『龍災』支配と傲慢 其の一
「『一等星』『一等星』!!」
ルシファーの手元から閃光が迸った。殺意を剥き出しにし真っ直ぐに対象へ突き刺す直線の光と、獲物を抉り取るように弧を描く曲線の光。空気を食い破りドミニオンの体に迫る。しかし、到達する前にスッと霧散する。
「いい加減、理解したらどうだ?お前では俺に傷をつけれないと」
ドミニオンは仁王立ちのまま、まるで珍しい玩具でも見るような好奇な目で、ルシファーを見ていた。あまりにも無防備で、あまりにも確信に、自信に満ち溢れた態度。
その見下す様な態度が、彼の逆鱗に触れたのだろう。ルシファーは歯噛みし、先程よりも大きく、速く、強く光を放つ。
だが、それでも届かない。
致命の光線が、まるで羽虫の如く次々と消え失せていく。
「面倒だな、そのスキル」
ルシファーの視線が睨みつけるように、視線が鋭くなる。
「まぁな、『支配の王』の前では“王”が放つ攻撃は全て無駄だからな」
そう、ドミニオンのスキルの能力で今、お互いに膠着状態が続いているのだ。もっとも、“王”の攻撃を無効化するドミニオンが優勢に見えるが、それでもルシファーの目からはまだ諦めは、映っていなかった。
地面を掴みピシリとヒビが入り少しの抵抗の後、軽々と持ち上げる。それを、先程の攻撃のお返しと言わんばかりに、ルシファーに投げ返す。
およそ人間が片手でスピードをはるかに超えて迫る岩に対し、ルシファーは空高く舞い上がり危機を回避する。
その後も次々と地面を抉り取り、ルシファーに投げていく。
(何かがおかしい。そもそも、あそこまで接近してしかも、今目の前にいると言うのに気配が少な過ぎる。それに、まるで死体を相手にしているような……)
ルシファーの違和感は、初めは小さな物だった。しかし、ドミニオンとの戦い。長い膠着状態が彼の思考を整理させ、さらに加速する。故に行き着いた答えは……
「ずっと、疑問だったのだ。あそこまで接近されて初めてお前の存在を知った」
魔法を急にやめ、どうしたものかと思っていた時に、その言葉は降って湧いてきた。
「我は、元ではあるが天使という都合上。生き物の気配に敏感でな」
「だから、少しおかしいと思ったのだ。生者の気配を察せる我が、遅れをとる事が」
「とある錬金術師が、“病”により女房を失った。それ故に狂気に溺れて、魂を混ぜ合わせる後の禁術を開発した」
ルシファーがいきなり、何かを語り出しドミニオンは呆気に取られた表情でそれを聞く。
「時間、次元を超え集めた大量の魂を混ぜ合わせた。すると偶然にもそれは、人の形を成した。蘇生術として作った筈のそれは人の理外を超えた、化け物を産み出す術だった……」
「それが、どうかしたのか?」
ドミニオンが首を傾げ、不服そうにルシファーに問いかける。
ルシファーはそれを無視して……
「混ざり合った魂は、お互いに自我を奪い合い殺し合う……一つになるまで。結果生前の体より大幅に強化され、蘇った女房かナニカはその男の頭を握りつぶし、消えて行った」
「対象になる魂は、人間のみ。故に出来損ない、壊す事しか知らぬ化け物を『人間』と呼ぶ訳がない。そして、化け物と言えば『龍』それと人間の皮肉を込めてその化け物はこう言われたそうだ……」
「ーー何が言いたい?」
「お前、“竜人”だな?」
ルシファーが皮肉を込めた確かな笑みを浮かべて、ドミニオンがその顔に確かな怒気を孕んでいた。
「最後の勝負だ!お前の弱点を教えてやるよ!!」
べアルは『衰』を空中に放り投げ、自身も魔石魔術で空に浮くそしてお互いに天高く舞い上がって、どんどん高度を上げていく。
「ナニヲ……スルつモリダ?」
『衰』は全身を襲う浮遊感と空気抵抗に身動きが取れず、ジタバタと手足を動かしている。そこにべアルが追い付き、『衰』の体を掴んだ。
鉄のヒンヤリとした感じがするが、次の瞬間掴んだ手に力を込め、べアルは体勢を整える。
『お前の権能は、『指定したモノを強制的に衰えさせる』能力だが、それには一つ欠点がある』
「!!」
耳を掻く空気の轟音によって聴こえない筈なのに、何故かベアルの声が頭の中に聞こえてくる。フェルが使っている魔法音声である。
『そうだよ……お前の能力はハッキリ言ってお手上げモノだよ』
そうなら何故このような事をするのかと、『衰』は疑問を浮かべる。
『だから、ありえねぇんだな!!俺の攻撃を避けたり、防ぐ事自体が!!』
べアルはさらに続けて言う。
『お前の持つ権能は強過ぎだ、本当にその通りの能力ならお前は攻撃を一切喰らわないし、そもそも防がなくてもいい筈なんだ。それでも防いだ理由は……』
『出来ないんだろ?物理運動を衰えさせる事が!だから……コレは賭けなんだ』
上昇が遅くなり始め、やがて止まりそしてゆっくりと下に落ちていく。
『一緒に落ちようじゃねぇか!言ったろ?これが、最後の勝負だってな!!』
視界が引き延ばされる。風によって頰を切り裂かれ血が出る。色を、景色を、感覚を全て置いて行く。
『衰』と一緒に、落ちていく。どんどん落ちて、やがて自身の笑い声すら聞こえなくなった……




