第4話 お互い極悪人認定なの尊い
東都詩音と一緒に朝からスマホを没収された俺達は、放課後の教室に残り、反省文を書かされていた。
「だぁぁ、終わったぁ」
ようやくと書き終わり、俺は机に突っ伏す。
「お疲れ様です」
隣の席で反省文を書いている東都がこちらに労いの言葉をくれる。
「東都はできた?」
「まだだよ。私、反省文って苦手なんだよね」
「東都は優等生っぽいから反省文とか書いたことなさそうだよな」
「優等生はバイト禁止の学校でバイトしないよー」
俺達以外に誰もいない教室なので、バイトの話題を出しても問題ないだろう。
「それもそっか」
彼女の返しに納得しながら、ひとつ気になることがある。
「どうして俺のバイト先で働きたいなんて言い出したんだ? まさか本当に俺の秘密を守る証明ってわけでもないだろ?」
「聞いちゃいますか」
「聞いちゃいますよ」
答えると、なぜか東都は腰に手を当てて胸を張る。
この子、発育が良いから大きな胸が強調されて目のやり場に困るんですけど。
「実は私、こう見えて悪い人なんです」
なんだか子供が背伸びして悪びろうとしている雰囲気を感じて尊いな。
「私の家は裕福じゃなくてね、私はお母さん側のおじいちゃん、おばあちゃんに預かってもらっているの」
「なるほど。だから小林さんの家に東都がいたのか」
「あ、そっか。配達の時って名前と住所登録するもんね。そりゃ小林って書いた家に東都《私》がいたらびっくりするよね」
「それに、知り合いに小林なんていないからな。完全に油断してたよ」
「そっか、そっか、あの時の慌てようはそれもあってなんだね。ぷくく」
「そこ、笑うなー。めちゃくちゃ焦ったんだからな」
「あはは、ごめんごめん」
東都は脱線してしまった話題を元に戻す。
「それでね、バイトもできないから進学するお金もないし、高校を出たら働こうと思ってたんだ」
「そうだったんか」
「でもね、やっぱり大学に行きたいって気持ちがあったの。だから学校側に相談したんだけどバイトは許してくれなかった」
「この学校、融通きかないよな」
「ほんとだよね」
互いに苦笑いを浮かべ、東都が続けてくれる。
「こうなったら黙ってバイト始めてやるー、って思ったんだけど、やっぱり停学や退学って怖いなー、って悩んでた時に、ね」
そこで俺を見る。
「なるほど。都合の良い奴が現れたと」
「そうだよ。私は千田くんを都合良く利用している悪い人なんだよ」
「それは極悪人だ」
「極悪人なのです」
そこで可愛らしく言ってのける姿が尊いな。
「あれ、そういえば……」
ふと思い出したように東都が声を出した。
「バイクの免許も学校では禁止だよね?」
「禁止だな」
「バイトとバイクの禁忌を破る千田くんも極悪人だ」
「言われてみたら確かに極悪人かも」
「私達、お揃いだね♪」
「いやなお揃いだな」
あははとお互いに笑う声がふたりだけの教室に響くのは尊かった。
♢
「そういえば、この前バイクに乗せてくれたけど、あれは大丈夫だったの?」
「店のバイクに乗っけたな。俺は免許取得から一年経過してるから大丈夫」
「良かった。そこは極悪人じゃないよね」
「道路交通法を守り、安全運転を心掛けております」