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『龍災』混沌の戦場


 【過敏状態(オーバードーズ)


 カフジエルの体全体に、血管のようなものが腕に、肩に、体に、入り込んで“侵食”していく。


 “(ストレングス)”……アルカナと呼ばれる権能の一つ。願った力を際限なく供給し続ける能力がある、【過敏状態(オーバードーズ)】は権能の暴走状態であるが故に、体に変異が起きる。


 “力”に侵食される、背中からは手がない腕が大量に生えて、何かを探すように蠢いていた。


「ゔっ……ぁぁぁ…….」


 【過敏状態(オーバードーズ)】を止める方法はーー存在しない。


 “塔”であったとしても、完全に消すことは難しいだろう。そもそも、この状態は自身の意思でなってしまったようなものなので、自分の意思でどうにかなどと言う甘い考えで戻るようなものでは無い。

 

 もはやカフジエルに出来ることは、祈る事だろう。どうか、誰も死なないようにと、そこで彼女は意識を手放した。









「クソッ!!」


『雷帝の王』は愚痴を出すが、それを返してくれる人は今いない。


 濃く血管が浮き出て感情が籠っていない顔、何故か手だけ切り落としたように手が無い腕が背中から大量に生えている、体は腐ったように半分以上が緑色に変色している、足に手のが張り付いて木の幹のようになっている。


 背中の腕が一斉に『雷帝の王』に向けられており、その腕が猛スピードで『雷帝の王』を追いかける。それこそ……雷のスピードで。

 

 上から、下から、横から、様々な方向から迫られて来る腕を弾いて、砕いて、折って、叩く。


 だが、確実に追い詰められている。

 


「そろそろ……限界ですね」


 『雷帝の王』は助けたいと思っているが、既に助からない……手遅れの状態であると理解している。


 それでも、無理なものは無理なのだ。そもそも彼の戦い方は、時間稼ぎに特化していて相手が疲労して来たら自身のスキルで仕留める、と言う戦い方だから今の状況は彼にとっては苦手な戦場である。


「ゔら、かづゃなたるふ……」


 まともに会話、話すことすらできない状態になっているカフジエル。背中から次々と出て来る腕の一部が、ブツブツと動いている口に入り込み、ミチミチと音を立てわざとらしく笑顔を作り出す。


 口の端から赤黒い液体がこぼれ出る、しかしそれを気にもとめずに笑顔をかたどった()()()を『雷帝の王』に向けていた。


「!?」


 かなりの距離を稼いでいたはずなのに、一瞬で詰められる。その事に『雷帝の王』はただ感じるしか無かった……“恐怖”を。



 意思がないカフジエルが動きを止めた。圧倒的な気配に……


 潰される。そう思ったその時、そこで“死神”がそこで嗤っていた。



「何をしてるんだか……『雷帝』さんよぉ〜」


「“悲嘆”……さん?」


 右手に鞘に収められていない、剥き出しの剣がダラリと腕を少し怠そうに垂らして握られていた。


「【ハギトレ】」


 無造作に告げられた言葉、握っている剣が少し反応するが、剣が少し発光するだけでそれ以上の事は起きなかった。


「クソッタレが……()()でかけてやがる。俺の権能じゃ取れないように細工してやがる」


 わずかな舌打ちをして、殺意がこもった目をしていた。


「その剣は、何……まさか」


「おう、『墓標剣』って言うやつの一本。『閻土剣』だっけ?()()()()()()を封じている剣だよ」


「“悲嘆”さんの……アルカナ?」


「あぁ、そうだ。それでもあの野郎、無理矢理引き出そうとしたら、アルカナ諸共壊れちまう仕組みだよこれ」


 やれやれと言って首を振る、その様子にキレたのか暴走したカフジエルが腕を振り上げ……その腕が無かった。


「?」


 次に足、反対の腕、背中に生えてる腕、胴体、と言う順番で音もなくただ作業のように切った。


 再生


 【切られた】


 再生


 【切られた】


 再【切られた】


 さ【切られた】

 【切られた】【切られた】【切られた】【切られた】【切られた】【切られた】再【切られた】【切られた】【切られた】【切られた】【切られた】【切られた】【切られた】【切られた】生【切られた】【切られた】【切られた】【切られた】【切られた】【切られた】【切られた】【切られた】さ【切られた】【切られた】【切られた】い【切られた】【切られた】【切られた】【切られた】せ【切られた】【切られた】【切られた】い【切られた】【切られた】【切られた】【切られた】【切られた】【切られた】


















「大体、こんなもんかね……あ、やべ。ごめんな!八つ当たりしてしまったわ!!」


 それは戦闘とは決して言えない蹂躙を……いや、蹂躙という名の八つ当たりを左手一つで行ったのだ。


「何ですっ……か、コレは」


 『雷帝の王』が絶句し、見つめた先は、【過敏状態(オーバードーズ)】であるのにも関わらず、弄ばれ、八つ当たりで瀕死にまで追い込まれた“(ストレングス)”の姿だった。


「いや〜、それにしても良いストレス発散だったわ」


 と言って、自分の手をふと見下ろす。


「あ。俺今、剣持ってたんだった。全然使ってねぇや。これ、次の戦闘大丈夫かな?」


 と言って、使い慣れていない『閻土剣』を適当に振り回す。


「ん〜……ま、いっか!おーい!『雷帝』!!ちょっと『閻土剣(コレ)』持って帰っといて」


「はぁ?」


「じゃ、後よろしくぅ〜」


 と、スキップしながらその場を去ろうとする。すると足を誰かに握られる。


「まち、なさい!」

 

 強制的に“力”のアルカナを“悲嘆”に押し込められた結果、カフジエルが意識を取り戻す。ただし、体の一部は今もなお、変色しカフジエルの意思と関係なく暴れかけている。


「うえ、マジかよ……」


 “悲嘆”ですら、絶句していた。


「どうして、貴方が……『閻土剣』を持ってるのよ、それは封印していた、はずでしょ?」

「あぁ、壊した」




「は?」


「いや、だから壊したんだって。それに隠す気あるなら、もう少しマシな所にしろよ。何だよ、『天海』ってバカじゃねぇの!?」


 半ギレで、亀裂が出ている空を見上げる。亀裂の先には“天使”や神がいる世界が続いていると言われている。


「どうやって……」


「ん?どうやってって……そりゃあ」


「皆殺しだろ?」


 意識がもう直ぐ、落ちるだろう。最後に一つ……


「一つ、だけ。教えて」


「おう、何だ?ドンと来い!」


 “悲嘆”がおちゃらけた様子で、カフジエルの問いに答える。


「貴方は、何をするつもりなの?」


「んーー、そうだなぁ……世界征服、じゃないし。争いを起こす?違うなぁ……んー、ってあれ?あちゃー気絶してるなこりゃ」


 うつ伏せになっているカフジエルの側によって、呼吸を確認した後軽い回復魔法をかける。そして握られていた『禁錮剣』を取って、『雷帝の王』に渡し、背を向けて歩き出す。















「そうだな、ヒントは『計画の続き』だね」

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