その玉座に居座る者は、誰よりも傲慢であった 其の一
「どけと言っているのが……聞こえなかったのか『支配の王』?」
もし、この場に数百人の人間がいたのなら。その全てが、身分関係なく頭を垂れていたのだろう。
ーーまるで見下ろす事を、同じように立つことすら許されない。
対等では無いと、世界が指を刺す。それほどまでの威圧が彼にはあった。
「まぁ、正直なところ。代わって欲しかったと思ってはいたが」
「能力は?」
「あぁ。おそらくだが、『一定時間での適応』と言ったところだが、一回の適応で俺の『支配の王』がダメになった。その理由は分かってはいない。以上だ」
ルシファーの急な質問に、簡潔に答えるドミニオン。焼かれた半身を引きずって、ルシファーの隣にまで歩いて行く。そしてすれ違いざまに。
「何分で勝てる?」
「分もいらん」
そう吐き捨て、ドミニオンは最後に苦笑しながらルシファーに倒れ込んだ。それを優しく抱き留め
「よくやった。後はいい」
そっと、意識の無い体を地面に丁寧に下ろした。
「さて……」
急ではあるが、“悲嘆”について少し語ろう。
この世界の歴史において、“悲嘆”が成した事は……何一つ無い。不思議な事に、何も無いのだ。
それだけではなく、“悲嘆”がどこ出身か、どの様な戦い方をするのか、どんな能力を持っているのか、どんな声で喋るのか、髪の色、性別、所属。一切が何も記されていない。分かっているのは、“魔人大戦”という戦いを起こしたのみ。
残っているのは伝承のみ。それも“悲嘆”という名前のみである。それ故に、“悲嘆”の情報やそれに関係する物は価値があまりにも低い。それは、“悲嘆”の伝承が曖昧すぎて価値をつけようにも、つけれないからだ。
それでも、ルシファーは“悲嘆”の情報を集め続けた。無駄だと分かっていたはずなのに。それでも一つ、長い年月をかけて“悲嘆”の姿を描いた壁画が発見される。それには、大きな壁に一人。ポツンと立っている人影が写し出されている。服装はそこまで豪華ではなく、手には何も持っておらず、首だけをこちらに向けている、肝心の顔は何故か黒く塗り潰されていた。
その姿を見たルシファーは、恐怖を感じた。
この光景は何を意味するのか、何を思ってこれを描いたのか、彼は巨大な壁の前で何時間もそれを見続けた。
つまり、何が言いたいのかというと“悲嘆”に関係する事は、ルシファーにとってかなり重要であるという事。
「その能力。『胎』の権能だけではあり得ない適応の速さ。“悲嘆”が関わっているのだろう……まぁつまり、今から検証といこうか」
雰囲気が変わる。空間が軋む。生物が悲鳴を上げる。
“六王”のうち、二番目の“王”の全力が今、モルモットに向けられる。
「ーーそれは、至高の王座であった。数多の者がそれに焦がれ、手に入れようとするが誰も届かない」
「ーーそれは、数多の屍の上に建っていた。我先にと他者を踏み付け、殺めて行く……脆い骸骨の上に建っていた」
「ーーそれは、太陽のように照らし続け不可侵を創る。そこに一人、我が物顔でその椅子に堂々と腰を下ろしたーー」
「ーーその玉座に居座る者は、誰よりも傲慢であった」
「【大罪狂化】『傲慢之王』」
その姿に確かに見惚れていた。玉座よりも輝かしい貴方に。
あぁ、その足が地面につく事自体が、目の前で息をする事自体が、目の前の“当たり前”全てが彼の機嫌を伺っている。
異常が分からない。理解出来ない。彼が正しいと言ってしまえば、それが正しくなると、そんな錯覚さえしてしまう。
そして、ゆっくりと口を開いていく。それは万物が喝采を上げる、“玉音”であった。
「跪け、この我に」
世界が、宇宙が、物体が、生物が、空間が、頭を垂れたその瞬間だった。




