『龍災』呪い
この世界には複数の“呪具”と呼ばれる物があった。
それは、いつ、どこで生まれた物かは定かでは無い。しかし、どれも強力な能力を保有している、一級品であった。
扱えればの話ではあるが……当然、“呪具”には呪いが持ち主の魂を容赦なく喰い破ってくる。
呪いを扱える人ですら、滅多に使用しない、使いたく無いと言うほどの物である。それ故、全ての“呪具”の効果がなんなのか、わからないままである。
この“呪具”たちは長年、観賞用以上の価値はなく、最早武具として扱われた事は、片手で数える程度のことである。
持ち運びにすら、死刑囚を使ったと記録にある。
結果、“呪具”の使用方法は拷問か、処刑の二択になってしまった。
その残虐性と、誰も使えない物の危険性により、多くの国では“呪具”の研究、使用、所持するだけでも罪に問われるようになった。
ーーもし、もし“呪具”を誰でも扱える方法があるとしたら?
いつからか、誰かが唱え始めた理論。それは、およそ人間の口から出てはいけない、仮説と実験。その方法だった。
時代は流れ、呪いを扱える“王”が現れる。『嫉妬の王』、ガブリエルであった。
彼女だけが、ほとんどの“呪具“を唯一使う事ができた。そして、扱えてしまった事により、理解した。そして彼女は、“呪具”を破壊した。
それはあまりにも危険すぎたのだ、個人はともかく、国という組織でも使用を禁じてしまうほどの能力を持っていた。
だがしかし、危険すぎてこの世界に残った“呪具”が存在する。
壊すメリットより、残すメリットの方がはるかに良い物。だからガブリエルは、それらの“呪具”を世界各地に隠してしまった。
そのうちの一つが、『円滅』であった。
鉄の匂いが、鼻の中に充満する。
今、すぐ横を鎖が通り過ぎていく。僅かに回避が遅れ、頬をかする。
鎖に絡まった血が糸を引いて、地面に一条の赤い横線を作る。
ベアルが負けじと剣を振るうが、その全てが鎖でいなされ、その鎖を断つ事が出来ない。
魂までも凍らせる魔剣が呪いに押し負け、鎖を冷気が侵食する事は無い。
「チッ……面倒だな、その呪具」
触れれない、鎖が囲う円の中にいてはいけない。その二つが、ベアルの判断を鈍らせる。
『円滅』はレビィンから供給される、極端な量の呪いによって、呪具そのものの耐久性が大幅に上昇。
結果、【墓標剣】の効果を退ける程の呪いがこもっている。
目の前には『円滅』の先端ーー六角形の形をした分銅がある。そこから、まるで瞬間移動したかのように、目の前にレビィンがいた。
「しぶといわね……アンタっ!!」
そう言いレビィン本人が、接近して攻撃を始める。
これだ。触れれない呪具よりも、このワープが面倒なのだ。
そして、ベアルを抱き抱えるように、背中に手を回す。妖艶な表情を浮かべるレビィンの手元にはもう一つの分銅が握られてーー
ガチン……
その音が聞こえた瞬間、光が曲がった。
『円滅』と呪具に触れているレビィンを残して巨大な空洞ができていた。
「あっぶねぇ……」
ベアルは咄嗟に手にあった剣を地面に突き刺して、ギリギリのところでレビィンの抱擁を回避していた。
「冗談じゃねぇぞオイ……こんなの反則じゃねぇか」
ベアルは歯噛みしていた。現状、ベアルはレビィンを攻撃する事は出来ない。無力化しようにも、彼女の戦闘力の高さと何よりも、手に握られた『円滅』が邪魔をする。
レビィンは、また投げられた事にイラついたのか、体から出ているたくさんの口が微妙にだが、震えていた。
震えを止め、またたくさんの口はベアルに対する、罵詈雑言を言い出した。
「ぶっちゃけ、攻撃よりも悪口の方がダメージが大きいんだけど」
『なんでお前が』その言葉が、ベアルの精神を必要以上に傷つけてくる。過去の、自分の失敗をまた突き付けられるように。
記憶に残っている。マギの死に顔。それがどうしても、頭から離れない。
その思考に割り込んで、分銅が飛んでくる。甲高い音を鳴らして、ベアルは剣で分銅を弾いていた。
そこからは、互いに言葉はいらないと話す事なく、いや話す事を拒絶するかのように、猛攻撃をレビィンは仕掛けた。
右、左、上、下、様々な角度からの攻撃。触れれば、致死量の呪いがベアルの体を、めちゃくちゃに壊すだろう。しかし、ベアルはある異変に気づく。
それは、彼女の頭にある大きさが不揃いの角。
サマエルの記憶が正しければ、ガブリエルの角は二本とも同じ長さで、立派な黒い角だったはずだ。
つまりーー
「レビィンは呪いを完全には、扱えてない」
それは、小さな変化。しかしそれは、ベアルの予想を確かなものに変えた。
静かに一つ、彼女の体から口が消えた。




