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白豚王女と乱暴王子の婚約事情  作者: ゆうき けい


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83/105

83 婚約者選定パーティ・午後の部 余興

ハイランドのクラン・アスガルのキュリアから、ブリターニ王国のユーサー王子に突きつけられた問い。

国民から募った王子妃への質問のうちの一つ

”ハイランドとブリターニ王国の関係をどう思うか?”

その質問を受けたキュリアは逆にユーサー王子に尋ねる。ブリターニ王国はハイランドをどのように扱うつもりなのか?と。

広間を緊迫した沈黙が支配する。

キュリアの態度を無礼だと咎めようと動きかけた近衛騎士を、ユーサー王子は制した。


「ハイランドのクラン・アスガルのキュリア姫、貴女の問いは、私には意味を成さない。何故なら、ハイランドは既にブリターニ王国の一部だからだ。ハイランドの繁栄はブリターニの繁栄であり、ハイランドの衰退はブリターニの責任だ。故に、ハイランダーは私が責任を負うべき私の民であり、その関係性を言葉にするのなら、我が国民としか言いようが無い。

ハイランドに住む者達が、その言葉を信じられないのならば、我が国とハイランドの関係を”不平等”と感じているのならば、それは、ブリターニ王家の怠慢である。私は王家の一員として、その責を問われれば、謝罪する。」


「「「殿下!」」」

広間に集められていた大臣ら貴族達から、声が上がる。

王族の謝罪など、公の前で見せるべきものではないと言う思いからだ。

そして。

「ユーサーぁ!?」

謝罪された本人、キュリア姫の声も驚きに裏返っている。「何をしているの、ユーサー!貴方はブリターニの世継ぎの王子なのよ。ハイランドのクランの娘なんかに頭をさげてはいけないわ。」

「私がこの頭をどう使おうと、それは、私の自由だよ、キュリア。」

「そんな筈無いでしょう!」

「私はブリターニの世継ぎの王子だからね。ブリターニの為に頭を下げる事に躊躇はしないよ。そして、貴女に、いや、ハイランダーに頭を下げる事は、ブリターニの為になる。」

「私は別に貴方に頭を下げて欲しかった訳じゃ無いの。私はただ、ハイランドの意見を国政に反映させるための場所が欲しいだけ。」

「王子妃の身分は、その為、と?」

「勿論!それ以外の何があると言うの?」

傷ついた表情を浮かべたユーサー王子に、はっとキュリアが慌てる。しかし、弁解の言葉を口にする前に、ユーサーはにこりと笑みを浮かべた。

「そうか。はっきり言ってくれて嬉しいよ、下手に、愛しているから、とでも言われたら、人間不信になる所だった。」


そうして、ユーサー王子は、婚約者候補の令嬢たちを見回した。

「さて、一次面接は、これで終了です。姫君方のお考えを教えて頂き、私もこれからのブリターニの為に何が出来るか、考えさせられました。では、時間も押していますし、続いての選考に参りましょう。」

「待って、待ってください、ユーサー王子殿下!」

彼の前に出て来たのはレイア姫だった。

「彼女は失格では無いのですか?スクロールの質問を他者に渡すことはできない。そうおっしゃったではありませんか?彼女が殿下にスクロールの質問をそのまま投げ返した事は、他者に渡した事にはなりませんの?」


「キュリア姫は、ブリターニとハイランドの関係を”不平等”と思っている。そう答えた後で、私にも意見を聞きました。これは、質問に答えず、他者に押し付けた事にはなりませんよね。

むしろ。

自分の意見はこうだが、貴方はどう思うのか?、と、そう、私の意見を求めた。

そうした事で、書かれた質問にご令嬢たちが答えて終わり、という一方的なものでは無く、私との間に”会話”が成立した。

すばらしい事だと思いませんか?」

「ですが!逆に質問しても良いなど、最初に言われてはおりません!」


「そうですね。ですが、質問してはいけない、とも言っておりませんよ。」

あまりにも冷え冷えとしたその言葉の響きに、広間はシン、となった。

社交の場では、少しでも自分の優位になるように、相手の言葉の裏を読み、上げ足を取られないように慎重に行動する必要がある。そして、相手には、都合の良い様に解釈させ、こちらの有利になるように動かす。これが、技術であり、国際社会を相手にする王族に求められるものだ。

ユーサー王子はそう説明し、レイア姫を正面から見据えた。


「この婚約者選定パーティは、王子妃を決めるものです。王子妃に相応しい技術を持っているか、言葉の裏の意味、解釈の抜け穴を見抜けるか、それは評価ポイントになる。そうは思いませんか?」


「何なの?何なのよ!」

わなわなと震えるレイア姫の手の中で、扇子が、みしり、と音を立てた。

「ふっ不愉快ですわ!ユーサー王子!貴方は、ブリターニ王国は、わたくしを蔑ろにしますの?わざわざ、こんな辺境まで呼びつけておいて!王子妃の何たるかなど、講釈されるまでもなく、理解しております!一体どういうおつもりですの?」

「理解して頂けているのなら、それをお示しくださればよいだけの話。では、今度こそ、次の」


ぱしん、と音を立ててレイア姫の扇が床にたたきつけられた。

「もう、結構!ブリターニ王国は、わたくしを王子妃にするつもりがない、と言う事ですのね。

その、何の力も無い田舎の小娘を娶られるとよろしいですわ!」

レイア姫の指がまっすぐ、キュリアをさす。

「ですが、こんな無礼が許される訳がありません。わたくしを、ナインヘイム連邦が盟主ヴァーヘイムを敵に回して、この北の海を自由に航行できるとは思わないで下さいませ。

今は、ゲッショウ王国の後ろ盾で強気でいられても、そんなもの、カグヤ王女がネデル国に嫁いでしまえば、いずれ消滅するもの。その時に慌てて助力を乞うても遅くてよ!」


「ご忠告、恐れ入ります。ですから、その時に備えて、国力を高めているのです。王子妃選びもその一環です。残念です、レイア姫。」

静かに頭を振って、ユーサー王子は控えていたトリスタンに合図をする。

すっと何人かの近衛騎士が、レイア姫のエスコートにつき、姫は強制的に退場させらた。

その顔には驚愕の表情が張り付いており、まさか、母国の敵対を示唆したのに追い出されるとは思っていなかったようだ。

彼女の取り巻きの令嬢たちの二人が慌てて追いかけた。残りは、顔を見合わせていたが、その内の一人が頷くと、きちんとユーサー達にカーテシーをして、広間を出て行った。


「最初の二人は腰巾着で、後の一人はお目付け役?」

銀牙傭兵団の船上で、アーサーに「立場をわきまえろ」と言った令嬢が最初に追いかけた令嬢だった、と気が付いて、アーサーは顔を見合わせていた方の令嬢に声をかける。

落ち着いた雰囲気の令嬢は、無言で、貴族の笑みを浮かべている。

「ナインヘイム連邦も複雑よのぅ。」

先日までその国と交渉を行っていたビルギース元女王の言葉に、令嬢の笑顔が微かに引きつった。


「さて、ユーサー王子殿。折角の楽しい試みにケチが付いてしまった。口直しに、妾が、ここでちょっとした余興を披露してしんぜよう。」

そう言って、ビルギース元女王は、スクロールの置かれていたテーブルにいくつもの宝石を広げた。

「ここに12個の貴石がある。妾からの婚約祝いにこれをここに集った婚約者候補の令嬢に贈ろう。じゃが、只、贈るのでは面白みがない。そこで、令嬢たちが、見事妾とのゲームに勝てたなら、これらの貴石と共に、我が国シャハア神国の援助を約束しよう。」


目の前に広げられた色も形も大きさも最上級品と一目でわかる貴石と南の大陸の覇王シャハア神国の後ろ盾、と言うとてつもない大きな贈り物に、皆、息を呑む。

「それ、は、とてもありがたいお話です。ですが、」

「ですが、それにビルギース陛下の、シャハア神国の利は、あるのですか?」

ユーサー王子が謝意を述べ、けれど、警戒して言い淀んだ言葉を、アーサーが続けた。

「ん?何じゃ、アーティ。これらの貴石は妾の物じゃから、誰に下げ渡そうと文句を言われる筋合いはない。それに、国の援助と言ってもそんなに大したものでは無いぞ。せいぜいが交易税の値引きぐらいでは無いか?まあ、面白い物を見せてもらった礼、位に思ってくれれば良い。」


「交易税の値引き!?」

思わず外務大臣のロンド侯爵が声を上げる。

シャハア神国の輸出品を頭に思い描く。あれもこれも、貴重な品ばかりで、これまでブリターニ王国では手に入れる事が叶わなかった物ばかりだ。

これは是非とも、手に入れたい!「その試練、私が受ける訳には行きませんか!」

勢い込んで尋ねたロンド侯爵に令嬢たちの冷ややかな視線が突き刺さる。

「・・・失礼しました。」

北部統括大臣らに肩を叩かれてロンド侯爵は壁際に下がった。


「さて、ルールは簡単だ。妾と交互に宝を取り合い、最後にこの腕輪を取る者が負けじゃ。この腕輪は流石に譲れないのでな。勝負に勝った時、手元にある宝は皆、其方たちの物じゃ。一度に取れる宝の数は3つまで。先手は譲ってやろう。パスは無し。どうじゃ?」

そう言って、ビルギースは自らの手首からずっしりと重い黄金の腕輪を外して置いた。


最上級品の宝石を手にするチャンスに目の色の変わった令嬢たちが次々に挑戦するも、ことごとく最後に自分のターンで黄金の腕輪だけが残り、負けてしまう。

にこにこと見守るケイン王子にこっそりとカグヤが尋ねた。

「ケインは勝てそう?」

「ひと工夫すれば。」

確信したその様子に、カグヤはまだ挑戦していないアーサーとキュリア姫の様子を窺った。アーサーは早々と降参したようだが、キュリア姫はじっと考え込んでいる。


ユーサー王子の手がそわそわと動き、視線がケイン王子とキュリア姫の間を動く。

くすっとケインは笑って、「大丈夫ですよ、ユーサー兄上。キュリア姫は法則をわかってるみたいです。ただ、切り出し方に悩んでいるようですね。」


そのケイン王子の言葉が聞こえたかのように、おずおずとアーサーを見て、彼が挑戦するつもりがない事を示すと、キュリアは、前に進み出た。

「あの、私も、挑戦して、よろしいでしょうか?」

「勿論じゃ。」

二人の前に、12個の貴石と黄金の腕輪が並べられた。



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