1話 ここはどこ!?
目が覚めると百合は、見たことも無いほどに大きいベッドで眠っていた。
ーーここ、どこ?
そこは、全く見慣れぬ部屋だった。陽光をたっぷりと取り入れられる大きな窓に、可愛らしい装飾が施された壁。ベッドの脇には綺麗に輝いて見える果物が置いてある。そこはまさに漫画に出てくるような"お城に住むお嬢様の自室"だった。
ベッドから出て立ち上がると、百合は自分が服を着ていない事に気付いた。キャアッと、軽く悲鳴を上げる。そこで、最悪な考えに思い至る。行き過ぎたファンが誘拐してきたのではないか?あり得る。数多いるファンの中には、これほどのセットを作ってしまう人なんているだろう。そして服を脱がされているという事は…穏便な誘拐犯では無いのだろうか…。
ーーど、どうしよう…
体がガクガク震えてくる。
ーーとにかく逃げなきゃ。ここはどこなの!?だれか助けてよ…。
「お目覚めでしたか、ヘイン様」
「きゃあああ」
ドタッと音を立てて百合はベッドから転がり落ちていた。
「ごめんなさい!ごめんなさい!許してえ…」
「申し訳ありません、ヘイン様。驚かせてしまいましたか?落ち着かれて下さい。状況が飲み込めないのはよく分かります。まずは深呼吸を…」
百合を心配するその声はとても優しい物だった。百合がおそるおそる振り返ると、声の主はタキシードを着たダンディーなおじさんだった。
…………。
「落ち着かれたでしょうか?」
「えぇ…」
「こちらお洋服です。」
その服は、まさにお姫様の様な豪華なドレスだった。その男が危害を加えてこないと分かり、百合はなんとか平静を取り戻した。
「お茶をお待ちしたので、お飲み下さい。」
…おいしい。落ち着きはしたものの、やはり状況は飲み込めない。
「あなたは誰?ここはどこなの?気になる事がいっぱいあるわ」
「はい。急な事で、大変戸惑われたかと思います。まず、私の名はヘルルク。ここ、プランツ王国の王族に仕える執事でごさいます。」
「プランツ王国?」
「今いる、この場所がプランツ王国の中央都市にある、プランツ城でごさいます。」
「え!?日本じゃないの?プランツ王国ってどこよ!地球上にそんな国はないわ!」
「も、申し訳ございません。それらの説明は王からされると思うので、準備が出来ましたら私についてきて下さい。」
ヘルルクは慌てながらそう言った。
執事?プランツ王国?今から王に会う?ますます混乱するばかりだ。何も理解出来ていない以上、勝手な行動は避けるべきだろう。百合はヘルルクについて行く事にした。
部屋を出て長い廊下を歩いて行く。その隅々まで輝いていて、綺麗だ。着てる服も相まってか、本当に王国のお姫様になった気分になる。ふと、廊下の壁にある窓の外を見ると、今いる場所は意外と高いらしく、綺麗な街並みが見えた。その光景を見る限り、本当に日本ではなさそうだった。
階段を少しの上り、しばらく歩くと行き止まりになっていた。しかし、そこには10メートルほどの高さのデカい扉があった。
コッコッ、とヘルルクが扉を叩き、
「勇者様をお連れいたしました。」
と言った。百合が勇者様?と疑問に思っていると、大きな音を立てながら扉が開いて行く。
「どうぞ、お入りください。」
ヘルルクが手で入るよう促している。百合はゆっくりと扉の中へ入っていった。