傷跡
よろしくお願いします
『龍災』の会議が終わり、静まり返った部屋の中でカフジエルとルシファーの二人が話していた。
「カフジエル殿、『怠堕』はどうだ。問題なく動いているのか?」
「残念ながら、あの日以降私から『怠堕』の権能を感じれなくなってしまったの」
ちゃぶ台をたった二人で囲む姿は、何とも寂しく見えた。ルシファーが困った顔をして
「……つまり、『怠堕』に頼った戦いは出来なそうだな」
「そうなるわね。ごめんなさい」
「いや、別に貴女の所為ではないでしょう……それにしても違和感があるな、フェルと言ったか?お前の従者の名は」
「えぇそうよ、ちょうどベアル達が来る少し前に私が見つけたわ」
口元を隠す理由はわからないけど。とカフジエルが呟くが、ルシファーはすっかり別のことを考えていた。
(おかしい、『怠堕』の権能は六王の中でも歪な物だったはずだ)
正確に言えば、『怠堕』は他の王のように不特定多数の人物が扱えるような仕様ではなく。怠堕の王個人にだけしか機能しない能力なのだ。
「まぁ、難しく考えても意味はないわ。それじゃあ答え合わせは『龍災』の後で」
「……そうだな、くれぐれも死ぬんじゃないぞ?“怠堕の王”が不在の今、代理とは言え貴女も“王”の一人なのだから」
「それくらい……言われなくてもわかってるわよ」
私の目的のためなら、手段は選んでられない。ちょうど良い時に『龍災』が来た。それならもしかしたら……
「貴方は会いに来てくれる?……ししょー」
帰りの馬車は結構気まずかった。カフジエルはダンマリして、フェルは空気を読んで同じように黙ったまま、俺はそれどころじゃなく、ずっと考え込んで傲慢の国を後にした。
『おい、起きろ坊主。もう着いたぞ』
頭に直接響いてくる声。聞き流せないため、目覚ましよりもちゃんとしている。
「んー、もう着いたのか?」
『まったく、俺が馬車を運転してる時に、お嬢と二人揃って寝やがって』
ブツブツと文句を言い放つフェルを後にして、窓に目を向ける。見慣れた景色がそこに広がっていた。
「なんか……復興早くね?」
そう、本来ならあり得ない。あの惨劇からまだ三ヶ月少ししか経ってないというのに、魔法がある世界とは言え早すぎる。
「そもそも、何で草木がこんなに生えてるんだ?」
俺が見た時は、全てのありとあらゆる生命が消え去って、文字通り草一つ生えていなかった。犠魂剣によって、人も植物も何もかも消え去った。その筈なのに、まるで何も無かったように草が生い茂っていた。
まるで、時間を遡ったかのように。
「なぁ、フェル。三ヶ月前何があったか覚えているか?」
『ん?そりゃあ、お前が確か地上に出たいって喚いたんじゃないか?』
「その後!何があったんだ?!」
俺はフェルに八つ当たりのような口調で、言い寄っていた。だがその後のフェルの言葉で、俺は絶句した……
『……何も無かったけど?』
「んーーーー、やっぱり物語ってのは良いねぇ」
古い本棚と何回も読んだのであろう、傷んだ本が沢山ある部屋の中である人物がいた。
その表情は、幸福と驚きに満ちていた。その人物は読み終わった本を棚に戻し、ゆっくりと背伸びをした。
「はー、本当にみんな、よくやるよねぇ。いつ自分が死ぬのかわからないってのに」
「ん?何?『何もしてないお前がいうなって?』そりゃあひどい言われようだね、まぁ事実だけど……」
その人物は億劫そうに頭を掻いて、新しい本に手をかける。
「さて、僕の出番もそろそろかな?沢山用意したから楽しんでくれると良いなぁ」
その本をパラパラとめくって、文字が伝ってある最後のページに辿り着く。
「君はどんな冒険録を、僕に見せてくれるのかな?」
その人物は珍しく笑っていた。そして続きが気になるのか、何度も何度も同じページを行ったり来たりしていた。そのほとんどは白紙で、所々破いたような跡もあった。
その人物が大切そうに、扱っていた本のタイトルは『黒鉄戦士の冒険録』
ーー断言しよう。世界は彼を中心に回っていた。
「んーー、これは、僕も挨拶ぐらいはしたほうがいいのかな?」
そっと、椅子から腰を落として、かなりボサボサな白色の髪の毛を後ろで結っていた。
自信満々に、はっきりと申した。
「確か、“六王”?だったっけ?まぁどうでもいいか、僕は“怠堕の王”だよ!よろしくね!」
最後の王が動き出した。ただ物語を面白くするためだけに。




