第20話 魔導士の心と遠隔で届く聖女の愛
『均衡の守護者』との激戦を終えた地下の広間は、静寂に包まれた。
カエデは、『極限衝動』の反動で全身の魔力回路を激しく損傷していた。俺はすぐに『ホーリー・ヒール』と『神聖魔力供給』を複合させ、彼女の治療に当たった。
「くそっ、ユウト。あの女ども、容赦ねえな…」
カエデは苦しげに顔を歪めたが、治療の光の中で、俺の額に触れるリリアのペンダントを微笑んで見つめた。
「あのシスターに感謝だ。もし、俺たちが死にかけてたら、あのペンダントを通して駆けつけてくるつもりだったんだろうな」
カエデは治療の途中で、疲労のため眠りに落ちた。俺はルナに、カエデの看病を任せ、自身も壁にもたれかかり、荒れた呼吸を整えた。
ルナは、カエデから少し離れた場所に座り、静かに瞑想していた。彼女の視線が、時折、俺に向けられるのを感じた。
「…ユウト」
ルナが静かに口を開いた。
「疲れたでしょう。貴方は今、光と闇、そして極限の物理スキルという、互いに相殺し合う三つの属性を同時に使ったのよ。並の人間なら、魔力回路がとっくに焼き切れている」
「ルナの『魔力演算』のおかげで、なんとか保っているよ。本当にありがとう」
ルナは、俺の言葉にわずかに頬を赤らめた。それは、普段の彼女からは想像できない、感情的な反応だった。
「…感謝なんていらないわ。私は、貴方のその不完全な力を、完璧な理論で完成させる義務がある」
彼女はそう言い放ちながらも、俺に一歩近づき、そっと俺の左手を握った。
「貴方は、私の『魔力演算』を、物理スキルにまで応用した。それは、私自身が到達できなかった魔法の極致**よ。私は貴方の中で、知識だけではなく、創造を体験している」
ルナの眼差しは、もはや「研究者」のものではなかった。それは、「愛する相手」の才能と強さに魅了され、「自分の全てを捧げても惜しくない」と悟った、一人の女性の視線だった。
「ユウト…貴方は、私が最も愛し、最も憎んでいるものよ。なぜなら、貴方は私の理論を完璧にしながら、私の感情を制御不能にするから」
ルナは、自らの感情を**「制御不能」と表現した。知性を重んじるルナにとって、それは最大の敗北であり、同時に最高の告白**だった。
「私は、貴方の能力を完成させる。それが、貴方を独占する唯一の方法よ」
彼女はそう言うと、俺の左手の甲に、ルナの青い魔力をそっと流し込んだ。それは、氷のような冷たさではなく、心臓を温めるような優しさを帯びていた。
その瞬間、俺の胸ポケットにあるリリアのペンダントが、強く、規則的に光り始めた。
ピカ、ピカ、ピカ…
それは、俺の生命力が安全域にあることを示す、リリアからの『生存確認信号』だった。
リリアは、神殿の権威と職務を全て捨てて、今もなお、遠隔で俺の安否を確認し続けているのだ。
「…ルナ、リリアさんが」
「見ているわ。自分の愛が届いているか、確認している」
ルナは、リリアの光を少しだけ見上げると、俺の左手をさらに強く握りしめた。
「いい?ユウト。聖女は、自分の身を削って貴方を守ろうとしている。そして、私は、自分の知識と理性を捨てて貴方を高めようとしている」
「貴方は、どちらの愛に応えるつもり?それとも…両方を手に入れるつもり?」
ルナの挑戦的な問いかけに、俺は答えられなかった。ただ、リリアの温かい光と、ルナの冷たい魔力に、俺の心は同時に強く引き寄せられているのを感じた。
俺の異世界での人生は、単なるチート無双ではなく、三人のヒロインの複雑で強烈な愛に、常に試され続けているのだ。




