『龍災』“正義”
“正義”が動き出す。
「え?“正義”が動いてんじゃん……マジかよ」
そう呟くのは、洞窟の中で二人“隠者”の男と共に戦場を俯瞰していた、“悲嘆”の驚いた声であった。
「いやー、“竜人”ってのは誰が出るのかわからないねぇ〜」
「少し、様子がおかしいですよ?アレ」
映る“正義”の姿には、虚な目をして意思を感じられない。ただ機械的に動いているように見える。
「えっとね、“隠者”くん。ぶっちゃけて言うと、“竜人”としてはドミニオンや『雷帝の王』達は失敗なんだよ」
「へぇ、少し意外ですね。てっきりあっちの方が失敗なんじゃ無いのかと思いましたが」
と言って、映っている“正義”に目を移す。それを“悲嘆”がやれやれと言ったら様子で首を振る。
「“竜人”が産まれるプロセス……仕組みとしては、核となる魂の周りに無作為に集めた魂を貼り付けて、足りない部分を補うんだけど、そのせいで人格に大きく障害が発生して、あんな風に自我を保てないって感じになる。それが普通の“竜人”なんだよ」
「となると、ドミニオン達はおかしいと言うことですか?」
「うん。まぁアイツらは下手に自我があるから、もう自由にさせてるよ。裏切ろうと裏切りまいとどっちでもいいんだけどね」
その表情は、恐怖というよりどこか諦めのような表情をしていた。
「正直言うとアルカナ達の権能はね、ほとんどが意味不明なんだよ。逆に能力の詳細があるアルカナの方が珍しいまであるってよ!!」
座っている椅子を後ろに倒して、揺らしながら喋っていたが、倒れそうになり慌てて前に戻す。
「何してんですか……」
「あっぶねぇ〜」
お互いに軽口を叩き合う、すると“悲嘆”がスッと席を立って洞窟の出口の方に歩き出す。
「そんじゃ、俺も行くかぁ」
“悲嘆”がついに動き出す。
「とりあえず、『塔』の使用者を殺せれば御の字かな」
何が起きたんだ?
ザブラは、空中でそう思った。今あの男に殴られた?のだろう。そして、ラブカの『呪言』が機能していなかった、初めての事である。
「うおおおっっ!!」
木にぶつかるが、その木の枝を足場代わりに地面に着地する。幸い、森の中心部に落ちたため、怪我はほぼない。
「ビクトリア!ラブカ!大丈夫か!?」
着地した後、すぐに二人のところに走って行く。木々がその速度で大きく揺れ、ガサガサと音が鳴って行く。
元いた場所に着くと、二人は蘇生用の護符を使用したのか無傷でそこにいた、ただし二人とも気絶していた。
「お前っ!!」
その二人の間に、その男は立っていた。ひどく虚ろな目をして、気配の無い体を揺らしてこっちに歩いて来る。
相手が何かする前に、相手に近づき腕を掴む。そのまま力任せに気絶している二人から距離をとるように、その男を投げ飛ばす。
「……」
投げ飛ばされる瞬間、その男の顔を見たがその顔は酷く無表情だった。驚きも喜びも、または悲しみすらも無いそんな目をしていた。
投げ飛ばした後、俺もその男の後を追う。地面を踏み締め飛び上がる。持っていた剣を鞘に直し、もう一つの剣を引き抜く。
「少し……付き合ってもらおう。来い、『災厄乃剣』」
『墓標剣』の一振りが、魂を喰らう魔剣が解き放たれた。
「……!」
男は少し、驚いた表情を見せる。そして空中であるのにも関わらず、静かに構えをたった。
「貴女は、力の使い方が、下手くそなんですよ。だから……こんな風になるんですよ」
ふらつき、息を切らして肩で息をしている『雷帝の王』の目の前には、見るも無惨な姿をしたカフジエルが横たわっていた。その体には所々血管のようなナニカが浮き出ていた。
「はぁ、最近の子は『権能』についての理解が足りねぇですね」
『雷帝の王』の手には、カフジエルが持っていたはずの『禁錮剣』が握られており、その『禁錮剣』も最初の姿よりも、刀というよりも大太刀と言ったほうが良い大きさに変貌を遂げていた。
時間を少し戻そう。
カフジエルが『禁錮剣』を使って蘇って、その後。
「はっ!」
接近……
ーー右下からの切り上げ
容赦無く振られる右手に握られている刀には、十分な殺気が込められている。首を鋭く狙い上げる、それに間一髪で『雷帝の王』は躱して、カフジエルが持っている刀めがけて左足で蹴りを放つ。
それを読んでいたのか、蹴りに対して勢いに従うように刀を上に投げる。それと同時に両腰に一本づつある折れた剣のうち、左側の一本を抜いて削りにかかる。
折れた剣で出来る事などたかが知れている。それ故に大振りで蹴りを放った『雷帝の王』の左側、足を蹴り上げ無防備になっている脇腹に折れた切先を突き刺そうとする。
「いや〜危ない危ない。危うく大出血でしたね」
と余裕の笑みを浮かべる。彼の右手には、カフジエルが突き刺そうとした、折れた剣の刃を握っていた。
「そおーれっ!」
『雷帝の王』は、自分の手が傷つく事をお構いなしに剣を捻り上げる。奪い取るというより、その場に留めるためだ。
「!」
「『雷帝の王』っと」
握った剣から伝った雷が、カフジエルの腕を焼く。幸いにも、直前に剣から手を離していたためこの程度で済んだ。それでも……
「もう、そっちの手は使えないでしょ?」
左手が先程の雷で、ボロボロになっている。普通は回復に何ヶ月もかかる大怪我のはずが、次の瞬間には逆再生のように巻き戻っていく。
無事な右手に握られているのは、先程投げた『禁錮剣』。
「願ったのは、“再生能力”ってところですかねっ!!」
再度、音もなくカフジエルが接近して来て、横薙ぎの一撃を超人的な反応で回避する。
スキル『雷帝の王』の応用技である。神経の伝達速度の補助、神経を通る電気信号を補助し伝達速度を底上げしているのだ。その結果、人間の限界である0.1秒の壁を越えての反応を実現した。
ただ、何回も使えるわけでは無いが、それでも一瞬の攻撃を避ける程度ならなんも問題はない。
「チッ」
剣をから振った事に対する舌打ちが、多少聞こえて来る。その後、更に速度を上げるカフジエル。その全ての攻撃を躱し、防ぎ、時には受けて、自身のスキルの限界をイメージしながら調整して戦う。
ふと、『雷帝の王』の目にカフジエルの『禁錮剣』が握られている腕を見た。そしてなぜか彼は絶句した。
何故か?それは彼女の腕が『禁錮剣』と同化し始めていたのだから『禁錮剣』の持ち手は手のひらにめり込むように沈んでいた。筋肉が、骨が少しだけだが確かに、同化しかけているのを見た。
最初は軽く、そして徐々に重くなっていく……剣撃に顔をしかめながら、思考する。そして案外に答えはすぐに出た。
「まさかとは思いますが……アンタそのままだと死ぬぞ?」




