第11話 聖女の契約と、新たなパーティーの火種
『光の泉』での出来事は、街の噂を飛び越え、光の神殿の上層部にまで届いていた。
光と炎という、相性の最悪な魔力を融合させ、結界の修復を瞬時に完了させた「模倣者」の新人冒険者。その異常な才能は、神殿長を含む聖職者たちにとって、脅威であり、同時に神の奇跡のようにも映っていた。
ギルドに戻った俺たちを、受付嬢がいつもと違う、畏敬の念を込めた目で見つめていた。
「ユウト様、光の神殿より、至急お戻りいただくよう、お達しが出ております」
俺はカエデとルナに目配せをし、一人、神殿へと向かった。
神殿の奥にある、静かで荘厳な一室。そこにいたのは、リリアと、神殿長らしき厳かな老聖職者だった。
「ようこそ、聖務補佐官ユウト君。君の功績は素晴らしい。光の神殿は、君の功績に報いたい」
神殿長はそう言うと、リリアを促した。リリアは深呼吸をし、決意を秘めた目で俺を見つめた。
「ユウトさん、神殿長のご判断で、貴方を正式な神殿専属の聖務補佐官として迎えることになりました。これは、街の結界が貴方の力に強く依存することになったためです」
専属?つまり、カエデたちのパーティーには戻れないということか。
「待ってください、リリアさん。僕は、カエデやルナと…」
リリアは俺の言葉を遮った。
「その心配は無用です。契約には、一つの特例を設けました。貴方は神殿の専属となりますが、**『聖務の補佐』**という名目で、私が指定した冒険者と共に、外部の依頼を受けることができます」
そして、リリアは少し頬を染めて、小さな声で、しかしはっきりと言い放った。
「つまり、貴方は私の管理下に置かれ、私が選んだ者としか、行動できないということになります。…もちろん、私が選ぶのは、カエデさんとルナさんです」
これは、独占欲と保護欲が入り混じった、リリアによる究極の**『囲い込み作戦』だった。
彼女は神殿の権威を利用し、「ユウトは神殿の所有物だが、実質的な運用権は私にある」という、最強の専属契約を俺に提案してきたのだ。
俺は戸惑った。これなら、リリアの安全への願いも、カエデとルナの実戦要求も満たせる。しかし、俺の行動の自由は、完全にリリアの感情に依存することになる。
「リリアさん、それは…」
「ユウトさん、私と『契約』してください。貴方の安全と、貴方の成長、そして…貴方の隣の席を、私が責任を持って守ります」
彼女のまっすぐな瞳に、俺は抗えなかった。俺は契約書にサインをした。これで、俺は聖女リリアの**『専属の補佐官』**となった。
その日の午後。俺はギルドの隅にある酒場で、カエデとルナに契約の内容を説明した。二人は、顔色をみるみる変えた。
「はぁ!?あのシスター、何をやりやがった!」
カエデはテーブルを叩き、怒りを露わにした。「『聖務補佐』という名の首輪じゃないか!ユウトは俺たちのパーティーの人間だ!」
ルナはグラスを静かに回しながら、冷ややかに言った。
「馬鹿ね、カエデ。あれは最も賢い手よ。リリアは、ユウトを安全に自分の側に置くための、合法的な独占権を手に入れたのよ」
そして、ルナは俺を見た。
「ユウト、これで貴方は、神殿の結界修復という、リリアの個人的な魔力供給源としても利用されることになるわ。貴方からコピーした光のスキルを育て続けろ、ということでしょう」
ルナの言葉は正確だった。俺は、リリアの望む通りに動くしかない立場になってしまった。
しかし、カエデは諦めなかった。
「ふざけんな。じゃあ、俺たちはあのシスターの作ったルールの中で、ユウトを盗むしかないな」
カエデは鋭い笑みを浮かべた。
「いいか、ルナ。次の依頼だ。リリアが出す『聖務補佐』の依頼には、絶対に俺たちしか連れて行かせない。そして、そこでユウトに光のスキルとは真逆の、強力な闇属性や物理スキルをコピーさせる。あの聖女のプランを、俺たちの実力で上書きしてやるぞ!」
ルナはグラスを置き、初めてカエデの案に同意した。
「面白いわね。リリアは光のスキルで貴方を繋ぎ止めようとしている。ならば私たちは、貴方の闇の可能性を引き出して見せるわ」
こうして、俺を巡る三人のヒロインの競争は、「合法的な独占」というリリアの策により、「契約されたパーティー内での、能力開発競争」という、さらに複雑で、火花の散る新たなステージへと突入したのだった。




