5000pv突破記念『黒鉄戦士の冒険録〜シラナイ異世界でもがんばって、生き延びようと思います〜』
ーー目が覚めるとそこは、何の変哲もない小さな村だった。
まず初めに目にするのが、目の前にある木で簡単に組んだ、ボロボロの門のような物だ。
「おにいさん?どうしたの?」
小さな少女が、こちらを見上げて首を傾げる。
何が起こったのか、彼にはよく分からなかった。
「あ?あー、すまんお嬢ちゃん。ここってどこだっけ?」
ようやく自身が置かれた状況を理解し、彼は一度周りを見渡した。
それと同時に、足りない頭を回して状況を整理する。
(確か、変な部屋に入ったかと思えば、誰かと話したはず……)
「あ」
そして、思い出した。それはベルフェゴールと名乗った男のお願い……
「確か……ある女の子を守って欲しいんだっけ?」
「急にどうしたの?あたまこわれた?」
「オイオイ、初対面の人に結構言うな!この子」
ハァ、とため息が二人の間に微妙な空間を作り出す。しかしながら、そんな“空気”を彼は読めなかった。
「ごめんっ!お嬢ちゃん。この町?村であってる?まぁとりあえず案内して欲しいんだ」
「おにいさん……旅人なの?」
「ん?あぁ、まぁそんなとこだな」
少女は少し怪訝そうな顔をした後、男の手を取って軽く引っ張る。どうやら案内してくれるそうだ。
「ありがとさん、っと」
「……」
案内してもらった村は意外にも静かで、ゆっくりと時間が流れているようにも思えた。
「はい、これおにいさんの分」
意外にも、最初に話しかけてきた女の子とは打ち解け、当たり前のように隣に座っていた。
「おっ!ありがと〜凄く美味しそうやなぁ」
持って来てくれたのは、焼き鳥のような物を二本。串に刺さった鶏肉のような物についた、タレの良い匂いが辺りに漂う。
少なくとも、この世界に来て初めての食事であった。
「そんじゃ、いただきますっと。あっっつ!!」
食べようと口にした時、舌に焼かれたような激痛が走る。どうやら、出来立てだったのだろう普通に、いや、かなり熱かった。
熱い焼き鳥に悪戦苦闘している様子に、隣に座っていた女の子が笑い声を抑え切れず、クスリと笑いが出てしまった。
このクソガキがぁ……人の不幸をバカにしやがって。
落ち着け、落ち着けオレ。こんなクソガ……子供に笑われた程度でキレては、大人のオレの程度が知れる。ここは余裕を、そう余裕をもって話そう。
「そう言えば、お嬢ちゃんの名前って聞いてなかったね。なんて名前なの?」
「……」
急に黙りこくって、下を向いている。何か地雷だったのだろうか。
「私の名前は……お母さんにダメっていわれてるから、ダメッ!!」
「あら、そうかい。そりゃちょっと珍しいな」
「それじゃあ、お兄さんの名前は?」
「あれ?オレもしかして、名乗ってなかったっけ……」
隣に座っている少女が、小さな口を懸命にモゴモゴと動かしながら頷く。
「そうか。えーと、オレの名前は……」
「?」
声が止まる。名前が思い出せない。いや、名前だけでなく、あの部屋にいた前の記憶がすっぽりと抜け落ちている。
「んーしばらくは『お兄さん』でいいわ。よろしく、お嬢ちゃん」
と言って、隣にいる娘の頭を少し雑に撫でる。ジト目でコチラを見てきたが、まぁ気にしないようにしよう。
「ごめんて……」
オレはただ、彼女が向けるジト目に耐えきれず、謝罪を言うしかなかった。
「そう言えばさ、友達はおらんの?」
女の子が買って来てくれた焼き鳥を食い終わった後、ふと気になって投げかけた質問。
案内してくれてた時から少し、気になっていた所である。村の子供達が、誰もこの子に近づこうとはしていないのだ。
その質問を聞いた時わずかに肩が震えて、手に力が入っている。
「お父さんの、せいだよ……」
蚊の鳴くような声で言い放ったその言葉は、確かな憎悪が込められていた。幼いはずの子供が何を経験すれば、このような誰かに対して憎悪を抱くことがあるのだろうか。
「悪い……」
「ううん、別にいいよ。今に始まったことじゃないし」
手が真っ白になるくらいにまで、力が込められていた。それほど、悔しい思いをして来たのだろう。
オレは少し間を空けて、続けた。
「お前のお父さんは、どこにいるんだよ?」
彼女は少し渋い顔をした後、渋々教えてくれた。
「知らない。お母さんが言うにはね……『いつも見守ってくれてる』らしい。よく分からないけど」
帰ってきたら回答は、よく分からない物だった。さっきの名前の事も何か関係しているのだろう。
「おっと……もうこんな時間か。ほれ、子供は帰る時間だ」
周りを見渡せば、もういいくらいに日が傾いている。空がオレンジ色に染まっていて、かなりの時間をこの子と過ごしたのだろう。
その言葉を聞いた時、女の子は少し残念そうな顔をして、ゆっくりと座っていたベンチから、腰を上げた。
軽く着地しこちらを向いて、少しモジモジとしながら、聞いて来た。
「うん……明日も、来てくれる?」
「えー!?聞こえないなぁ?もっと大きな声じゃねぇと!!」
「っ……!!」
オレは最大限に煽り散らかした。
さっきの焼き鳥の件。忘れたわけじゃねぇからなぁ……
目の前の子が顔を羞恥で、真っ赤に染めていた。そしてプイッとそっぽを向いて走っていった。
「オレは!明日も!ここにいるからな!!」
その足取りは、軽く感じたのだろう。嬉しそうに走っていった。
「ふふっ……」
顔がゆっくりと緩んで、笑みが止まらない。
彼女にとっては、人生初の友達である。これまで、生まれのせいで誰とも関わらなかった彼女が、ようやく手に入れた友達であった。
いつも、母に父の事を聞いたら何故かいつもはぐらかされる。産まれたての、ほんの刹那に見た父の姿と声。それしか、関わりが無い。
だから何故、自分がこんなにも拒絶されているのかが、よくわからない。
「やった、やった〜」
それでも今だけは、その事を忘れることが出来た。初めての友達が、相当嬉しい物なのだろう。下手くそな鼻歌を歌いながら、家の扉を開けた。
「ただいま〜!」
ゴトンっ……
ーー目が覚めると、そこは何の変哲もない小さな村だった。
まず初めに目にしたはずの、目の前にある木で簡単に組んだ、ボロボロの門のような物が何故か無かった。
「え?」
ーー最初の地獄が、始まった。




