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01 サキュバスだからって淫乱じゃないもん!

 月明かりの無い晩で、森の中は真っ暗闇だった。辺りを注意深く見回すと、一際太い木があった。手で探ってみると妙な出っ張りを感じた。どうやら木に偽装した小屋になっているようだった。

 彼は普通にドアを開け、普通に入った。中には3人の男がいた。呆気にとられているそいつらの喉笛を風魔法で切り裂いた。その内一人は四肢を切り落とすだけにすませた。

 

「…え?ギャアアアア!!」

 

「うるせーよ。静かにしてくれ」

 

 木の中は案外広く、生活に必要なものは大体揃ってそうだった。彼は椅子に腰掛け、生かしておいた一人を見た。血だらけのダルマ状態だ。

 

「なに!?なんなのお前!?…!まさかお前が、仲間たちを殺した…!?」

 

「その通りだ。お前ら幼女愛好会は俺が殺してきた。お前らが生き残りの最後だよな?」

 

「なんで!?お前誰だよ!俺らはお前になにもしてな──」

 

 話にならなそうだ。彼は悶えている男の首を切り落とした。鮮血が噴き出し、彼の顔を濡らした。

 

「俺の妹に目をつけたのがお前らの運のつきだ。これで幼女愛好会…ほんとにクソみたいな組織だな…は全滅した筈だ。学園の中にこんな奴らがいたとはびっくりだな」

 

 彼は転がっている3つの死体を眺めた。

 

「…お前らみたいなロリコンがいると、俺の妹が安心して暮らせないだろ」

 

 

 

 

 

「で、あるからして、人類は一度魔族の侵攻により大きくその数を減らし、当時の92%の人間が魔族により殺されました。今のように銃火器が発展していない当時の人類の主な攻撃手段は鈍器や刃物と原始的なものでした。…と言っても最新の銃火器ですら魔族には通用しませんが。しかし、人類はある時を境に魔族への強力な対抗策を手にします。その一連の流れを…それでは、アリムさん」

 

「はい。人類による魔法の行使の実現です。それまで魔法は魔族特有の現象と考えられていましたが、初代勇者ネルスソルフィにより人類は魔力を手にしました。通称して王暦一年のパラダイムシフトです」

 

 アリム・イルスタッフは絹のような黒髪をかき上げながら流暢に答えた。教師は満足気に頷いた。

 

「よろしい。ここは試験に出るから忘れないように。ネルスソルフィが発見した魔法を人類はその歴史の中で、主に戦いのため発展させてきました。想像力により世界に影響を与える魔法は、ともすればなんでもできると思われがちですが、訓練を受けていない人間では鳥の羽を動かすことすらできません…」

 

 授業の終わりを告げる鐘の音が響いた。

 

「…と、歴史の授業は終わりですが、最後に。きみたち一年生は今言ったように大した魔法は使えませんが、この学園を卒業する頃には立派な魔法使いになっている筈です。憎き魔族を皆殺しにできるよう、ぜひとも勉学に励んでください」

 

 はーい、と子供たちは元気な返事をした。王立魔法学園の一年生は将来を期待され希望に満ち溢れていた。その内のひとり、12歳のアリムは椅子に座ったまま大きく伸びをした。

 

「ねぇアリム、さっきのすごかったね!先生にいきなり当てられたのに、ペラペラーって答えてさ!」

 

 前の席の女の子が振り向き、アリムに話しかけた。

 

「えへへ…たまたまだよ」

 

 彼女は照れくさそうにはにかんだ。そして次の授業はなんだっけ、と前の女子と話し始めた。その様を舌なめずりしながら見ている男がいた。

 

(ハァハァ…アリムちゃん、本当に可愛いなぁ…今年の一年は粒揃いだけど、俺の一番のオキニは君だよ…)

 

 興奮して息を荒げながらアリムを盗み見ているのは、先程までマジメ腐った顔で講義をしていた教師である。実はこの男、女児に対する劣情だけで教師になった変態である。

 

(さっきの質問にも、わざわざ僕と目を合わせて答えてたし…やっぱりあの子、僕のことが好きなんだ…!)

 

 

 

 その日の夜。変態教師は揺るぎない決意を胸に廊下を歩いていた。もちろん、お気に入りの生徒、アリム・イルスタッフのシャワーを覗くことが目的である。

 

(なぜかアリムちゃんは大浴場ではなくて個別のシャワー・ルームを使うからな。生徒寮まで侵入するのはリスキーだが…しかし!僕は今日悟ってしまった。アリムちゃんは僕と二人きりになりたいからわざわざ個室のシャワーを浴びているんだ)

 

 命がエンジンとするなら欲望はガソリンだ。変態教師はフルスピードで都合の良い妄想を燃やしていた。

 

 そして彼は覗いた。アリム・イルスタッフの裸体を。

 どうやら想像とは随分違ったらしく、自室に戻った後もなにをするでもなく物思いに耽っていた。

 彼はアリムの背から生えていたコウモリのような小さい翼のことを考え続けていた。少女特有の緩やかな下腹の曲線に浮かび上がった淫紋の事を考え続けていた。

 

(あれはなんだ…?飾り物か?いや、魔族のコスプレなんて悪趣味すぎる。自前なのか…?だとしたら、この学園の中に魔族が?もしそうならすぐさま報告しなければ…)

 

 彼は明かりもつけずに暗い部屋の中を歩き回っていた。

 

(もしアリムが魔族だとするならば…見たところあの翼は翼手でも無く羽毛も無かった。そして人によく似た外見…分類的にはC類惑情特化幻的魔族…つまりサキュバスの類いだ)

 

「こんばんは先生」

 

 その声は、暗い部屋の奥から響いた。

 

「…なんだ!?誰だキサマ!」

 

 その男は天井の隅にある排気口から出てきた。ドスンという音を立てて床に着地すると服についたゴミを手で払った。

 

「で、先生どうだった?可愛い俺の妹の裸は堪能してくれたか?」

 

 嫌味ったらしくそう言う男は、埃だらけで真っ黒に汚れていた。

 

「う…動くな!動くと殺す!」

 

「落ち着けって。覗きの後は人殺しまでするつもりなのか?随分素敵な聖職者だなアンタは」

 

 変態教師の脳みそはパンク寸前だった。訳の分からない状況に理解が追いついていなかった。

 

「おまえ…おまえ、なんだ!?何者だ!」

 

「アリムのお兄ちゃんだよ」

 

 面倒くさそうに男は答えた。

 

「あ!おまえ…ハル・イルスタッフか!」

 

「そうだ」

 

 答えながらハルは顔に引っ付いた蜘蛛の巣を剥がした。

 

「さてと先生…アリムが魔族だって気付いてしまったアンタは死ななきゃだな。まぁ風呂覗いた時点でどのみち殺すけど」

 

「こ、こっこ、殺すだと!?バカ、生意気言いやがって!生意気バカ生徒め!おもいだしたぞ、ハル!劣等生のポンコツだ!留年確定してる6年生だろ!逆に殺してやる!教師を舐めるな!ぼくは…学生時代ここをトップで…そつ…ぎょう…」

 

 変態教師はそこで言葉に詰まった。呼吸がどんどん浅くなり、それにつれて顔がどんどん赤黒くなった。そしてついには白眼を剥いて倒れた。

 

「これで今年で6人目か…」

 

 ハルはため息をつきながら椅子に腰掛けた。風魔法の使い手であるハルは、部屋に入った時から変態教師の呼気を逆流させていた。息を吐いてるはずなのに吸っているパニックは無意識のうちに脳に酸欠を起こしていたのだ。

 

「なんとかアリムを学園に入れさせることはできたが、あの子はサキュバスの血が入ってるからな…無意識にロリコンどもを魅了(チャーム)しちゃうんだよな」

 

 ハルは排気口まで戻り、持ってきた縄を取り出した。変態教師は自殺したように見せかけようという訳だ。

 

「アリムが魔族だってバレたら殺されるだろうし…やっぱ入学させるべきじゃなかったかな」

 

 しかしハルは、いつも部屋の隅で寂しそうにしていたかつてのアリムを思い出した。

 

「…いや、俺がアリムを守ればいいんだ。世界一可愛い俺の妹…アリムが普通に楽しく暮らせるためなら、俺はどんなことだってやる」

 

 こうして、倫理や道徳など微塵も無いシスコンは、ロリコン教師の首に縄をかけていった。

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