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03 お兄ちゃん…ほんとに最低なこと思いつくよね…

 

「ハル…この男は一体なんだったんだ?」

 

 しばらくした後、フェイグは泣き腫らした真っ赤な目を倒れているガマガエルに向けた。

 

「あー…そいつは…なんなんだろうな?通り魔的なヤバいヤツじゃないか」

 

 実は俺が皆殺しにしたはずの幼女愛好会の生き残りで復讐しにきやがった、なんて言ったら面倒になるとハルは考えた。なので適当なことを言って誤魔化していた。

 

「それで、ハル…殺、したのか…?その…拳銃…で」

 

「いや?多分まだ生きてるだろ。もう動けないと思うが」

 

 ハルが使用したのは自作の威力が低い簡易的な単発銃であった。その銃弾はガマガエル男の背中に命中したが、分厚い脂肪に止められていた。ガマガエルが倒れているのはハルに踏みつけられ昏倒していたからだ。

 ハルはガマガエル男の両目を念入りに潰した後で脚の腱を切断していた。完全なる無力化の成功である。

 

「そうか…なら、良かった、のかな」

 

 フェイグはハルが人殺しにならなかったことに安堵していた。実際には、彼は妹のために何人も殺しているわけだが、彼女は当然そんな幼馴染のドス黒い本性を知らない。

 

「そういうことなら…ハル、帰ろうか。この男は学園に報告しておこう」

 

「おっと、元気が出てきたな。もうぎゅーしてなくて大丈夫か?」

 

「う、うるさい!あれはただ…あーもう!さっさと行くぞ!」

 

 フェイグはそう言った後、頬を赤く染めながらうつむき、ポツリと呟いた。

 

「ありがとう」

 

 ハルは微笑みながら頷いた。同時に彼はこの後のことも考えていた。帰り道の途中で適当にフェイグを撒き、このガマガエル男を処分し死体を隠すつもりだった。学園本部にガマガエル男の口から幼女愛好会のことがバレるのは避けたい。陰ながらロリコンを殺している危険人物だとバレたくなかったからだ。

 いやぁ酷い目に遭った、さぁ帰ろうかと2人が立ち上がったその時だった。

 

「待て…ハル…クソハル…」

 

 掠れた声がした。

 

(ん?ガマガエルの野郎目が覚めたか。まぁどうせ歩けない目も見えないゴミクズだからほっとくか)

 

 ハルは無視してスタコラ帰ろうとしていた。

 

「ハル!このクソ悪魔め!俺は知ってるぞ、お前の妹がクソみてぇな淫乱…サキュバスだって!どうせお前も魔族なんだろ!?妹と同じように!」

 

 ハルは青ざめた。一気に血の気がひいていた。そしてフェイグをチラリと見た。彼女はただキョトンとした顔をしていた。

 

(フェイグに…この女に、妹が魔族ということがバレた)

 

 彼は大きく深呼吸した。ガマガエルはまだごちゃごちゃ叫んでいたがもはや彼の耳には届いていなかった。

 

「…ハル?どうしたんだ?急に立ち止まって。それにあの男…サキュバスって言ったか?その…お前の妹…アリムちゃんが?」

 

「フェイグ…」

 

 ハルとフェイグの目があった。その時の彼は、フェイグにとって5年強の付き合いの中で、見たこともないくらい冷たい目をしていた。

 

「少し黙ってろ」

 

 そこで彼女の意識は一旦途切れた。

 

 ハルは頭を抱えながら、意識を失っているフェイグを見ていた。

 

(どうする!?もうこの際コイツも殺しちまうか!いやでも、俺がフェイグとペア組んでたことは学生達に知られている。殺すのはまずい、俺が怪しすぎる。でもかと言ってどうすれば…)

 

 アリムの正体がバレた時点で、フェイグをそのまま帰すわけにはいかなくなっていた。もしもフェイグが、「君の妹のアリムちゃん、実は魔族だったなんて驚きだ!まぁ誰にも言わないから安心しておけ!」なんて言ってもハルは絶対に信じなかったことだろう。

 人類と魔族の対立は根深い。魔族は見つけ次第殺せ、慈悲は無い。というのが人類の総意である。

 自分の命の遥か上に妹を置くハルの価値観からしたら、妹を脅かす可能性のある人間は本来ならば即刻殺しておきたいのだ。

 

(ここでフェイグを殺す→俺が怪まれる→身辺調査される→アリムが魔族バレ  みたいな流れが否定できない以上…殺すわけには…)

 

 日が暮れてきた。サボり魔であるハルは置いておいて、フェイグが4限目以降をバックれている状況はまずいかもしれない。ハルはそう感じていた。

 

(時間は無限ではない…もう、こうなったらあの手を使うしかない!)

 

 ハルは気絶しているフェイグを抱きかかえ、ガマガエルの隣へどさりと置いた。そして意識を失いかけているガマガエルの頬を思い切り殴った。

 

「てめぇ!なに寝てやがんだ、起きろ!ふざけやがって…てめぇのせいでこうなってんだから、死ぬ前に一仕事してもらうぞ!」

 

「…ウッ!あっその声はクソハル!殺す!殺してやる!」

 

「まぁまぁ…それはもう分かったから。そんなことより一時停戦だ」

 

 ハルはガマガエルの前に腰を下ろした。その体臭に顔を顰めながら、彼の顔を見た。両目は抉り取られぽっかり空洞が空いていた。血糊が醜悪な顔を染め、もはやホラーじみていた。(こんな傷でよく元気に騒げるな…)とハルは若干引いた。

 

「ガマガエルさんよ…アンタはもう助からないよ。今は興奮して脳内麻薬がドバドバだから大丈夫だが、もう少ししたらそれも切れる。アンタは目も見えない真っ暗闇の中で、地獄のような痛みを感じて死んでいくんだ」

 

「…うっ」

 

 ガマガエル男が怯んだ。死の恐怖を思い出したようだ。ハルはその一瞬を逃さなかった。

 

「そこで!可哀想なアンタにプレゼントだ!」

 

 ハルはフェイグの煌く金髪を掴んで引っ張り、彼女の頭をガマガエルの膝にのせた。彼女はまだ意識を失ったままだったが、微かに呻き声をあげた。

 

「ほら、死の間際って生存本能で性欲が強まるんだろ?その娘使っちゃえよ。女抱いて脳内麻薬出しながら死ねるんだぞ?最高だろ」

 

「ウッウウ!」

 

 ガマガエル男の脳に、もはやハルへの憎しみなどなかった。というより人間らしい感情は全て消え失せていた。あるのは獣のような醜い本能だけだった。

 

「おっとストップ!待て、だ!待て!」

 

 ハルは早速フェイグに飛びかかろうとしたガマガエルを牽制した。

 

「お前はもう目が見えてないんだからさ、せっかくだから他の知覚情報を楽しみたいだろ?よく知らんが叫び声とかさ。今この女は気を失ってるから、目覚めてからのお楽しみだ」

 

 ガマガエルは無垢な笑顔で頷いた。その気持ち悪さに苦笑しながらハルは立ち上がった。

 

(これが俺の最善策だ…!フェイグに強烈な心的外傷を与え、弱った精神に催眠をかける!つまり催眠魔法を介した記憶消去だ!見てろよアリム、お兄ちゃん頑張るぞ!)

 

 しばらく後、フェイグがうっすらと目を開けた。それに気づいたハルが、呼吸を荒くし興奮に猛っているガマガエルの肩をポンと叩いた。


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