『龍災』終章
俺の中で、何かが切れる。そう、切れてはいけない何かが、踏み切れた音がした。
多分だけど、ここが分水嶺。人として、超えてはいけない所を、今越えようとしている。
ここを越えれば、戻ることは出来ない。そんな気さえしている。でも……
殺されたのだ。殺さねば。
殺意を向けられた、殺さねば。
ーーただ、生き残るために
「ハハっ……」
俺は、今、ちゃんと笑えてるか?
再構築した体を確かめるように、所々を動かしたり伸ばしたりする。
特に違和感なく、きちんと動いた。どうやら不具合は、無いようだ。
「ーーよし」
足を一歩踏み出す。
「何をーー」
レビィンのすぐ隣で、暴風が巻き起こった。地面が大きく破れ砂埃が舞い散る。振り返るために、体をひねるが、首だけが重力に従って、ストンとその場に落ちた。
「ーーやっぱりか」
彼の顔には、落胆したような表情が映っていた。
落ちた首を、髪の毛を掴んで持ち上げる。血が少し落ちるが気にしないかのように、切れ口に首を押し付ける。
メチメチと音を立てて、切断された首は繋がった。
「今の何かしら?知らないうちに、斬られたのだけれど?」
首が繋がったのかを確認するかのように、回しながらベアルに問いかける。片手には『円滅』を握っており、引き摺りながら迫って来る。
「いやなに……俺はちょっとした、勘違いをしてたみたいでな。それが今、正したってところだな」
ベアルも、右手に触れたものを凍らせる魔剣を握って……分解した。
「は?」
目の前でいきなり、自身の武器を消すという奇行に走ったベアルを見て、レビィンは呆気に取られる。
そして分解した後、なぜか右腕を横に振るった。剣を握っているかのような動作で、空を切り出す。手から砂のような物が舞い散るが、それ以外は無かった。
辺りを警戒するが、特に何も起きはしない。
「俺がサマエルから貰ったスキルの名は、『神の悪意』って言ってな。ぶっちゃけ、そんなに強く無い」
レビィンは足を止めてそれを聞く。興味は少しあった、今までの結果が彼の良いように出ていた理由が知りたかったからである。彼女の周りを、風が吹いていく。
「このスキルは、ある理由で二つに分かれていたらしいんだけどなーーそのうちの一つは俺にあった。だけどまったく使いこなせなかった」
「まぁ、強いんだろうけど、『よくわからない』それが俺が抱いた感想だったよ」
彼女は困惑していた。敵に隙を見せて、わざわざ自身の能力の説明をしている。何がしたいんだと、彼女は思っていた。
「ついさっき、ようやくわかったんだ。遅いくらいにね、この能力はねーー」
そこで彼の言葉が止まる。どういう事かと、レビィンは顔を顰めるが、次の瞬間ズブリと異物が入り込んだ。
「ーーえ?」
刺さっていたその剣は、先ほどベアルが分解した剣だった。
真紅の刀身が、レビィンの血でさらに紅く染まっていく。血が滴る代わりに、凍てついていく、彼女の体も、魂さえも。
「この剣の能力について、アンタは何も知らない。そうだろ?」
この剣を初めて使ったのは、レビィンが死んだ後の天使が襲ってきた時。そのため、彼女は知らなかった。その剣が、自身の天敵のような能力を持っている事を。
凍って、死んでいく魂を止める術は無い。直感で感じる、これは死んでしまうと。しかし、彼女に一つの疑問が生じる。
(いつ、剣を刺した?)
震えて。凍っていく魂と自身の体を見て、一番にそれを考える。
すると、何を察したように、ベアルが口を開く。
「最初にこの剣を分解したのは、風に乗せるために分解したんだ」
そして彼女は彼がやったことに、合点がいった。
「俺がやったのは、『砂の大きさに分解した、コキュートスを『神の悪意』の能力で起こした風に乗せて、レビィンの周りで再構築』って感じだな。刺さったのは、偶然だな当たれば勝ちなんだし」
そしてレビィンのところまで、歩いてやって来る。そして彼女の背に出ている切っ先に触れて、また分解する。
手元にまた、真紅の剣がその姿を表す。
ベアルはそのまま、凍っていくレビィンに背を向け、帰ろうとする。
その隙を狙ったのか、レビィンが手にしていた『円滅』を振るって、ベアルにその鎖が迫る。
「そう言えば、それも……」
「ーー処分しなきゃね」
そう言って、自らの左腕を盾にする。
鎖が、鈍い音を立てて腕に巻き付く。触れた部位から、呪いが体に入って来る。
皮膚が変色し、ドロリと溶けていく。肉が溶け骨が見える、しかしベアルは、顔色ひとつ変えず、もう一度剣を分解してーー
ーー左腕に突き刺した。
突き刺すと同時に、ベアルは右手で『円滅』と自身の左腕に同時に触れる。
「『神の悪意』『錬金の王』」
同時に唱えると、呪いに侵食されていた左腕が、分解され消えていった、巻き付いていた『円滅』と共に。
「!?」
その一連の行動に、レビィンは怖気を感じた。これが凍てついた体のものかどうかは、定かでは無い。
自らの体の欠損も気にしないようになってしまった、まるで機械のように淡々と自身がするべき事をし続ける、人形のようにも思えた。
「呪いが……なんで、効かない!?」
体を、魂を侵食する呪いを受けてなお、平然としているベアルに疑問を持って、声を荒げる。
ザンッと地面に落ちたコキュートスを、右腕で持ち上げる。バランスが取れないのか少しよろめく。
切り落として、断面が凍っている腕を見て、俺の心は何も動じない。不思議なほどに、多分だけどこれが本当の俺なんじゃないかと、そう思ってしまうほどに。
「この剣はね、魂に作用するんだ。現に、君の体だけでなく、魂にもちゃんとダメージは言ってるはずだよ?」
ーーこの男は、狂っている。
「誰でもできる……簡単な事さ。魂に呪いが回る前に、侵食された所を捨てればいい」
魂の切断と腕の分解を同時に行なった理由だが、常人がやれば己の魂を殺す、自殺行為になる。
そうならないのは、彼に『神の悪意』があったから。
『神の悪意』で強化された『錬金の王』で凍らせた魂ごと分解したのだ。
通常では出来ない芸当であるが、『希望』であった時では出来なかった。
『憤怒の王』として覚醒した今でなければ、失敗していただろう。
ただ凍って、死を待つだけの彼女を見下して、彼はただ……
ーーあぁ、何も感じないな
順当に壊れかけていた
えー常日頃、『黒鉄戦士の冒険録』を見てくださって、ありがとうございます。
今話を持ちまして一度、連載休止とさせていただきます。
次は『復讐狂気の不等録』の方を書こうと思うつもりです。おそらくですが、二年以上は番外編を除いて、更新しないと思いますので、どうかご了承ください。
完結までのプロットはすでにあるのですが、それだと他の作品のネタバレになってしまうので、ここで休載します。中途半端な所で終わってしまうのは、心苦しいですがご理解いただけますようお願いします。
それでは、ここまで見てくださった読者の皆様。ありがとうございました。




