『龍災』いらないもの
森林地帯での、“正義”対ザブラ。
突如現れた『正義』の“竜人”、瞬く間にラブカ、ビクトリアの二名が、死亡の後復活。しかし、気絶され戦闘不能の状態である。ザブラも大きな怪我はまだ無いものの、小さな傷はちらほらと見える。
ザブラが振った剣を、適当に弾き飛ばす。そこら辺にある木々を殴り飛ばす。
『儀魂剣』の能力が目の前の相手にはまるで効いていない。
『儀魂剣』の能力は、『周囲にある魂の強制収集』である。これだけ聞けば、十分に強い能力であるが『正義』の前では意味が無い。
『正義』のアルカナ……いや、守征二十一柱の能力名は、『折れぬ信条』と言う。能力は、『一度掲げた【信条】に反しない限り自身が選んだ対象をあらゆる状態以上、怪我などの無効化』そしてそれは、自分が死ぬその時まで持続する。
「何で……切れない!?」
「……」
当然、ザブラがそんな事を知るわけが無い。
そして、『正義』が最後に掲げた【信条】は……
『敵を殺し尽くせ』
故に、今の彼はかつての優しさや、向けられた笑顔、などの一切を捨て去った、ただ殺す為に、目の前の“敵”を、子供達を脅やかす“敵”を、殺す為に拳を振るう“竜人”であった。
「ごはっ!!!」
殴り飛ばされ、数多の木を貫通して激突する。肺の空気が衝撃で強制的に押し出される。
上手く呼吸が出来ず、全身が激痛に襲われる。何とか立ち上がるが、痛みで上手く力が入らず剣が握れない。
遠くから、丁寧に茂みをかき分けてゆっくりと、こちらにやってくる。
既に何十発の『剣神乃迫撃』を叩き込んでおり言っては無いが、ビクトリア達がいる場所以外の森は、ほとんど吹き飛んでいる。その全てを受けてなお、当たり前のようにそこに立っている。
「……」
その目は虚で、その表情は何も映って無くて、体からは生気を感じられない。
「何の、能力なんだよ……コレっ!」
ザブラが悪態を吐くが、『正義』の歩みは止まることは無い。『正義』が這いつくばっているザブラの前に立つ。すると足元に手を伸ばし、ザブラが持っている『儀魂剣』を手に取る。
「おい?……何をして」
ピシリ……
そう、殺気を感じた。人間、生きていればどこからか殺気を感じるだろうが、死体……“竜人”の彼らが放つ殺気は比にならない。
しかし“竜人”はつまる所、蘇った廃人と言ったところである。殺気どころか、まともなコミュニケーションすら取れない。そのはずなのに、先程感じたのはこれまでの相手が、魔物が、まるで赤子程度に感じられる殺気であった。
瞬間。ザブラが感じたのは……
ーー途方も無い愛情であった。
剣を持ったまま、それを眺め、まるで腫れ物を触るかのような手つきで、我が子のように剣を撫で始める。
側から見れば、異常。しかしそれを言えるような人物は、ここにはいない。
しかし、だんだんと彼が放つ感情が変化していく。最初は、途轍もなく深い『愛』であったのに、今は『悲しみ』をただの剣をしっかりと抱き上げて、声を殺して静かに泣いていた。そう、泣いていたのだ。
もう、ザブラは相手が理解出来ない化け物に見えてきた。
そして、ゆっくりとまぶたが落ちて行き、そして体に走る激痛に意識が飛ばされた。
剣を抱き、静かに嘆き続ける“竜人”のほおに一筋の光が落ちていった。
「ごめんなぁ、ダメな父ちゃんで……」
なんて言葉は、ザブラの空耳だろうかーー




