第13話 三つ巴の争奪戦と究極の選択
『暗黒の森』での一戦を終え、神殿の聖務補佐官としての俺の立場は、極めて不安定になった。
「ユウトさん、なぜ…なぜ私の言いつけを守らなかったのですか!」
俺たちが街に戻るやいなや、リリアは神殿の前に駆けつけてきた。彼女の顔には、これまでにないほどの動揺と悲しみが浮かんでいた。
「光の魔力で浄化するのが目的だったはずです!それなのに、貴方は闇のスキルをコピーし、それを光と複合させるという…神への冒涜のような行為を!」
リリアの動揺は、俺の行為が彼女の聖女としての信念を揺るがしたことに加え、彼女が俺を専属にした目的――安全な場所への囲い込み――が、根底から崩れたことを意味していた。
「リリアさん、僕の『コピーキャット』は、全てのスキルを複合させることで真価を発揮する。闇も光も、僕にとってはただの力なんです」
俺がそう弁明しても、リリアの顔は曇ったままだった。
「いいえ。貴方が危険な道を選べば選ぶほど、私は貴方の安全を守れなくなる…!神殿長に話して、契約を『自宅待機』に切り替えます。貴方は危険すぎます!」
リリアは今にも俺を神殿に連れ戻し、部屋に閉じ込めようとしている。
その瞬間、カエデがリリアと俺の間に割って入った。
「馬鹿げたことを言うな、シスター!ユウトの可能性を、あんたの臆病な保護欲で潰すんじゃねえ!」
カエデは俺の腕を力強く掴んだ。
「ユウト!俺たちと来い!次の依頼はもう決めた。リリアの管轄外の辺境の遺跡だ。そこで、さらに強い物理スキルをコピーさせ、あんたを真のオールラウンダーに仕上げてやる!」
カエデは、俺を強引に連れ去ろうとする。だが、その反対側から、ルナが冷静な目で口を開いた。
「待ちなさい、カエデ。貴方の目的は自分のパーティーの強化だけ。ユウトは、貴方の肉弾戦の道具じゃない」
ルナは俺のもう一方の腕を掴んだ。「ユウト。闇と光のスキルを得た今、貴方は魔力制御の訓練を急ぐべきよ。私が特別に、神殿の図書館の最奥に保管されている古文書を使って指導してあげる。それは神殿の人間にも許されていない特権よ」
ルナは、リリアが持つ『知識』と『特権』という優位性を崩すため、知的な餌で俺を誘惑してきたのだ。
俺の身体は、リリア、カエデ、ルナの三人の力強い手に、文字通り三つ巴で引っ張られていた。
リリア(光属性、聖女): 「私の愛は、貴方の安全を求める。危険な外の世界から、私の側に引き戻す!」
カエデ(炎属性、戦士): 「私の愛は、貴方の成長を求める。俺たちと戦い、さらなる力を掴ませる!」
ルナ(氷属性、魔導士): 「私の愛は、貴方の真価を求める。私の指導で、貴方の能力を完成させる!」
三人の想いが交錯し、俺は身動きが取れなくなった。
「やめろ!俺は…俺は、誰の道具でもない!」
俺は、掴まれた両腕を振りほどこうと、無意識に、今持っている全てのスキルを同時に発動させた。
肉体強化!
ライト・ウォール!
地盤強化!
神聖魔力供給!
炎の掌握!
氷結弾!
闇の障壁!
七つの異なる属性と効果を持つスキルが、俺の全身で、暴発寸前で複合した。
俺の体は、虹色の光と闇の渦に包まれ、三人のヒロインの力は弾かれた。
「なっ…七つのスキルを同時に!?」ルナが驚愕の声を上げた。
「ユウト…!」リリアが心配そうに、しかし畏怖の念を込めて俺を見つめる。
俺は、荒い息を整え、改めて三人のヒロインを見た。彼女たちの愛は真剣だ。だが、俺は誰か一人の望む道を選ぶわけにはいかない。
俺が選ぶべき道は、彼女たち全員を納得させ、そして守れるほどの強さを手に入れることだ。
「僕の答えは、一つです」
俺は、リリアの専属補佐官の契約書をポケットから取り出し、三人の前で広げた。
「この契約書は、僕をリリアさんの専属にしますが、パーティーを組む相手をリリアさんが選ぶという特例があります。つまり、この契約は、リリアさんが僕の『パーティーリーダー』であることを意味している」
俺は、カエデとルナに向かって言った。
「カエデ、ルナ。僕とパーティーを組んでくれるか?ただし、リーダーはリリアさんだ。彼女の安全への配慮と聖務補佐を最優先にするというルールを、受け入れてくれるなら」
そして、俺はリリアに向き直った。
「リリアさん。僕が危険な道を選ぶのは、貴方を守るためでもある。どうか、僕の成長を信じて、僕を**『最強の盾』として、パーティーを率いてくれませんか?」
究極の選択を前に、俺は『リリアの優しさ』を最大限に尊重しつつ、『カエデとルナの求める実戦』も手放さない、誰も予想しない形での『四人パーティー結成』という道を選んだのだった。




