表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白豚王女と乱暴王子の婚約事情  作者: ゆうき けい


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

46/105

46 誕生日プレゼント

婚約して養子に入る前に、ネデル国民に、自分たちを知って、認めてもらいたい。


そんなカグヤ姫の要求を最初、ゲッショウ王国国王は、いくら愛娘の言葉とは言え、一顧だにしなかった。

ゲッショウ王国とネデル国では、国の規模もその歴史も段違いだ。国際社会における重要性も、比べるまでも無い。

そんな吹けば飛ぶような小国に、己の愛娘をやろう、と言うのだ。女王の地位ぐらいありがたく差し出すのは当然として、苦労をさせるなど以ての外、と思っている。十分に根回しをするように、口を酸っぱくして、宰相や近衛騎士団団長、勿論、ネデル国国王にも伝えている。

にも拘わらず、姫を狙う連中は後を絶たなかった。オキナを始めとするカグヤ姫の護衛騎士によって、暗殺者たちは、人知れず排除されていた。その度に報告は受けていたが、今回は狙われたのが、アーサー王子だった事もあり、腹は立つがゲッショウ国王自身の興味は薄い。それより、これをきっかけに婚約自体を無しに出来ないか、と、つい考えてしまう。

「婚約式を延期するのは構わないが、ネデル国行きは必要は無いのではないか?」


優秀さで知られるトキオ宰相が、カグヤ姫とアーサー王子の新居としてネデル国を整える為、三年をかけて、婚約反対派を説得し、懐柔してきた。今はもう、この養子縁組に表立って反対する者は誰もいない。国民に至っては、いままでゲッショウ王国とグラード帝国の間に挟まれ、いつ故郷が戦争に飲み込まれるかと怯えなくても済む。この国にはゲッショウ王国国王の愛娘が来るのだ。何があっても見捨てられる事は無い。そう、若い二人がもたらすであろうネデル国の未来に夢を見ている。

だから、今回の犯人もネデル国民ではありえない。


「だからこそです。」

ネデル国の大半がカグヤ姫とアーサー王子の味方である国で、彼女たちを狙う事は困難を極める。

その意味で、カグヤ姫にとって、義理の母と妹に狙われている自国の方が危うい、と言うのは悲しい事だ。

「今回の襲撃で婚約解消の噂が流れ、ネデル国民に不安と我が国への不信が生まれては、困ります。カグヤ姫が、安心してネデル国で暮らすためには、今、ネデル国の宮廷、国民にカグヤ姫の姿を見てもらう必要がある、と思うのです。」

アーサーは、自らを囮として、不穏分子をおびき出す計画を隠して、話を進める。


けれど、何かを嗅ぎ取っているのか、いつもは、カグヤ姫の味方になってくれることが多いトキオ宰相が、今回のネデル国行きには、迷いをみせている。

恐らく、アーサー王子が襲われたタイミングから、ジャスミン王女とマクシミリアン皇子もこの襲撃に一役買っている、と見当を付けているのだろう。

流石にグラード帝国が直接関与していることは無いだろうが、いくら妨害しても、ネデル国現国王の幼い姪の伯爵令嬢にグラード帝国のとっくに成人した皇孫との結婚が水面下で進んでいるのが気にかかる。もし仮に、カグヤ姫がネデル国の王位を継がなければ、本来なら王位継承権を持たない伯爵令嬢だが、その血筋とグラード帝国の後ろ盾をもって、次代の王になる未来も起こり得る。

ネデル国は小国だが、長年ゲッショウ王国とグラード帝国のどちらにも併合される事無く、独立を保っていた国だ。宰相にしても、仮想敵国の手に落ちるのは望ましくは無い。


「何をお考えですか?」

婚約式を延期する以外、誕生会もネデル国行きも予定通り執り行う許可を国王から、もぎ取って御前を辞したカグヤ姫にトキオ宰相は何かを確信したように断言され、アーサーは思わず視線を彷徨わせた。

「カグヤ姫殿下が、あのような事件の後、この時期に、婚約式を延期する理由がおありなのでしょう?私にお教え頂けないのは、誠に残念ですが、それはこの際、仕方ありません。ですが、必ず、ご無事でお帰り下さい。それと、お戻りになる頃には、その御髪ももう少し誤魔化しやすくなっておりましょう。」

そう言うと宰相は、ネデル国行きの人員を見直すべく一礼して去って行った。国王にはバレなかったが、どうやらトキオ宰相には短くなってしまった髪に気付かれていたようだ。黙ってくれていた事に感謝しかない。


愛している、と。愛娘だ、と。そう言っていても、国王のカグヤ姫に向ける関心は、他人の宰相よりも薄い。そうでなければ、12年間も本来のカグヤの状況に気が付かない筈は無いのだから。だから、アーサーは今日初めて、カグヤの為に国王に”お願い”をした。その”お願い”の内容を聞いた国王の表情が驚きから、悲しみ、愛しさと憎しみ、そして諦め、に変わるのをアーサーはじっと見ていた。最後に、カグヤ姫の”お願い”に許可を出した顔は、いっそうすがすがしいくらいで。漸く国王の中でも、何かが変わったのかもしれない、とアーサーは思った。こんな大国の国王と王女で無ければ、少なくとも第一王妃が生きていれば、すれ違うことの無かった親子に、今更ながら、寂しい思いを抱いて、アーサーは次の交渉相手に向かった。



「ネデル国王陛下にはご迷惑をおかけします。アーサー王子を狙った犯人だと名指しされれば、お立場は苦しいものとなりましょう。」

まだ50代前半にも拘わらず、草臥れた印象をあたえるネデル国国王は、カグヤ姫の申し出に慇懃に頭を下げた。

「元は、私が家臣たちをしっかり把握できていなかった事が原因です。何より、跡継ぎの事は、ゲッショウ王国にこちらからお願いしたのです。まさか、ゲッショウ王国国王陛下のご寵愛深いカグヤ姫様が我が国の様な弱小国に養子に来て下さり、女王となって頂けるとは思いもしませんでしたが。」

こっそり、この話が出てから何度もどうしてこうなったとついた溜息を内心でまたついて、ネデル国王は続ける。

「姫様方にご足労願う以上、我が国の全力を持って、婚約式を成功させましょう。」

長年、二つの大国の間で独立を保ってきた、交渉に長けたネデル国の国王が失ったものは、期待の跡取り息子だけではなく、独立の気概もだ。

まだまだ、後妻を娶って世継ぎを作ることも可能な年齢にも拘わらず、その道を諦めてしまったネデル国国王に、アーサーは立ち直って欲しい、と思う。



マクシミリアン皇子とラス司教にとって意外だったことに、アーサー王子襲撃事件は、秘される事無く、公にされた。

次いで、アーサー王子が体調を崩し、婚約式の延期が発表された。ゲッショウ王国国王は不快を示し、彼を追い出すようにネデル国行きの日程が前倒しになった。カグヤ姫もそれに付いて行く、と大騒ぎになっている。

犯人たちが口封じに殺されている事も明らかにされ、その黒幕探しは難航している。しかし、宮廷雀の間には、ネデル国の反対派の仕業では、とまことしやかに噂されていた。同じく、ブリターニ王国の反対派の関与も囁かれていた。


「私たちに疑いの目が向かないのは、どうもね、気になる。」

マクシミリアン皇子は、顎をさすりながら、誰に言うともなく呟いた。

「手の者によると、ブリターニ王国を疑わせるよう工作をしたとのことですわ。」

「まあ、元々、ネデル国にも根回しは済んでいるから、それが今になって功を奏した、と言えなくも無いのかな。」

そう言って、ベッドの上の幼い妻に目をやる。

「あれもそろそろ生まれる頃か?嬉しい話題が二つ重なると良いな。」

「御意。」



「うわぁ、姫様って、大胆だねえ。これって、自分が囮となった罠だよね。」

賑やかな酒場の裏口で、フードの人物が面白そうに腕に留まらせた鷹を撫でながら、笑みを浮かべる。

「了解、っと。」

緑の紙に自らを示すサインを認め(したため)、クルクルと巻いて鷹の足に付けられた銀色の筒に入れる。報酬のジャーキーを食べきったのを確認して、パーシィは、鷹を夜空に放った。

「ああ、姫様は本当に楽しいなぁ。」

くすくす笑って、酒場を後にする。「待っててね、先に行って、舞台を整えておくから。」



ゲッショウ王国第一王女カグヤ姫の15歳の誕生会は、特に大きな混乱なく無事に始まり、無事に終わった。そのままカグヤ姫とアーサー王子を乗せた馬車がネデル国王の馬車に先導され、北上する。

馬車の中、アーサーはカグヤにくるくると巻かれた一枚の布を渡した。

「プレゼント。誕生日の。」

そうぶっきらぼうに言い、窓の外に顔を向ける。耳の先が赤い。

そう、今日はカグヤの誕生日。カグヤ姫(=アーサー)の誕生日では無いのだ。

「え?あ、ありがとう。」

サプライズに驚くカグヤはテイに促されてその布を拡げていく。

巻かれていた物は・・・。

「これって?」

「シラユキ王妃の髪飾り。離宮でずっと見ていただろう。」

亡き母の髪を飾っていた様々な形の簪が、数本、傷つかぬよう、大切に布にくるまれ、そこにあった。

アーサーがゲッショウ国王に”お願い”して、譲ってもらった品々だ。

「ありがとう・・・。」

それらが、カグヤの持つ、初めての母の形見である事をアーサーは知っている。



旅路は順調に進んでいる様に見えた。

愛娘が治める事になるネデル国までの街道は、ゲッショウ王国内と同程度に整えられている。

ネデル国との国境の近く、街道は、深い森を避けて、西に延びている。

数騎の騎士が、そのまま直進し、森へ入って行った。

一方、馬車は何事も無く、街道を行く。

その森は、迷いの森、と呼ばれ、近隣の者たちは、決して足を踏み入れる事の無い森だった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ