第23話 騎士の義務とライバルたちの秘密協定
『聖務補佐官ユウトは、公私にわたり、私の『専属の騎士』として、常に私の傍に控えることになります』
リリアの公的な宣言は、街全体に波紋を広げた。そして、俺の生活は一変した。
俺は神殿の敷地内にある、リリアの私室の隣室を与えられた。カエデとルナも、俺の「護衛兼指南役」という名目で、神殿の別棟に居住することになったが、俺とリリアの間には、物理的にも、そして立場的にも、最も近い距離が生まれた。
その日の夜、夕食後。リリアは、神殿の執務室で、俺に『騎士の義務』を言い渡した。
「ユウトさん。貴方は、私の『光の騎士』です。貴方の義務は、私に絶対の忠誠を誓い、公の場では常に私の一歩後ろ**に控えること。そして…夜間は、この部屋の前の警備をお願いします」
リリアは、俺の顔をまっすぐ見つめた。その瞳には、聖女としての厳格さと、俺を手に入れた喜びが混在している。
「貴方の安全は、私が提供する最高の環境(神殿)で守られます。ですが、その代償として、私の指示を最優先しなければなりません。カエデさんやルナさんの私的な誘いに乗ることは、原則禁止とします」
彼女は、笑顔で最も厳しい独占ルールを突きつけてきた。
「…わかりました。リリアさんの安全を守るのが、僕の使命ですから」
俺がそう答えると、リリアは満足そうに微笑み、俺の頬に優しく、しかし確かな支配欲が込められたキスをした。
「ありがとう、ユウト。貴方を信じています」
一方、その夜遅く。神殿の別棟の隅にある、ルナの自室。
ルナは、魔法陣が描かれた古文書を広げ、氷の魔力でコーヒーを冷やしていた。そこに、カエデが音もなく侵入してきた。
「おい、ルナ。あのシスターの支配を、いつまで見てるつもりだ?」
カエデは苛立ちを隠せない。
ルナは顔を上げず、冷ややかに言った。「貴方も、ユウトの安全が確保されたことに、内心安堵しているんでしょう、カエデ。ここは神殿だ。追手も来ない」
「黙れ!ユウトは俺たちの最高の武器だ!あのシスターのお人形になって、才能を腐らせてたまるか!」
ルナはコーヒーを一口飲むと、静かに古文書を閉じた。
「その通りよ。リリアは、ユウトの光のスキルだけを育て、闇や物理のスキルを意図的に封印しようとしている。これでは、私たちの知的な計画も情熱的な訓練も、全て台無しだわ」
ルナは立ち上がり、カエデの目の前に立った。
「カエデ。私たちの目的は一つ。『ユウトの能力の限界を突破させること』。そのためには、今、一時的な共同戦線を張る必要があるわ」
カエデは訝しげにルナを見た。「…共同戦線?アンタと俺がか?冗談じゃねえ」
「冗談じゃないわ。リリアは権威を使って私たちを分断した。なら、私たちは秘密の協力で、彼女の『騎士の義務』という鎖を断ち切るのよ」
ルナは、ある計画をカエデに耳打ちした。
「…次の神殿からの依頼は、ユウトを安全な場所に留めておくための、『儀式用の聖具の捜索』よ。戦闘はほとんどない。…私たちが、その聖具の捜索場所を、極めて危険な魔物が潜む場所へと摩り替える」
カエデの目がギラリと光った。「ハッ!最高に面白えな!シスターの用意した安全な餌を、危険な獲物に替えるってわけか!」
「ええ。そして、そこでユウトに、光や闇の属性とは全く異なる、新しいスキルをコピーさせる。リリアの支配の魔力(光)が届かない、新しい力よ。そうすれば、彼女の独占は、理論的にも無意味になる」
ルナとカエデは、互いに憎まれ口を叩きながらも、ユウトの成長という共通の目的のために、最強のライバル同士の秘密協定を結んだ。
二人のライバルの視線が交差する。それは、リリアの甘い支配を打ち破り、再び俺を実戦の場へ引きずり出すための、静かなる共謀の始まりだった。




