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『龍災』【過敏状態】


「アンタそのままだと死ぬぞ?」


 戦闘の途中に何を言い出すかと思えば、いきなりこれを言われカフジエルは動きを止めた、いや唖然として止まってしまったと言った方がいい。


「……何を言ってるの?」


 それを聞いた時の『雷帝の王』の表情は、酷く悪態をついてまるで親の仇を見るかの如くの表情をしていた。


「オイ、悪い事は言わない。その剣を今すぐ捨てるか、コッチに渡してくれ」


「貴方に……何が……」

「頼むっ!!!」


 カフジエルは困惑していた。先程まで殺し合っていた相手が、自分に頭を下げて懇願していた。



 【殺せ】


 それが先程まで彼女の中で渦巻いて、突き動かしていた感情。


 それが今揺らいで彼女の中に、迷いが生じる。



 だがそれをーー



 断ち切った。


「渡すつもりは無いわ、そもそも貴方は敵でしょう?」


【殺せ】


「なっ……」


 『雷帝の王』はまさか断られると思っておらず、絶句した表情でカフジエルを見上げる。


【殺せ】


「何が目的かわからないけど、ここは戦場よ?自分が持ってる武器を相手に渡す愚行をするとでも?」


【殺せ】【殺せ】


 お前が……それを望むなら……ワタシがそれを叶えよう……


「そうか、まぁそうでしょうね。なら、こっからは本気でーー」


【殺せ】【殺せ】【殺せ】


 相手の言葉が言い終わる前に、奇襲をかける。『雷帝の王』は少し反応が遅れ、軽く腕を切られてしまう。


(今までとは、比べ物にならない程の速度……多分願ったんでしょうねぇ、()()()()()()を)


 今カフジエルは、いい意味でも悪い意味でも『禁錮剣』と一体になっていた。


 『禁錮剣』の能力は『願った力を際限なく供給する』能力だが、この“願った力”をハッキリと明確にする事で、供給される力が明確にする前と後では違いが出て来る。


 カフジエルが願ったのは、『『雷帝の王』を()()()殺す力』である。少し細かい話になるが、この明確にするという事は“誰を”“どうして”“何が欲しい”という感じで、明確にする事で『禁錮剣』の能力を最大限に引き出した!


「ゔあぁぁっっ!!」


 雄叫びを上げたカフジエルが『禁錮剣』を少し乱暴に振るう、刀の刀身が少し黒くなっている。そして手のひらに収まっていた同化が、右手そのものと同化し始めていた。


「ぐっ!?」


 やはり今度も避けきれず、傷を負うが軽傷の切り傷と言った程度だが、それでも徐々にではあるが反応出来ていない。と自身でも思い始めた。


「その刀を!今すぐに置くんだ!まだ間に合う……ソレから手を離せ!!」


 普段見ない、大声で彼女に『禁錮剣』から手を離す事を促すが、やはり……


「効果無しか……っ!」


 そもそも最初からおかしかった、いくら『雷帝の王』の方が初速が速いとはいえ、あそこまでアッサリと窮地にまで追い詰められ、そこから“力”の権能に頼るようにして危機を脱している。


 まるで誰かから誘導されているかのように、おそらく心身ともに未熟なままあの剣を握ったのだろう。まるで制御出来ていない、力に振り回されている。


「このままじゃ、あの時の二の舞じゃないか」








 目の前


 何かを


 叫ぶ


 そう


 叫ぶ声


 それが


 聞える


 はずだ


 はずなんだ


 それなのに


 耳を


 塞がれたように


 何故か聞こえずらい


 ドオシテ……?


 アナタガワタシを、ヨンダノデショ?


 声に引っ張られる……


 ワタシを、“(ストレングス)”をツカッタノハアナタデショウ?


 サァ、カタナをトッテ、メノマエのテキヲ


【殺せ】



「貴女は、力の使い方が、下手くそなんですよ。だから……こんな風になるんですよ」


 ふらつき、息を切らして肩で息をしている『雷帝の王』の目の前には、見るも無惨な姿をしたカフジエルが横たわっていた。その体には所々血管のようなナニカが浮き出ていた。


「はぁ、最近の子は『権能』についての理解が足りねぇですね」


 『雷帝の王』の手には、カフジエルが持っていたはずの『禁錮剣』が握られており、その『禁錮剣』も最初の姿よりも、刀というよりも大太刀と言ったほうが良い大きさに変貌を遂げていた。


「そもそも、ボクを意識を半ば手放した状態で相手できるとでも?」


 と『雷帝の王』が言う、カフジエルはわずかの間ではあるが、『禁錮剣』に意識を奪われていた。その隙を突いて剣を奪ったと言う事である。


「まったく……なんてもんを作ってやがったんですか、“虚飾”は」


 と文句を言いながら、『禁錮剣』を鞘に直そうとした時、カフジエルが立ち上がった。意識が無いのにも関わらず、だ。


「間に、合わなかったのか……」


 と、歯軋りをする。彼は足止めの為にカフジエルと戦っていたのだが、コレは自身が対処するしか無い。


「ああああづづっっっ!!?!?!」


 カフジエルの絶叫が、響き渡る。体は変色し始めて黒くなり。体から無数の手が生えている。緑色の血管のような物が、腕から身体中に広がっていたーー







「ん?権能の弱点?」


 『龍災』が起こる少し前に、アルカナの話を聞いた『雷帝の王』は“悲嘆”にこう質問をした。


 質問を受けた“悲嘆”は、少し考えて何かを悩んだ後、ようやく口を開いた。


「……そもそも、何でこの質問を俺にして来たの?」


「いやぁ、それは僕はスキルしか持ってませんし……第一、スキルと権能って何が違うんですか?」


「んっとね、権能の成り立ちってのは、『後天的な覚醒』と言われているんだよ、だけどこの覚醒に必要な条件として……」


「『王域技(テラースキル)』」


「そうっ!!」


 指をパチンッ!と鳴らす。音がこだまする。


「んで、もう一個が“激情”だね。これは体験談なんだけどね、人は死ぬ気でやれば……意外と出来るんだよ」


 その目には、何かを懐かしむような、悲しい目をしていた。


「まぁ要するに、権能は“激情”で変化したスキルだって事。でもね、一個だけどんな権能でも共通の弱点が存在する」


「それは、何です?」


「権能はね、その成り立ちからあまりにも、そうあまりにも心体に近づき過ぎたんだ。そのせいで“侵食”が始まるんだよ」


「“侵食”ですか?」


 『雷帝の王』は眉を顰める。あまり聞き慣れない事だったため、少し興味がある様子だった。


「うん、権能はね強く、強力であればあるほど、“侵食”が早く進む。だからね権能使いの一番の死亡理由って何だと思う?」


「死亡理由?ですか?」


 いきなり問いを与えられ困惑する、それを笑いながら“悲嘆”は話を続ける。


「ーー自滅だよ」


「え?」


「だから、自滅だって」

「いや、それは聞こえてるんですが、そんな事なんですか?」


 『雷帝の王』が動揺を隠せないのか、言葉を遮ってまで答える。


「そのせいで、ほとんどの権能使いは死んだんだよ。皮肉だよね、せっかく力を得たのに、使う事なく死んでいくなんて」


「そこで!“侵食”の話に戻るんだけど。この死亡する寸前というか、一歩手前で起こる権能の暴走があるんだ」


「ーー権能の、暴走」


「そう。そして、それには名称が付いてるんだよ、それは……」


過敏状態(オーバードーズ)


 権能使いの、致命的な弱点であるそれは、死の直前でその命を使い果たす。


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