『龍災』覚悟と抵抗
「あっ……ゔぁっ」
ルイラ皇国の西の城門で、それを確認していた一人の兵士が上げた断末魔にも聞こえる悲鳴。
風の音で容易に消された音は誰にも聴こえず、声を上げた兵士は、パタリと倒れ込んでしまう。
それを見かねた隣にいた兵士が、彼を起こそうとするも、代わりの如くゴキッと肩が外れる音が鳴った。
ーー敵は一人
倒れ込んでしまった彼は、確かな眼差しで遥か先の地平線に居る化け物に視線を合わせる。自身が出来る最後の抵抗だからである。
ーー敵は一人、敵は一人
そう何度も、己の意思を手放さ無いと何度も繰り返す。
ーー敵は一人、敵は一人、敵は一人
一人で歩きながら、まるで観光に来たかのような足取りでゆっくりと近づいて来る。視認できる距離まで来た事を確認した後、その一人に対して迎撃を始める。
ーー敵は一人、敵は一人、敵は一人、敵はひとり
だが、ほぼ全ての攻撃がまるで子供が投げた石のように、何ともなかった様に歩く様を見た。ぜんぶ、いみが、無い……
ーー敵は一人、敵は一人、敵は一り、敵はひとり、てきは一人
誰かが魔法を放つ。それに釣られてその場にいた全ての人間が同じ魔法を使える人使えない人関係なく、猿真似の如く何回も奇声を上げながら繰り返す。
煙が晴れず、轟音が鳴る中ふと誰かが自身の姿を見て、絶叫した。
何故なら自身の腕が、体が、足が、顔が、触れれば触れるほどそこからボロボロと崩れていく。まるで砂を掴むかな様に指の隙間から肉であったもの、骨であったものがこぼれ落ちる。
それに痛みはなく、ただ劣化として崩れ落ちていく。顔を覆ったら目玉が転げ落ち、落ちた先で泥団子の様にボロリと割れた……
「……あっ」
ーー敵は一人、敵はひとり、てきは一人、てきはひとり、てきはひとりてきはひとりてきはひとりてきはひとりテキハヒトリテキハヒトリテキハヒトリて、きは……
「どうなってんだこれ……」
ベアルがついた時には既にそこはもぬけの殻となった城門と、大量の砂の様なものが落ちていた。
「名ヲナノレ、ソコの人間」
そこにくっきりと死が立っていた。さも当然の如く一人でそこに立っていた。
「お前が、これをやったのか?」
「ン?あぁソウダトモ。コレは全テオレがヤッタコトダ、何カオカシナ事デモアルノカ?
と答えると、不思議そうに首を傾ける。彼らはあくまで力の一端に僅かな意思があるだけの存在。当然人間が持ち合わせている感性など皆無である。
「いや、もう良い。お前に名乗る名もかける言葉もない。【呪撃】【同調接続】」
ベアルが立っている地面が、メリメリと音を立てて捲れ上がる。
「ホゥ、中々ニイイ物デハナイカ。デハコチラもイコウカ【命式】」
その様子を見ていた『衰』が嬉しそうに首を振った。
「『黒鉄鎧【呪奏】』!!」
「【衰の旺】」
人外達の戦いが始まる。




