第2話 チートスキルの検証と純白の聖女
「あ、あの…あなたは、怪我はありませんか?」
純白の修道服を纏った少女は、まだ警戒を解いていない。彼女が作り出した『ライト・ウォール』は、岩のように硬いボアを完璧に足止めしている。
俺は自分の手の甲に目をやった。さっきまで脈打っていた紋章は、今は静かに皮膚に溶け込んでいる。
「だ、大丈夫です。助けてくれて、ありがとうございます」
震える声で礼を言うと、少女は少し安心した様子で微笑んだ。その笑顔は、まるで教会のステンドグラスから差し込む光のように清らかで、心が洗われる気がした。
「良かった。私はリリア・シルヴァーナと言います。光の神殿の、見習い聖女です。あなたは…どうしてこんな危険な場所に?」
リリア・シルヴァーナ。純白の聖女。
俺は自分がトラックにはねられて死んだこと、神に言われてこの世界に来たこと、そして『コピーキャット』というチートスキルを得たことを、正直に話すべきか一瞬迷った。だが、あまりにも現実離れしすぎている。
「えっと…記憶が、ほとんどないんです。気がついたらここにいて…名前は、ユウトです」
ひとまず、名前だけを伝えた。リリアは不安そうな顔になったが、「記憶喪失…魔物の瘴気の影響かもしれません」と、納得したように頷いた。異世界ならではの解釈だろう。
その時、ボアが再び大きな唸り声を上げ、障壁を突き破ろうと頭をぶつけ始めた。
「まずいです、この障壁は長く持ちません。早くここを離れましょう!」
リリアが焦ったように叫ぶ。彼女は杖を構え直したが、さっきの魔法でかなり魔力を使ったのか、顔色が少し優れない。
チャンスだ。
俺は一歩前に出た。
「リリアさん、僕にも、何かできるかもしれません」
「え?あなたは戦闘スキルを…」
「試させてください!」
俺はボアに向かって手を突き出した。手の甲の紋章が、微かに青白く光る。
「聖なる癒し(ホーリー・ヒール)!」
頭の中で、さっきリリアが魔法を使った時の感覚を必死に思い出す。すると、掌から淡い光の粒が飛び出した。
「え…治癒魔法?」リリアが驚愕の声を上げた。「でも、何を治癒するんですか!?」
俺の『ホーリー・ヒール』は、突進の衝撃で弱っているボアではなく、ボアを押しとどめる『ライト・ウォール』に降り注いだ。
ギュン!
瞬時、『ライト・ウォール』のひび割れが消え、透明な壁は光を強めた。魔法障壁の耐久度が、回復したのだ。
「…嘘。まさか、障壁まで回復させられるなんて」リリアは呆然としている。
「これなら…」
俺はさらに畳み掛けた。
「光よ、障壁を築け(ライト・ウォール)!」
俺が作り出した障壁は、リリアのものよりはるかに薄く、頼りないものだったが、二重になったことでボアの猛攻を防ぐには十分だった。
「どうして…!今見たばかりの魔法を、なぜすぐに使えるんですか!?」
リリアは驚きよりも、畏怖の念を抱いているようだった。
「僕のスキルは…誰かのスキルを、真似できるみたいなんです」
俺は半ば自棄になりながら、正直に打ち明けた。リリアは信じられないといった様子で、俺の顔と、二重の障壁を交互に見つめた。
「そんな…『模倣者』のスキルなんて、神話でしか聞いたことがありません。しかも、すぐに成功するなんて」
彼女はすぐに聖女としての冷静さを取り戻した。
「ユウトさん、貴方の力は想像以上に危険です。すぐに森を離れましょう。私の故郷、『ルーメンの街』へ案内します。そこなら安全です」
俺たちは二重の障壁でボアを足止めし、リリアが持つ地図と指南のスキルに従って、森の奥深くを抜け始めた。
リリアは歩きながら、この世界について教えてくれた。ここは『テラ・ルクス』。人々は神々から授かった「スキル」によって生活し、時に強力な魔物と戦っている。彼女の故郷ルーメンの街は、光の神殿が管理する安全な場所で、冒険者やスキルを持つ者が集まる活気ある場所だという。
「街に着いたら、あなたのスキルを神殿で秘密裏に調査させてください。これは、世界を揺るがしかねない、究極のチートスキルです」
彼女は真剣な眼差しで俺を見た。その瞳の奥には、俺の持つ力への純粋な好奇心と、未来への希望が宿っているように見えた。
異世界に来て数時間。俺は自分の命を救ってくれた聖女に、自分が究極のチート野郎であることを告白し、彼女の街へと導かれることになった。
最初のガールフレンド候補は、純真な聖女様のようだ。




