『龍災』届かない思い。
何故、今。この事を思い出す……
初めて会ったあの日の事を、顔も、声も、味も、匂いも、もう分からないはずなのに。
爆煙が、部屋に充満する。視界が白に染められ、先がよく見えない。代わりにと銃声が、教会の中で響く。
「ちっ!!」
ガキンッ……と手にした小銃から、何かが引っかかる感触が伝わり、弾切れの音が鳴る。
直後、自身の左腕が空に投げ出される。“悲嘆”による無作為の斬撃。魔力糸を高速で射出したそれは、音もなく、痛みもない。
ただ結果を見てフェルは残った右腕の手のひらの上で、手榴弾を作り出す。
さっき投げた物よりも、火薬の量は少ない。たとえば兵士の鎧のすぐ近くで爆破しても、特に怪我なんてしないだろう。
まぁ、少しはへこむだろうけど。
「……」
その手榴弾のピンを歯で引き抜いて、歯に少し痛みが走るがそれを無視して、首から口元まである布を下に引いて、手に握っている手榴弾を口に咥える。
「……ふぎか」
一言。咥えている手榴弾のせいで、何を言ってるのかは分からないが、その一言をつぶやいた後、フェルは顎から上が爆散し、次の瞬間を迎えなかった。
『世界』は巻き戻る。全てを無かった事にはせずに、“次”を強要する。
襲いかかる魔物を、一筋の光で焼き殺す。彼が一つ呪文を唱えれば、数百の死骸が積み上がる。彼は“傲慢”に命を潰す。
「おい、ドミニオン。アレをどう思う?」
ここは、“魔境”傲慢の国。この国の王であるルシファーの目線の先には、いまだに魔物を産み続けている『胎』の姿がある。
その姿は何かに取り憑かれたように、手を抱え顔を下に向けて、うめき声を上げていた。
「さあな、俺に聞かれても。よく分からないと言うしかないだろ?」
腕を組んで、ただその光景を俯瞰する『支配の王』。その体はいまだに火傷の跡があり、欠損した部位はまだ再生が終わっていない。
「『胎』と呼ばれる『星』の一部は確か、『魔物を産み出し続ける』という単調なものだったはずだが……あれは何だ?」
その光景を見たルシファーが、その顔に焦りの表情が見える。
出て来た……いや、『胎』の肉体を食い破って出て来たのは、一人の少年。
見た目はただの普通の少年なのだろが、いかんせんその体が悪過ぎた。
まるで、食ったものを吐き出したように、体の至る所がグズグズで今にも崩れてしまいそうに見えてしまう。
口をパクパクと動かし、何かを言おうとしている。それでも……
ーーまず顎が無かった。
次に呼吸をしようとするが、その体には内臓の一つも残っていなかった。
腕は腐って溶けており、ポタポタと腕だったものが滴り落ちる、腐敗臭があたりに漂う。
何を思ったのか、手を二回握っては離し、握っては離す。そして、真っ直ぐとルシファー達がいる場所に目を向ける。
「……」
「嫌な予想が、当たったな……あれはおそらく、権能の理解を深めたのだろう」
『胎』の二つに裂けた遺体を踏みつけ、ゆっくりとした足取りで、こちらに歩いて来る。
「『一等星』」
その歩いて来る少年に狙いを定め、打たれるのは致命の一線。それを彼は、ただ手で振り払った。
相手がただの魔物であれば、十分に撃退出来ただろう。
しかし、一つルシファーがミスを犯したとするならば、それは『胎』の能力を一部誤解していた事だ。
『胎』の権能は『魔物を産み出す能力』であるが、これには大きな弱点があり、それは魔物を産み出す母体が死亡した場合産み出した魔物の全てが共倒れになるという事である。
そしてルシファーがしていた“誤解”というのが、『胎』の権能は魔物を産み出すだけでは無く、これ以上自身が産んだ子供達が死ぬことが無いように、【強化】と【適応】を繰り返す。
そして、それは産まれてきた。数多の兄弟の遺体を積み上げて、母の遺体を踏みつけて、それは産声を上げる。
「クヒッ……」
しっかりと己が定義される。グチャグチャだった体が、まとまりを得て“少年”は“怪物”に変容する。
すると複数の視線を感じてしまう。目の前のルシファー達を見てニチャリと、歪んだ笑みを確かに浮かべた。




