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白豚王女と乱暴王子の婚約事情  作者: ゆうき けい


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6 侍女モーガン

「一緒に来る?フェイ?モーガン?」

ぐるんと振りかえり、立ち上がったアーサー王子(中身カグヤ)は、モーガンに迫る。「どう言う事、カグヤを見張る気?!」

「殿下。」

流石に婚約を打診してきた女性の前で、侍女とはいえ、別の女性に肉薄するのは問題があるだろう。護衛騎士はすっと、王子と侍女の間に割って入った。

「トリスタン、構わない。それより、お前は席を外せ。」

「そう言う訳にはいきません。」

カグヤ姫からそう命じられても、トリスタンは引く気は無い。先日、アーサー王子の心情を慮って、ほんの少しのつもりで自由時間を与えてしまった結果が、これ、なのだ。帰国するまで、一瞬たりとも目を離すつもりは無い。

淡々とそう話し、アーサー王子を強引に侍女から引き剥がし、再度、ソファーに座らせる。


騎士は、王子の肩から手を離すと一歩下がって膝をついた。視線が低くなったせいで、膝掛けの下のカグヤ姫の足に金属の鈍い光が見えた。『鎧?』心の中で首を傾げる。

んー、と籠の中で伸びをして、しゅたっとベッドの上に飛び出した白猫が、カグヤ姫(中身アーサー)のその足に擦り寄った。

アーサー王子は、苛立ちを隠すことなく、カグヤ姫を睨みつけている。

「はぁ、どうやらトリスタン卿は、わたしのお願いは聞いては下さらない様子。()()()()()()から、命じて頂けませんか?」

『このままじゃ、ちゃんと話が出来ないだろ。』

フェイの魔法を使って、アーサーは直接カグヤに言葉を伝える。『さっさとしろ。』

「うるさい!命令しないで!あんた、さっさとカグヤの部屋から出ていきなさい!」

アーサー王子の剣幕に、渋々、護衛騎士トリスタンは従うが、ドアの前に控えていると言い残して去った。

「何なのよ、あの男!護衛の癖にカグヤに逆らって、むち打ちよ、むち打ち!」

カグヤは、ドアに向かってクッションを投げつけた。ぽすん、とけばけばしいピンクのフリフリクッションはドアに届かず、床に落ちる。

一方のアーサーは、自分=アーサー王子(中身カグヤ)を冷静に諌めた護衛騎士のトリスタンを複雑な思いで見ていた。

『俺じゃない、って気が付かないのか?トリスタン。』

八歳年上のトリスタンはアーサーの乳母子(めのとご)イゾルテの兄で、アーサーにとってもほとんど生まれた時から一緒に育った様なものだ。確かに年は離れているが、他の騎士達よりはよく知っている間柄だ。今はブリターニ本国で、自分の仕出かしを聞いて頭を抱えているだろうイゾルテに、出発前にくれぐれも兄には迷惑をかけないように言い聞かされて出てきたのに・・・。彼らはアーサーにとって、かけがえのない大切な者達だ。けれど・・・。


「どう言う事よ、婚約って!それに、これ、あの鳥なの?」

明日、ブリターニ王国に急遽帰国が叶う事となり、夜に送別会も開かれるらしい。のんびりお茶をしている余裕は無い筈、と、カグヤがイライラと尋ねた。

「仕方ないだろ。他の人間と結婚する訳にはいかないんだから。この入れ替わりが、いつまで続くのか、わからない以上、秘密が漏れる可能性のある所は潰していくしかない。

それとも、お前は、自分の体が知らない間に他の男に好き勝手触られたいのかよ。」

ゾゾゾっと、カグヤの体に悪寒が走った。

「む、無理。」

「な。だから、俺とお前が婚約するのが、身を守る為にも、時間稼ぎにも必要なんだ。」

「わ、わかったわ。で、でも、あの侍女って何?」


ニコニコと怪しげな笑顔でカグヤの隣に腰を下ろしたモーガン・フェイは、そっと、彼女の手をとった。

「カグヤ様はー、アーサー様と違って、現状をあんまりよくわかってないみたいですからねー。この優秀な魔法使いである僕が、傍でサポートして差し上げます。」

カグヤは乱暴にその手を引き剥がす。

「無礼者!カグヤに触れるな!」

「ほらね。」にっこり。

「あ、」

はぁあーと盛大な溜息をついて、アーサーは頭を抱える。

「引きこもりのお姫様、高慢で召使たちを人間と認識していないお前と違って、俺は、家族は勿論、騎士団や傭兵団、城下の民とも交流があるんだ。そんな所に何も知らないお前が現れたら、混乱しかないだろう。」

あんまりな言われようだ。

「カグヤだって、パパと一緒にご飯食べたりするし。」

しかし、その声は段々尻つぼみになり。

「お前さ、自分の侍女が何人いるか、とか、名前とか、知ってる?」

「そんなの知る必要ないでしょ!」

「ふーん。じゃあ、隣の部屋、見てみろよ。」

指差されたのは衣裳部屋。

「何よ!」

ふん、と立ち上がって、乱暴にその部屋に続く扉を開け、カグヤは絶句する。

「何これ・・・。」

がらんとした空間に、呆然とする。

ここには、溢れんばかりに、カグヤのドレスや帽子、靴や、アクセサリーが収納されている筈だった。

「え?何で。だって。」

幾つもの箱が運び込まれるのを確かに見ていた。

けれど。


「俺は、このまま不忠者の喰いものにされるつもりは無い。既に宰相は味方につけた。これから、成人までの六年の内に、五体満足でこの王宮から抜け出してみせる。」

「抜け出す?どうして?誰かがカグヤの物を盗んだのなら、パパに言って罰してもらえば良いだけじゃない。どうしてカグヤが、王宮を出なきゃならないのよ。」

アーサーは肩をすくめる。

「ここにいたら、いずれ殺されるからな。王宮の外の方が生き延びる確率が高いだろう?」

笑顔のアーサーだが、目は笑っていない。貧乏小国と言えど王族に生まれたアーサーは、ゲッショウ王国程の大国なら、血みどろの争いが日常でもおかしくは無いと想像している。後ろ盾のない第一王女が白豚と陰口をたたかれながらも、今まで生きてこられたのは、国王の溺愛とともに、甘い汁を滴らせる極上の蜜だったからだ。

今回、宰相を味方につけ、王女宮の人事を一新した事は、その蜜を取り上げた事になる。今後は、今まで以上に、自己防衛する必要がある。

「ていうか、お前、全然、危機感無いのな。頼むから、ブリターニではモーガンの言う事聞いて我儘言うなよ。その体は俺のだ、って事、忘れるな。」

「お互い様でしょ。カグヤの体に傷一つ付けないで!」

「おう!お前こそ、デブったら殺す。」

二人の間でバチバチと火花が散った。


「トリスタンは俺の乳母子(めのとご)イゾルテの兄だ。剣技だけでなく、智勇に優れた忠義の騎士だが、兎に角、無表情でよく言えば職務に忠実、悪く言えば融通が利かない。いざと言う時は頼りにはなるが、普段は、イゾルテ、イジーと一緒に行動しろ。」

「イゾルテ?」

「俺の一つ上で、母上の近衛をしてる。

最悪、トリスタンとイジーの二人には入れ替わりがバレたとしても、問題ないぐらいには、信頼してる。」

「ふーん。」「おい、真面目に聞けよ!」

ふん、と興味の無いふりをしながら、カグヤの頭はまだ見ぬアーサーの乳母子に思いを巡らす。はっきり言って、羨ましかった。特に、自分に仕える侍女たちの裏切りを見せられた後は。離れていても、こんな突拍子の無い事でも、信じられる人間がいるアーサーが。そして、自分には誰もいない。大国の王の溺愛される王女として、何でも持っていると思っていた。けれど、そんな彼女の立場は、非常に危ういものらしい。全然実感はわかないけれど。そして、その危うい立場は、つい数日前にぶつかっただけの男の子に手渡ってしまった。


「取り敢えず、無事、元に戻れるように頑張ろうぜ!」

そう言って、不敵に笑う笑顔は自分の顔だけれど、自分とは似ても似つかないものだった。





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