『龍災』『衰』
「ハァッ!!」
ベアルが目の前の敵を吹き飛ばさんと鎧にある八本の触手を繰り出す。
『衰』は一度受けてみようかと思ったが、その攻撃を見た瞬間、直感的に飛び退いた。だが、避けた先にもまた別の鉄の触手が待ち受けていた。自身が殺した兵士から奪った剣を構えて受け止めた瞬間、耳を裂く金属音と共に『衰』は後ろに吹き飛ばされてしまう。
「ナルホド……“嫉妬”カ」
ーー呪い。今はもう廃れた技術であるそれは、当たった相手の魂にダメージを与える能力。今この世界で使えるのは片手で数えるくらいの人数しかいない。
「オモシロイ事ヲスルナ、オ前ハ」
『衰』は考える。おそらく彼が繰り出す攻撃をまともに喰らえば即死だろう。
それ程の強い“呪い”がこの攻撃に込められているのだ。
「クソッ、当たらねぇな。なら……【嫉妬の世界】!!」
展開した瞬間、『衰』は凄まじい悪寒に襲われた。
世界が曲がってしまったのではと錯覚し、空気が重苦しく澱む。まともに喰らった『衰』の動きが、先程と比べるまでも無く。まるで体に鉄を仕込まれたように遅くなる。
“呪い”と毒の複合技であるこの技は、あのルシファーですら苦戦したスキルである。
「“毒”ト“呪い”カ……ダガ、マダ足リナイナ」
まるで試すかのように口元に笑みを浮かべ、剣を強く握り直す。
その直後、未だ能力の範囲内であるにも関わらず、ベアルに対し急接近してきたのである。
「マジか!!」
咄嗟に剣を創り出し、『衰』に振るうがどう言うわけか、簡単に力負けし、弾き飛ばされてしまう。
「どうなってんだ?おい嫉妬の王アイツの能力って確か」
『えぇそうね、『指定したモノを強制的に衰えさせる能力』よ。さっき弾き飛ばされたのは恐らく、貴方の『腕力』を弱体化したからだと思うわ』
「おいおい、とんだクソチートじゃねぇかよコレ」
ガブリエルと話すも、良い突破法が無く、そうしていると『衰』が手に持っている剣をベアルめがけて切り下ろしてきた。
それを六本ある内の二本で受け止め、残りの四本で攻撃を出そうとするが、防がれた事を見てすぐに後ろに下がってしまった。
「イイな、ヤハリオマエはイイ」
「勝手に言ってろ、戦闘狂が!!」
今までよりも、ベアルは『衰』に近い所で打ち合う。互いの武器が重なり、弾き合い、斬り合う。その度に火花が、甲高い金属音が戦場に響く。
ーーそんな中『衰』は笑っていた。
息も絶え絶えに、心臓は早鐘を打ち、少しでも対応を失敗すれば負ける。そんな状況でだ。
生まれてこの一生、『衰』は戦闘と言うものを一度も行っていない。
理由は簡単である。自身が持つ『星』の一部としての権能の所為である。
【衰弱者】それが『衰』が持つ権能の名であり、十二体いる『星』のかけらの中で二位に座するが故の能力である。
能力はかなりシンプルなものである。モノの劣化や衰退を早めることが出来る、と言う能力である。『衰』自体この能力を意識せずとも無意識に周囲に放つことが出来る。
近づく者がいれば、すぐに崩れ消えてしまう。そのせいで、誰も寄り付かなくなってしまった。同じ『星』のかけら達からも……
初めての戦い。初めて握った剣。初めて感じる“高揚”“緊張”と言う感情の数々。向けられる殺気。この手の痺れすらも、『衰』にとって初めての経験である。
だから今、思うのは痛いや苦しいでは無く、ただ楽しいと思う。願わくばこの戦いがずっと続いて欲しい。
この何百年も感じていた、孤独を埋めてくれと目の前の相手に思ってしまう程に……続いて欲しいのだ。
胸の奥で何かが弾けた。ずっと押さえつけていた、諦めていた。叫びたい程に何かが全身を駆け巡る。人はそれを“嬉しさ”と呼ぶ。
「サア!モット……モットだ!モット、愉シモウデワ無イカ!!」
『衰』はとても嬉しそうに、周りのことなんて気にせずただ子供のように、がむしゃらに剣を振るう。
ーー頬には一線の涙が通っていた。




