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06 倫理委員会執行部さんたち!


 窓をガタガタと揺らす風と微かに聞こえ始めた雨音が、嵐が近づいていることを知らせた。

 嵐に限ったことでは無いが、非日常の前触れというのはどこか心を踊らせる。魔法学園の7つある食堂の中で最も広いそのホールでは、学生たちがいつにもまして盛り上がっていた。そしてその隅、歴史を感じさせるガタついた樫の机で、兄妹は夕食を食べていた。


「明日は雨かなぁ?街に買い物に行きたかっのに」


「いや多分明日も降るだろうな」


 アリムはガッカリそうに肩を落とした。


「そんなぁ…」


 ここ最近の彼女は意気消沈していた。担当の歴史教師が突然首を吊ってしまった上、仲良しの先輩であるフェイグが頭痛の頻発で一週間前から休学しているからだ。

 それもこれも全て、隣に座っている兄の陰謀のせいである。


「天候だけは俺でもどうにもできないからな…ま、明日はおにいちゃんと一緒に増水してる川でも見に行こうな」


「すごくつまらなそうだよ」


 アリムは悲しそうにため息をついた。


「ほんとに最近ついてないな…あ、そうだ。お兄ちゃん、今日なにか嫌なことあった?」


「なんでそんなこと聞くんだ?」


「お兄ちゃんって12月1日生まれでしょ?今朝の学園新聞にね、【12月1日生まれのあなたは今日の運勢激悪。最悪死にます】って書いてあったんだ」


「…へぇ」


 ハルは顔を歪ませた。彼は魔法使いのくせに占いなどのオカルトを一切信じていないが、こうも断言されると流石に気分が悪かった。


「…でもその占いは偽だな。なぜならば俺は今日こうして元気に過ごしているから」


「だろうね。お兄ちゃん、さっきまで寝てたでしょ」


「お?なんで分かるんだ?」


「ねぐせ。頭ボサボサだよ、まったく…」


 そう言って彼女は立ち上がり、ポケットから櫛を取り出した。そしてハルの髪を梳かし始めた。


「えっ?だ、大丈夫だぞ、そんなことしなくて!」


「動かないでよ。お兄ちゃんはほんとにしょうがないんだから…」


 ハルは頭から伝わるアリムの手の感触に震えながら、(あぁ、幸せってこういうことなんだな)と気持ちの悪い悟りを開いていた。

 少し話は変わるが、アリムは美少女である。ぱっちりした二重瞼に、長く曲線を描いた睫毛。ハルが言うように世界一…とはいかないまでも、クラスにいたら絶対好きになるレベルには可愛い。

 そしてアリムと同じクラスの悪ガキ連中が、兄の世話を焼いている彼女を見つけた。


「え!?アリムなにしてんの!?」


「うわ!あいつ兄貴とイチャついてる!シスコンじゃん!キモ!」


 好きな子に意地悪したくなるフェノメナだ。

 アリムの顔は火がついたように熱くなった。思春期の彼女にとって兄弟と一緒にいるところは見られたくなかったのだ。


「…お兄ちゃん、私もう行くから」


「あ…」


 アリムはどこかへ行ってしまった。あとはハルだけが取り残された。彼は悪ガキ連中を心底怨嗟のこもった眼光で睨んだ。


(オスガキどもめ…!俺とアリムの時間を奪いやがって!今すぐぶち殺してやろうか…)


 彼は半ば本気で立ち上がった。その時、後ろから声がした。


「お、お兄ちゃん、これ!」


 彼は目を輝かせながら振り向いた。アリムが戻ってきていた。手鏡と櫛をハルに差し出していた。


「私のやつあげるから!少しは身だしなみに気を使ってね!それじゃ!」


 ハルはしばし立ち尽くしたあと、周りを見渡し、こっそりその櫛の匂いを嗅いだ。微かに甘い香りがした。


(アリムの匂いだ…!)


 そして彼はその場に座り込んだ。心底幸せそうな表情だった。


「ふぅ…」


 その時、ハルは気にも留めていなかったが、とある二人組が食堂に足を踏み入れていた。男女の二人組だった。

 女の方は、おさげの二つ結い、いわゆるローツインテールで、その眠そうな目は伸びた前髪に隠れ気味だった。ぶかぶかなローブが床を擦り、小さな手は袖に隠れて見えていなかった。ロリポップを口に咥えて転がしながら食堂のホールをキョロキョロ眺めていた。男の方は背の高い美男子で、赤茶けた前髪をピンで留め切長の目を光らせていた。

 幼い外見の女と、精悍そうな男の組み合わせは保護者と子供に見えた。

 みな、彼女らを見てざわついていた。


「…おい、アイツら執行部の連中だぜ」


「マジか?誰かなんかやらかしたのかよ」


 そして二人組は恍惚の表情でアリムの櫛を眺めているハルを見つけたようだ。


「おーい、ハル・イルスタッフくん!」


 幼い外見の少女がニコニコしながら声をかけた。そしてハルは振り向き、怪訝そうに二人を見た。彼女らはハルの向かいの椅子に座った。


「さっきのがキミの妹のアリムちゃん?随分可愛い子だねぇ。キミとは似てないねぇ」


(誰だ?このロリっ娘といけ好かない男は?)

 

「誰だよアンタら。馴れ馴れしく話しかけんなよ」


「おー、こわ!辛辣だねぇハルくん!」


 ロリっ娘はバカにしたようにケラケラ笑った。


「…しっかしやるねぇハルくんは。この学園に私たちのこと知らないヤツがいるなんて!な、副委員長!」


「この男は相当なヌケサク野郎らしいですからね。致し方無いことです」


「また、そうやって嫌味を言うんだから…ハルくん、私たちはこーゆー者だよ」


 ロリっ娘は右腕に巻かれた紋章をヌケサク野郎に見せた。それにはオリーブを咥えた不死鳥が描かれていた。その上に淡い緑色で【倫理】と記されていた。


「…で?随分といい気になってるようだけど、あいにく俺はお前らなんて知らないぞ」


 ハルの言葉にロリっ娘はその眠そうな瞳を丸くした。


「…へぇ〜。ほんとに知らないんだね。一応私たちは君と同学年なんだけどなぁ」


「…委員長。もういいでしょう。早く本題へ」


 男前の副委員長がイライラした様子で声をかけた。


「まぁまぁ。順序だてていこうよ。ハルくん、私たちは学園倫理委員会執行部という組織でね。学園本部から任せられた生徒側の自治を代表している者たちだよ。ま、砕けた言い方をすると警察組織のようなものだね。風紀を取り締まったり、キュートな迷い猫を探したり、お姫様を攫った悪辣のドラゴンをやっつけたり、さ」


「はぁ」


 ふざけてるのか?とハルは思った。そしてロリっ娘の重たい二重瞼が微かに動き、真っ暗な瞳がハルを見据えた。


「魔法を悪用するわるーい奴を退治したりもするよ」


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