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その玉座に居座る者は、誰よりも傲慢であった 其のニ


「【大罪狂化(セブンス)】『傲慢之王(ルシファー)』」


 そう言った瞬間、ルシファーの体が変化する。元の人間のような体からはかけ離れてはいないが、大きく違うと言えば背中から大きな二対の翼が、純白の羽を纏っている。


 そして服装が、白に統一されたゆったりとしたローブを身に付けていた。


「この姿になるのも……随分と久しいな」






 【大罪狂化(セブンス)】とは、“虚飾”直系の大罪の名を冠する“王”のみが扱える切り札。


 一部例外はあるが、“六王”達は自身の肉体を持っておらず、相性の良い“魂“を持つ人間の体に入り込んで『現し身』とする事で、扱うスキルに自身の“魂”を埋め込む事で、存在を保って来た。


 通常、“六王”達は『現し身』との関係上全力は出せない。ベアルが異常なだけで、本来なら権能と同じく『現し身』の魂を擦り減らし破滅に導く。

 それを避ける為、あえて力を抑えて人間の体が耐えられるギリギリの、大体六割程度に収まるように調整している。


 【大罪狂化(セブンス)】はいうなら劇薬である。読んで字の如く、一度発動すれば狂ったように『現し身』の魂が崩壊する。しかし、恩恵は計り知れない。


 『現し身』では六割程度しか能力が扱えなかったが、【大罪狂化(セブンス)】状態だと瞬間的に十割以上の出力が可能になる。しかし、発動した時点で『現し身』の魂はかき消え、スキルの中に封じられた魂が、元の形に戻る。


 いうならば、能力を最大限に扱う為に、体を、魂を“六王(彼ら)”に成り変わる行為なのだ。


 そして、ルシファーは例外に値する。


 “六王”達が何故、スキルに自身の魂を埋め込んだのか……その理由は寿命の壁である。


 圧倒的な力を誇った彼らでも、“時間”には逆らえない。しかし、ルシファーは天使という種族。寿命という概念が存在しない。それ故に『現し身』を欲することもない。

 しかしそれが、彼に孤独を強いた。


 仮初とは言え、“平和”を保つこの世界にもう“王”は必要無い。そんな事を、心の奥底でうっすらと感じていた。


 何度、誰もいない円卓に一人腰を下ろしたのだろう。

 何度、寂しさを紛らわせる為に魔法を納め続けたのだろう。


 それも、もう良い。今はただ……


「死ね」


 ーーこの時を楽しもうと、そう思う。


 








 



 「『彩る微光、夜に抗う一粒の星』」


 いつもなら名前のみを唱えるはずなのに、何故か唱えて魔法を発動させるルシファー。これには魔法と魔術の関係性が理由である。


 魔術とは、魔法の元となった技術の事。魔法陣などに魔力を通して、魔法を使用するそれが魔術。


 魔術は、発動にまでラグが少しある事が欠点ではあるが、それをカバー出来る『応用力』と『創造性』が高い。

 例えば、体の中に魔法陣を埋め込んだり、武器や家具にも魔法陣を仕込んだりする。


 魔法陣とは、考え、イメージし、それを纏めて、一つの絵のようなものである。

 人それぞれで込める魔力の量、質、クセ、陣の書き方まで、個人を特定する事すら可能である。しかし、複雑化してしまった魔法陣は、解読が不可能になる。それこそ『魔術師』でも無い限りわからないだろう。


 そのため生活を営む上では便利ではあるが、こと戦闘においては遅れを取りやすいものだった。そして、長い年月をかけ、幾度の改良を加えた結果、魔法陣を無くし、()()()での魔法の使用を可能にした。


「『(ソラ)を薙ぐは流星。(ソラ)を支えるのは月影』」


 要するに、この世の魔法全ては、()()()()()()()()()のだ。それもそのはず、この世界にある魔法の大元は魔法陣。そもそも詠唱を必要としないのだ、だが時が経つにつれ魔法は廃れていった。


 理由は、魔法陣が消えた事によるイメージの不足。昔の人が魔法陣を描いた理由が、『イメージを確固たるものにする為』だからだ。魔法もそれにと同じような物。


 イメージする力が無ければ、魔法は発動しない。


「『(ソラ)を焼くのは天日』」



 そして、間違った知識が広がっていく。


 ーー魔法は詠唱が必要だと


 本来は詠唱は必要無い。魔法使いが詠唱をする理由は、イメージを強める為と魔法そのものの威力を上げる為である。その代わり、詠唱中は動けなくなってしまう。


 魔法の詠唱は、長いか、イメージが確固したものであればある程、効果を発揮する。


 しかし、ただ長いだけでは意味が無い。詠唱は、イメージを強める暗示である、そのため発動する魔法と関わり深い物、現象でなければ詠唱として認められない。


「『日輪。月輪。そのどちらにも関与せず……我は』」


 ゆっくりと、下げていた手を真っ直ぐに伸ばして、目の前でルシファーに見惚れている少年に、音もなく指をさす。


「『一等の輝きを放つ……唯一の星である』」


 その指先に、パッと魔力が集まる。小さく、か細い光は、その詠唱を受けて通常よりもさらに巨大な“光”になる。


「『一等星(シリウス)』」





 それはいつの時代も変わらない、不変の一等星(極光)であった。















 ジャラリ


 『衰』との戦いが終わり、リシュナ達の所に戻ろうと歩いていた時であった。ベアルの耳に重い、重い鎖の音が聞こえる。


「あ?」


 急に体に激痛が走り出す、何があったのか目をやると……体に鎖で不恰好に繋がれた分銅が、肋骨を押し除けめり込んでいた。


 めり込んだ所から、繋がれた鎖を通じてボタボタと赤黒い血が、こぼれ落ちる。


「なっ……にがっ」


 慌てて鎖を引っ張って、無理やり引っこ抜く。さっきまで意思を持ったようにベアルの胸を貫いた時とは違い、力無く重厚な音を立てて地面に落ちる。


 ポッカリと穴が開き、胸から溢れる血が衣服を伝い、汚していく。


 穴は肺にまで到達していて、肺の中にも血が入り込んで、呼吸をするたびに異常な痛みで、動けなくなる。


 痛みに悶えて、その場でうずくまる。すると、どこからか足音が聞こえる。



 それが、ゆっくりと近づいて来る。


 その音に何故か、ベアルは反射的に顔を上げてしまった……その事を後悔するとも知らずに。


 体に大量の武器を巻き付け、歩く度に金属が擦れる音が出る。その姿は、ただの普通の女の子に見える。


 その子は、体にある武器をまるで重さを感じないかのような足取りで、ベアルとの距離を縮める。


 力無く地面にあった鎖が、再度命を吹き込まれたように、彼女の手元に戻っていく。

 ジャラジャラと音を立てて彼女の手に収まる、鎖を掴んだ瞬間、軽く振り抜き鎖についたベアルの血を吹き飛ばす。


 吹き飛ばされた血が、ビチャリと音を立てて地面に赤黒いシミを作り出す。


「お前は……っ誰だ!!」


 口の端から血が溢れる、痛みで視界が朦朧とし、掠れ始めた意識の中、ベアルは懸命に戦闘態勢に入る。


「私?おかしいな……一応、幼馴染なんだけど。まぁ覚えてないか」


 ベアルの顔からサッと、血の気が引く。

 

「なんで……お前が……」


 だってあの時、確かに消えたはず。あの迷宮(ダンジョン)で君は確かに……


「もう一度、名乗った方が良いのかな?」


 その“竜人”は、にっこりと笑う。まるで仲の良い友人のような態度である。


「どうして、そこにいるんだ……」


 目の前にある人は、俺が、守りたくて、守れなくて、それで死なせてしまった……ベアル(この体)の幼馴染。


「レビィン!!」


「うん。久しぶり、ベアル」


 黒の装束で全身を纏い、右手に鎖を握り直し相対する。


 ーー絶望の歌が、聞こえ始めた。

 



 この世界では、どんな魔法でも無詠唱での発動が可能です。しかし、明確なイメージを保たないと上手くいきません。

 

 結構激しい戦闘の途中に、そんな事を想像できるかと聞かれれば、まぁ無理ですよね。だからこの作品では、よくある詠唱は省ける、又は無詠唱の方が強い。というのに疑問を感じて、自分なりにの解釈をしてこのような設定にしました。

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― 新着の感想 ―
肋骨と肺とそこから出てくる物の描写かなり痺れました。 ありがとうございました
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