第21話 聖女の命懸けの『共同戦線』と闇を呼ぶ瘴気
地下の広間で、俺は静かにカエデとルナを見つめていた。リリアの生存確認の光は、俺の胸元で規則的に瞬いている。
「ねえ、ユウト。あの光、うるさいわね。貴方が生きているのは、もう私が保証している。聖女の魔力を無駄に消費させているだけよ」ルナが不満そうに言った。
その直後、リリアのペンダントの光が、生存確認とは異なる、緊急の合図に変わった。光は激しく点滅し、俺の頭の中に、リリアの焦燥に満ちた声が響いた。
『ユウトさん!聞いてください!街に緊急事態が発生しました!』
リリアの声は、周囲のカエデとルナにも聞こえるほど、魔力に乗って強く伝わってきた。
『地下の旧市街の最深部、「魔力の汚泥溜まり」の瘴気が、制御不能なレベルに達しています!このままでは、瘴気が街の結界を突き破り、地上全体が闇の魔物に襲われます』
カエデが跳ね起きた。「何だと!?地下からの総攻撃か!」
『神殿は、この事態を最高レベルの「聖務補佐:旧市街核心の浄化」として発令しました。…そして、神殿長は、この依頼を貴方にしか達成できないと判断しました』
ルナが冷ややかに笑う。「ふん、当然ね。光と闇を同時に制御できるのは、世界でユウトだけ。神殿の馬鹿どもは、結局彼の力が必要なのよ」
『違います!』リリアが悲鳴に近い声で反論した。『これは、私が神殿長を説得して、命がけで作り出した作戦です!』
「作戦…だと?」俺はペンダントを強く握りしめた。
『はい。神殿はこの依頼を達成するため、騎士団の追跡を一時的に停止し、地上と地下を結ぶ魔力供給路を、私たち(あなた方)に開放します。貴方が浄化に成功すれば、神殿は貴方の罪を一時凍結し、英雄として地上に迎え入れることになるでしょう』
それは、リリアが神殿の権威と自分の命を賭けて、俺の安全と自由を確保しようとする、究極の『共同戦線』の提案だった。神殿のルールを一時的にねじ曲げ、俺を「逃亡者」から「英雄」に戻す唯一の道だ。
カエデは目を見開き、ルナは静かに息を呑んだ。
「…ユウト。あのシスター、本気だぜ。自分の命を賭けて、あんたの居場所と名誉を買い戻そうとしている」カエデはどこか感動したような表情だった。
ルナは即座に思考を巡らせた。「神殿の魔力供給路が使えるなら、私たちの地下での消耗はなくなる。そして、光の属性の魔力を無限に使える。…これは、理に適っているわ」
俺は、リリアの必死な想いが込められた光のペンダントを、胸に押し当てた。
「リリアさん、わかりました。あなたの作戦に乗ります。必ず、旧市街の核心の浄化を達成して、英雄として地上に戻る」
俺たちはすぐに、瘴気の源である「魔力の汚泥溜まり」へと向かった。
そこは、古い魔法が腐敗した黒い沼が広がる空間だった。沼の中心からは、触手のように蠢く濃厚な闇の瘴気が噴出しており、それが街の結界を蝕んでいる。
「ユウト、魔力供給路が開いたわ!」ルナが叫んだ。
その瞬間、頭上の天井から、神殿からの純粋な光の魔力が、滝のように俺たちに降り注いだ。これは、リリアが魔力供給路を開放し、遠隔で俺を援護している証拠だ。
「さあ、やろうぜユウト!光と闇の最強の複合だ!」カエデが炎の大剣を構える。
沼の中心から、瘴気が凝縮して生まれた巨大な魔物が現れた。それは、全身が闇の泥で構成された『瘴気のスライムロード』だ。
「グオォォ!」
スライムロードは、周囲の闇の瘴気を全て吸収し、俺たちの複合攻撃を無効化しようとする。
俺は、ルナからコピーした『魔力演算』で、流入する神殿の無限の光の魔力と、闇の魔物の瘴気濃度を瞬時に計算した。
「極限衝動」で加速した肉体に、「神聖魔力供給」で光の魔力を、そして「闇の障壁」で闇の瘴気を全て取り込む!
俺の全身が、光と闇を同時に纏う、制御された不安定な存在へと変わった。
「ルナ!瘴気の核を正確に計算して!」
「ええ!瘴気の核は、闇の泥の最も弱い結合点よ!そこを、純粋な光の魔力で一瞬で浄化するしかない!」
俺は、右手から純度100%の光の魔力を、極限の速度で生成し、スライムロードの核心へと叩き込んだ。
キュアアアア…!
瘴気のスライムロードは、悲鳴を上げながら、一瞬で光の塵となって消滅した。
浄化は完了した。
俺は、疲労でその場に膝をついた。リリアのペンダントは、成功を知らせるように、穏やかで、力強い光を放ち続けていた。
「…やったわね、ユウト。そして、リリア。あの聖女、本当にすごいわ」ルナは、ライバルへの敬意を込めてそう言った。
カエデは、俺に駆け寄り、力強く抱き起こした。
「約束通りだ、ユウト。これで俺たちは英雄だ!そして、あんたは俺たちのモノだ!」
地上への道が開かれる。俺は、リリアの愛に、そしてカエデとルナの信頼に応えるため、「英雄」という新たな立場で、三人のヒロインとの関係に挑むことになる。
次話の予告: 第22話では、英雄として地上に戻った悠人たちを、神殿長とリリアが出迎えます。リリアは、公衆の面前で、悠人との関係に関するある宣言を行い、その行動はカエデとルナを激しく動揺させます。そして、闇の第三勢力『均衡の守護者』は、俺の英雄化によって、さらなる陰謀を巡らせます。




