第10話 聖女の依頼と光のスキルへの回り道
ギルド前で対立する三人のヒロイン。リリアの献身的な願い、カエデの熱烈な誘い、そしてルナの知的な要求。
俺は、馬車に乗ろうとするリリアと、それを引き止めようとするカエデとルナの間で、深呼吸をした。
「みんな、待ってくれ」
俺は、三人の顔をしっかりと見据えた。
「リリアさん、聖務補佐官の誘い、ありがとうございます。僕の身を案じてくれる優しさ、本当に感謝しています。でも、僕は…自分の力で、この世界を生きていきたい」
リリアは目を見開いた。
「ですが、ユウトさん…」
「ですが、リリアさんの気持ちも無下にはできません。それに、僕のスキルを育てるには、色々なスキルに触れる必要がある」
俺は、一つの提案をした。
「リリアさん、神殿の聖務補佐官の仕事。何か、僕たち冒険者でも手伝えるような依頼はありませんか?それなら、僕も聖務補佐官として協力できるし、カエデとルナも一緒に来られる」
リリアは戸惑った顔でカエデとルナを見た。カエデは腕を組み、「チッ、面倒くせえ」と言いつつも、興味を持った様子で静かにしている。ルナは、すでに頭の中で何かの計算を始めているようだった。
リリアは少し考え、小さな声で言った。
「…あります。街の結界を維持している『光の泉』の魔力が弱まっていて、神殿の聖女だけでは修復が追いついていないんです。魔物の瘴気が影響している可能性があり、聖女以外の立ち入りが禁止されている場所です」
「それだ!」カエデが勢いよく言った。「魔物が絡んでいるなら、俺たちの出番だ!」
ルナも頷いた。「結界の修復…魔力の流れを間近で見られる。興味深いわ」
こうして、俺は『聖務補佐官:光の泉の結界修復』という、異例の依頼を請けることになった。それは、リリアの望む安全な環境と、カエデとルナの求める実戦の機会を、一時的に統合するための俺の苦肉の策だった。
『光の泉』は、街の地下深くに存在する、静謐な空間だった。中心には、純粋な魔力を湛えた青く輝く泉があり、その周囲には巨大な光の魔法陣が描かれている。
リリアは、神殿のローブに着替え、厳かな表情で泉の前に立った。
「結界の修復は、光の魔力を扱う聖女しかできない儀式です。あなたたち冒険者は、周囲にいるかもしれない瘴気を持った魔物の侵入を防いでください」
カエデは剣を抜き、周囲を警戒する。ルナは、結界の魔力構造に興味津々で、魔法陣の図面を広げている。
リリアは目を閉じ、祈りを捧げた後、両手を泉にかざした。
「光よ、我に力を(ライト・コネクション)」
リリアの全身から、眩いばかりの純粋な光の魔力が放たれた。それは優しく、暖かいが、戦闘スキルとは程遠い、神聖な力だった。
【スキル:神聖魔力供給を模倣しました】
俺の紋章が、今までにないほど眩しい金色に輝いた。
「っ…!」
俺は息を呑んだ。このスキルは、以前コピーした『ホーリー・ヒール』や『ライト・ウォール』とは異なり、魔力の流れそのものを操る、リリアの核となるスキルだった。
その時、ルナが何かを発見したように声を上げた。
「ユウト!あなたの紋章が金色に光っている!そのスキルは、リリアの光属性の魔力を直接操るスキルね!」
「そうよ、ユウト!このチャンスを逃すな!そのスキルを複合させろ!」カエデが興奮気味に叫んだ。
俺は、リリアからコピーしたばかりの『神聖魔力供給』を、自身の魔力回路に流し込んだ。
その瞬間、俺の全身の魔力が、リリアの光の魔力と混ざり合い、熱と力が増していくのを感じた。
俺は、ルナから教わった魔力制御を駆使し、『光の魔力』と『炎の掌握』を同時に、かつ複合的に発動させた。
右手に、光。左手に、炎。
炎の熱は、光の神聖な力によって浄化され、青白い神聖な炎へと変化した。そして、光の魔力は、炎の力によって圧縮され、より純度の高い結界の補強材へと変化した。
俺は、その「神聖な炎」を、泉の結界のヒビが入った部分へ向けた。
シューッ…
光の結界は、俺の炎によって破壊されることなく、むしろ急速に修復されていく。
その光景に、ルナは目を丸くした。「なんて魔力の複合!光と炎という、相性の最悪な属性を、神聖な力の媒介を通して完全に融合させた…!」
カエデは興奮を隠せない。「すげえ…!ユウト、お前は本当に何でもありだな!」
そして、魔力を放出し続けていたリリアが、俺の「神聖な炎」を見て、驚愕の表情を浮かべた。
「ユウトさん…貴方、私と同じ、光の力を…」
彼女の瞳には、驚きと、俺の力に対する畏敬の念、そして「私の神聖な力を、これほど強力に扱えるのは、私だけだと思っていたのに」という、複雑な感情が入り混じっていた。
結界の修復は、俺の予想外の介入により、瞬く間に完了した。
俺は、献身的な聖女が持つ、最も触れがたい光のスキルを、戦士と魔導士の助言を受けながら、自分だけの方法で手に入れたのだ。
俺の異世界での物語は、「聖女の領域」にまで足を踏み入れ、さらなる深みへと進んでいくことになる。




