第12話 闇の森の遭遇と聖女を試す黒いスキル
「いいか、ユウト。俺たちは、あのシスターのお人形さんになるつもりはねえ。次の依頼で、あんたの力を闇の領域に引きずり込む」
「カエデの言う通りよ。光の力だけでは、世界は守れない。貴方の『コピーキャット』の真価は、相反するスキルを複合させるところにある。ここで、リリアの光を上回る『闇』を手に入れるのよ」
リリアとの契約直後、カエデとルナは俺を焚き付けた。二人の狙いは、リリアが持つ光の魔力とは真逆の、強力な闇属性のスキルを俺にコピーさせること。そうすれば、リリアの専属契約も、俺の能力を管理しきれなくなるはずだ。
そして、リリアが俺に提示した最初の『聖務補佐』依頼は、まさにカエデとルナの思惑通りだった。
依頼:『暗黒の森の浄化』。街の結界の魔力低下の原因とみられる、強大な闇の瘴気が渦巻く森の浄化と調査だ。
「この森は、闇属性の魔物に汚染されています。ユウトさん、貴方の光のスキルを使って、魔物を弱体化させ、浄化を進めてください」
リリアは俺に、光の魔力が込められた小瓶を渡し、あくまで『聖務』としての役割を強調する。彼女は、俺が闇属性のスキルをコピーすることを恐れているのだ。
「フン、優等生だね、シスター。だが、闇に光をぶつけるだけじゃ、芸がねえ」カエデは不敵に笑い、大剣を構えた。
俺たちは森の奥深くへと進む。森の木々は黒ずみ、瘴気によってできた霧が立ち込めている。リリアの心配はもっともで、この空気は普通の人間では耐えられないほど重い。
「来たわ。ユウト、準備を!」ルナが静かに警告した。
闇に染まった森の奥から、体長2メートルを超える『シャドウ・ベア(影の熊)』が現れた。その全身は闇の魔力で覆われ、光を吸収するような漆黒の毛並みを持っている。
「グアァァ!」
シャドウ・ベアは咆哮と共に、爪に闇の魔力を集中させ、カエデめがけて振り下ろしてきた。
「紅蓮一閃!」
カエデは炎の剣で受け止め、激しい火花が散る。闇と炎の相克だ。
「ユウト!光で援護を!」リリアの遠隔での指示が頭に響く。
俺は反射的に『神聖魔力供給』を右手に集中させた。光の魔力がベアに降り注ぎ、その動きがわずかに鈍る。
だが、シャドウ・ベアはすぐに光を振り払い、体から黒い魔力を噴出させた。
ゴオオオッ!
「闇の防御スキルよ!カエデの炎が吸収されている!」ルナが焦った声を上げた。
その時、シャドウ・ベアの黒い魔力が、周囲の瘴気を吸い上げ、その防御力を高める高度なスキルを発動させた。
【スキル:闇の障壁を模倣しました】
俺の紋章が、今度は漆黒の闇のように輝いた。カエデとルナの思惑通り、闇属性の防御スキルのコピーに成功したのだ!
「ユウト!ナイスだ!」カエデが歓喜の声を上げる。
「すぐに使ってみて!闇と光の複合がどうなるか!」ルナが興奮気味に促す。
俺は躊躇しなかった。闇の魔力と光の魔力、そして炎の魔力を、同時に発動させた。
闇の障壁!
神聖魔力供給!
炎の掌握!
右手に光、左手に闇、そして体全体には炎の力が循環する。
闇の障壁は、光の魔力に触れることで打ち消されるのではなく、光のエネルギーを吸収し、さらに強固になった。
俺は、シャドウ・ベアの攻撃を、左手に発動させた闇の障壁で完全に受け止めた。ベアの闇の爪が、俺の障壁に触れた瞬間、漆黒の障壁が光を放ち、爪の力を吸収したのだ。
「なんてこと!闇の魔物を、闇の防御スキルで受け止めるなんて!」リリアの声が遠隔で届き、その声は動揺と驚きで震えていた。
そして俺は、闇の障壁で動きを止めたシャドウ・ベアの隙を突き、右手の神聖な炎(光+炎)をベアの無防備な腹部に叩き込んだ。
ドシュッ!
闇の防御は、闇と光の複合攻撃によって突破され、シャドウ・ベアは悲鳴をあげて崩れ落ちた。
「見たか、シスター!闇は光で打ち消すだけじゃねえ!闇すらも、ユウトの力に変えるんだ!」カエデは勝利を確信したように笑い、ルナも冷静な顔を崩し、小さな笑みを浮かべた。
俺の心には、カエデの熱意とルナの知的な好奇心、そしてリリアの「これ以上危険なスキルをコピーしないで」という切実な願いが、複雑に絡み合っていた。
俺の『コピーキャット』は、ついに光と闇、全てを支配する領域へと足を踏み入れたのだった。そして、この結果は、聖女リリアの独占契約に、大きな亀裂を入れることになるだろう。




