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07 おにいちゃんすごくダサい


(あっ!そういうこと?俺を疑ってるのか?…じゃあ割と不味くないか?)


 ハルは内心結構焦ったが、それを一切表情に出さなかった。ただ、やる気無さそうに「はぁ」と繰り返した。


「…副委員長。やっぱりこの子は違うと思うなぁ」


 ロリっ娘、もとい倫理委員会委員長はキャンディでハルを指しながら椅子の背にもたれた。


「こんなぬぼーっとした男の子が人なんか殺さないでしょ…うわっ!」


 後ろに体重をかけすぎて、ロリっ娘の椅子がガタンと倒れた。しかしその体は副委員長が受け止めていた。


「いてて…ありがとね」


「しっかりしてください」


 照れながらその萌え袖で頭をかくロリっ娘に、微笑みながら椅子を起こし再びロリを座らせる副委員長。まるで仲の良い恋人だ。ハルはそれを蚊帳の外で見ていた。


(…このガキ、「人なんか殺さない」って言ったか?つまり殺人があったと認識しているということだ。そして今年度におけるこの学園の死亡者は全部俺が殺した。その全てを自殺に見せかけた筈だが…このガキどもは俺が殺人犯という真相に辿り着きかけているのか)


「ハルくん。今年度に入ってからの半年足らずでの、学園内の自殺者の数って知ってるかい?」


 座り直したロリっ娘が乱れた髪を手櫛で梳きながらハルに問いかけた。


「ちょっと分からないです」


「9人だよ。参考までに言うと、去年は0人。一昨年も0人。3年前もね。遡って、12年前にようやく1人いたよ」


 ハルは微かに眉を上げ、驚いた表情をした。


「それは穏やかじゃ無いですね」


 その言葉を聞き、副委員長が両の手で机を叩いた。そしてその鋭い眼光をハルに向けた。


「自殺者の全てが貴様の妹の周辺者だった。はっきり言って俺はお前を疑っている」


「落ち着きなよ、副委員長。それは論理が飛躍しすぎだよ。今日は話を聞きに来ただけだろ?ただの勘で疑っちゃあハルくんがあんまり可哀想だ」


 ハルは内心、副委員長の勘の鋭さにかなり驚いた。しかし彼は結構呑気していた。


(残念ながら俺は全ての犯行において証拠を残しちゃいないからな。どこまで行っても疑いの余地を出ない。所詮は間抜けの虫けら共の分際で人を疑いやがって…俺に勝てると思うなよ。お前らは後で始末してやるよ)


 副委員長は懐を探った。


「自殺者は全て男、そして一年生ウサギさん学級に関連しているという共通項があった。俺はウサギさん学級の男子生徒26人、女子生徒19人、そしてその親族や特に親しい友人で学園に在籍している者28人、計63人の身辺を調べた。申し訳ないが寮の自室も調べさせてもらった」


「え?副委員長、そんなことしてたのかい?だめだよ!許可無く人の私的領域に入っちゃあ!」


「黙っててください委員長…そしたらハル、お前の部屋からこんなものが出てきた」


「あっ!」


 ハルはそれを見て血の気が引き真っ青になった。副委員長はチープな拳銃を机に置いた。


(やべっ!そういえばガマガエル野郎を始末するのに使ったあとずっと机の上に放置してたんだった!)


「えっ…?これ、もしかして銃ってやつかい…?」


 ロリっ娘委員長は戸惑いながらハル自作の簡易銃を摘み上げ、しげしげと見回した。


「なんでこんなものが…?」


「調べてみたところ、前装式の単発銃…発砲にはマッチなどの火種が必要な原始的なものでした。個人での製作も比較的容易な類いです。おそらくコイツが自作したものでしょう。しかし検証したところ急所にさえ当たれば人を致死させることができる威力がありました」


 ハルはなんでもないような表情を保っていたが、その額には冷や汗が伝っていた。彼は首を動かさず目線だけで食堂内を見回した。

 そして自分達が存外注目を集めていることに気付いた。副委員長が取り出した拳銃を見て軽い騒ぎが起こっていた。


(…大体30人くらいだな。出入り口は一つだけだ。あそこさえ塞げば…)


「魔族を殺すための魔法、銃はそれに対をなすものだ。つまり人を殺すためのもの。俺がお前を疑ってた理由が分かったか?さぁ、この銃のことを説明してもらおうか、ハル・イルスタッフ!」


 その声は食堂内に響きわたった。

 辺りは水を打ったように静まり返った。みながハルを見ていた。

 彼はしばし考え込んだ後、口を開いた。


「今日は嵐だ」


「…は?」


「聞こえないか?雨音がさっきからうるさいだろ。

 それでな、考えてみたんだが、臥雲魔族…例えば名前忘れたが雷雲に住む竜とかが、何かの拍子で地上に降りてきて、運悪くこの食堂に突っ込んで大暴れ。騒ぎは嵐の音にかき消される。守衛どもが遅れて駆けつける頃には竜は去り、後には生徒の死体だけが残されていた。そんなことも起こり得るかなって」


「ハルくん。キミは何を言っているのかな。私はこの銃のことを詳しく聞きたいんだけど」


 ロリっ娘委員長は冷たい目でハルを見ていた。ハルは微かに笑い、続けた。


「真実なんてなんでもいい。いくらでも後付けできる。真相を知る者、つまりこの食堂にいる人間は全ていなくなるんだからな」


 そしてハルは勢いよく立ち上がり、振り返った。

 唯一の出入り口をお得意の風魔法で崩し、逃げ道を塞ごうというのだ!いま、学園史上最悪の大虐殺が始まろうとしていた。


「俺がお前らをみなご───」


 ろしにするからだっ!というハル渾身の決め台詞は途中で途切れた。彼は一時停止ボタンでも押されたかのように固まっていた。

 そして数秒後にもう一度、遠くのテーブルに見えたものをチラリと見た。

 そこには食堂から出て行った筈のアリムが座っていた。先程からかってきた悪ガキ共と仲直りして楽しそうにおしゃべりしていた。


(はぁ!?お前どっか行ったんじゃねぇのかよ!)


「…ハルくん。キミはなにを一人で盛り上がっているのかな?」


 ハルはしばらく固まったあと、ヘラヘラしながら倫理委員会の二人を振り返った。


「いやぁ、よく考えたら竜なんて来るはず無いっスよね!実に下らない!じゃあそろそろペットのダンゴムシに霧吹きシュッてしなきゃいけない時間なんで僕は帰りまスね!」


「待て」


 副委員長が帰ろうとしたハルの肩を掴んだ。強い力だった。ハルは微かに舌打ちをした。ロリ委員長が立ち上がり、ハルの前に立ち塞がった。


「キミが逃げようとしたのは私たちからかな?それとも現実からかな?どちらもキミを逃がしはしないよ」


 そして彼女は陳腐な作りの拳銃を冷や汗ダラダラのハルに向け、「ばーん☆」と言いながら撃つ真似をした。


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