『龍災』もう一度
今年最後の更新です。お願いします!
「【大罪狂化】『憤怒之王』」
現れたのは、ルシファーのように背中から大きな羽を生やしている。しかし、そのルシファーと比べると、その羽は赤黒く変わり果てていた。
その色は自身の罪と、彼が背負ってきた所業を体現したかのように、殺めた者の血のように怒りと怨嗟が混じっていた……
ーー黒である
ベアルは、変わり果てた自身の体をじっくりと観察して、レビィンに空けられた胸の穴も塞がっているのを確認する。
「なんだよ……あいつ……」
ベアルの中に溢れて止まないのは、サマエルの記憶。
ーーただ一つの為に己を捧げて続けた、どうしようも無い記憶
彼が生きた軌跡を、数瞬で感じ取る。“従順”“理解”“慈愛”“決意”“対峙”“安堵”“受難”“友情”“失意”“希望”“勇気”そして……
ーー“焼死”
最後に見たのは、耳が聞こえない青年が、サマエルの首を掻き切った所だった。
「ーー短い付き合いだったけど、ありがとな……相棒」
サマエルの記憶を感じ取った後、ベアルの体に変化が起こる。
背中から生えた黒い羽に、一閃の赤色の線が燻るように光り出した。
「こい……『憤極之寒剣』」
空中からその刀身を顕したのは、魂までも凍る真紅の短剣。
その手に収めると空気を凍らせる感覚を、持ち手越しに感じる。
ベアルは、静かに構えた。
「サマエル……って言うわけじゃ、なさそうね。彼は、何処に?」
レビィンは震えた声で、目の前で構えるベアルに問いかける。
「悪い……アイツはもう、消えちまった」
彼女は大きく目を見開いた。少し過呼吸気味で、ふらつきながら頭を抱えていた。
「どうして?なんで、まだ、お礼が言えてないのに……なんで!!」
あまりのショックで膝から崩れて、涙が流れる。その瞬間彼女の体から、ドス黒い瘴気が辺りを包む。
「レビィン!!」
ベアルが剣を片手に、黒い瘴気の中心にいるレビィンの所に駆けつける。
しかし、彼女の手をとれる寸前で、ベアルが引き離そうと手を伸ばす。
レビィンがその手を握りかけて……
ーー静かに突き離す
すれ違う彼女の両目には、“嫉妬”が写っていた。
「ーーそれは長い、長い、感情の連鎖」
ありえない、本来なら保持していないはず。
ベアルが感じたのは確かに『嫉妬の王』の力
「時に、他者を、思い、想い、憶い、そしてそれは『呪い』に変わる」
ベアルが『憤怒の王』として、完全に覚醒した事により、ベアルにあった『嫉妬の王』が失われる。
本来なら、一人の現し身の中に二人と“王”が入る事は出来ない。
しかし、ベアルにあった『憤怒の王』が片割れであった事と、ベアルが『ーーの王』の現し身である事が原因であるが、『憤怒』が一つになった事によって、『嫉妬』がベアルの中で存在出来なくなった。
ベアルがいかに『ーーの王』であったとしても、あのスキルが無ければ、二人の王をその身に宿す事は出来ない。
「ーーそれは激情の、あまりに短く、長く続く、感情」
なら、追い出された『嫉妬』は何処へ行くのだろう。
目の前に、いるではないか。“竜人”となり複数の魂が混じったが、根幹となる部分は変わらない……
ーー嫉妬の現し身が
「それは、“嫉妬”であったと、誰かが言った」
「【大罪狂化】『嫉妬之王』」
レビィンの体から出ていた瘴気が弱まっていく、黒のモヤから出てきたのは、頭に不揃いの大きさの角であった。
不自然な【大罪狂化】を成功させた。
「マジかよ……」
その様子を、ただ見るしかなかったベアルは、もう既に戦闘態勢に入っていた。
地面を抉ってこちらに来る、ゆっくりではあるがすぐそこに居るかのような、そんな錯覚さえする。
背中に冷たい汗が流れる、感じるのは不快感。まるで体の中を虫が、走り回っているかのような感覚である。
空気の湿度が、僅かに上がっているように思う。彼女から漂う湿った雰囲気が、ベアルの体にまとわり付く。
「……ねぇ。どんな気持ち?」「私を殺して」「好きな人を消して」「なんで」「貴方だけ」「人殺し」「どうして?」「お前ばっかり」
彼女の体から、粘りつくように言葉を発し続ける。体には大量の口が開いていて、一斉に不快な声を出し続ける。
「なんだよ……これ」
彼女が歩いた場所は、ボロボロと崩れていく。『呪い』の過敏供給によって、形を維持できていないからである。
目の前でブツブツと、誰かに対しての文句を言いながら、突然ヌルリと距離を詰めてくる。
右手に握られているのは、やけに刀身が長い片刃の剣。しかし、直感でそれを避ける。
その後一呼吸もつかずに左から、ジャラリと音を立てて鎖が顔めがけて伸びてくるが、ベアルが避ける前に自らベアルを避けて通る。
その後、伸びた鎖の先端がレビィンのすぐ近くにまで帰ってくる、ベアルの体勢は左に大きく傾いていて反撃は難しい。
しかし、ベアルの頭に警鐘が鳴り響く。
(あの鎖をレビィンの所まで行かせてはいけない)
だがベアルは今動けない。だから、この手は賭けになる。
鎖の端と端が、重なる時。ガキンッと何かに阻まれる。そこにあったのは……魔石であった。
『衰』との戦いで残っていた魔石を、重なる瞬間の鎖の間に入れたのだ。
ただ魔石を投げるだけでは当たらないと思い、ベアルは『神の悪意』を発動し自身が起こした現実を改編する。
魔石が砕け、ベアルが体勢を戻しながら剣をレビィンに向かって、振り下ろす。
しかし、当たる寸前でレビィンは後ろに飛んで回避する。戻ってきたら鎖が、お互いの端に繋がらずすれ違う。
レビィンが後ろに下がったのを見て、ベアルは一目散に自分を囲うように、伸びている鎖から脱出する。
「チッ」
レビィンの舌打ちが聞こえてくる、ベアルはかなり焦っていた。
「その反応は、やっぱりそう言うことかよ……そりゃ『円滅』だろ?なんでその呪具を、お前が持ってる」
『円滅』という呪具は、この世界に残ってしまった呪具の一つ。
この呪具の効果は、『鎖の端と端を繋げることで、その中にいる物を消滅させる』という効果である。
「何処で、その呪具を手に入れたんだ」
鎖がレビィンの手元に戻る。右手には片刃の剣、左手には『円滅』
「そもそも呪具自体、ガブリエルがほとんどを壊して、残ってる物も隠したはずだ」
「そうね。でも、『円滅』は“悲嘆”と名乗る男から渡された物よ、出所はよく分からないわ」
肩をすくめて、やれやれと言った様子でレビィンは話す。しかし、ベアルはある別の違和感を感じていた。
「お前の……その戦闘能力の高さはなんだ?まさか復活してら、勝手につきましたとかは、言わないよな?」
すると、彼女は少し意外そうな顔をして、口の一つを動かす。
「“513”……何の数か分かる?」
その問いに、ベアルはただ、首を振るだけである。
「私の、魂に纏わり付いている、魂の数よ」
「私は“竜人”の中でもかなり特殊らしくてね、自身以外の魂の経験を技術を引っ張り出せる、少ないけど前例はある、その事を……『鼓霊術』そう呼ばれてるらしわよ」
ここで合点がいく、そもそもレビィンは接近戦が、そこまで得意というわけではない。むしろ苦手ですらある。
彼女は剣を構える。“自分”を押し通すように。
曲げたくないものがあるから、彼は剣を構える。
『龍災』の終わりは近い……
サマエルはもう二度と戻りません。
それでは皆さん、良いお年を




