと半日。視界が開けた先に現れたのは、光の神殿が治めるという『ルーメンの街』だった。
白い石灰岩で築かれた巨大な城壁は、夕陽を受けて淡く輝いている。上空には、魔力を動力源としたらしい小型の飛行船がゆっくりと行き交い、城壁の内側からは、人々の活気と金属を叩く音が響いてくる。
「これが…異世界の街」
日本の街とは全く違う、ファンタジー小説そのものの景色に、俺は思わず息を飲んだ。
リリアは少し誇らしげに言った。「ルーメンは、光の神殿の加護で守られた安全な街です。多くの冒険者や商人が集まる、この大陸でも有数の場所ですよ」
城門をくぐると、さらに圧倒された。木骨造りの建物が並び、獣人のような人々や、尖った耳のエルフらしき住民も見える。そして、腰に剣を下げたり、派手なローブを纏ったりした、いかにも「冒険者」然とした人々。
リリアは立ち止まり、真剣な顔で俺を見た。
「ユウトさん、改めて約束してください。貴方の『コピーキャット』のスキルは、決して人前で使わないこと。特に、神殿の関係者以外には」
「…はい。わかっています。僕自身、この力がどれだけヤバいのか、まだ把握しきれてない」
俺が頷くと、リリアは少しホッとした様子で、街の中心にある「冒険者ギルド」を目指して歩き出した。まずは身分証明と宿の手配が必要だという。
しかし、ギルドに向かう途中の賑やかな通りで、早くも問題は発生した。
「おい、そこのシスター!そっちの貧弱なガキはなんだ?見慣れない顔だぜ。街に入ったら、まず俺たち『黒狼団』に挨拶するのがルールだろう?」
道を塞いだのは、全身に黒い革鎧を纏った、見るからに粗暴な三人組の男たちだった。リーダー格の男はニヤニヤと下卑た笑みを浮かべ、リリアを品定めするように見ている。
リリアは一歩前に出て、杖を強く握りしめた。
「私たちは光の神殿の人間です。道を空けなさい!」
「神殿?へっ、こんな森の奥から出てきた見習いシスターじゃ、何の力もねえだろ。その隣の細っちいガキを置いていけ。ちょっと遊んでやるよ」
男たちが俺に手を伸ばしてきた瞬間、リリアは悲鳴を上げた。
「ユウトさん、逃げて!」
だが、俺の体はすでに反応していた。
ドシン!
俺と男の間に、透明な『ライト・ウォール』が展開する――のではなく、咄嗟に俺は、ギルドの壁際で暇そうに立っていた屈強な門番の動きを無意識に見ていた。門番は、黒狼団の騒ぎに備え、一瞬だけ全身の筋肉を硬くした。
俺の紋章が、今度は一瞬だけ緑色に光った。
【スキル:肉体強化を模倣しました】
これは、さっきリリアからコピーした治癒魔法や障壁魔法とは違う、身体能力を一時的に高めるスキルだ。
俺は、直前でコピーしたばかりの『肉体強化』を、反射的に自分の左腕だけに集中させた。
男の握りしめた手が俺の肩に触れる直前、俺は半歩だけ左に身をかわし、強化した左腕を、男の肘目掛けてぶつけた。
「ぐっ!?」
細身の俺の腕と、ごつい革鎧に包まれた男の肘が衝突した。本来なら骨が折れるべきは俺の方だ。しかし、男は一瞬顔を歪ませ、バランスを崩して後ずさった。
「てめぇ…ただのガキじゃねえな!」
男が怒鳴り、剣の柄に手をかけた。リリアは青ざめて俺の前に立ちはだかろうとする。
「止めなさい!」
そのとき、第三の声が響いた。声の主は、黒狼団の後ろから颯爽と現れた、赤いショートカットの女の子だった。彼女は全身にレザーアーマーを着用し、背負った大剣が、ギルドの喧騒の中でも異様な存在感を放っている。
「ギルド前でトラブルを起こすな、ザック。それに、こんな細っこい子に手を出すのは、冒険者の恥だ」
カエデ、と男は苦々しく呟いた。どうやら彼女はこの街でも名の知れた冒険者らしい。
「カエデ、これは関係ねえだろ!」
「関係あるさ。それに、そこの彼…」
カエデは男を睨みつけていた鋭い目を、ゆっくりと俺に向けた。その瞳は、獲物を見定めているかのように、どこか熱を帯びている。
「君、避けるのは上手だったな。ただの素振りじゃない。あの体捌き、訓練されたものだ。それに、最後に腕を当てた時、君の腕が一瞬、異様に硬くなったように見えたが」
カエデはニヤリと笑った。
「リリアの聖女様と一緒の、ただの素人には見えないぜ?あんた、何者だ?」
俺のチートスキルは、思わぬ形で、街で最も目立つであろう女性冒険者に、その片鱗を見抜かれてしまった。




