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白豚王女と乱暴王子の婚約事情  作者: ゆうき けい


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41 封印の石柱 再訪

早咲きのバラが薫るゲッショウ王国の王宮庭園の一画、瀟洒なガゼボに、夜半を回ったにも拘らず、何人もの人影があった。灯りを極力絞ったランタンを持ったカグヤ姫が、隣の男に命じる。

「そのテーブルをよけて、下。小さく、王家の紋が刻まれているタイル、それを抜くと取手があるから。」

オキナは頷くと、ガゼボ中央のがっしりした作りのテーブルをぐぐぐと脇に寄せる。カグヤ姫からランタンを受け取り、床に這いつくばる様にして紋様を探す。ピンク系の色合いの大理石の床石の端に探し物を見つけた。その紋様を強く押し込むとタイルの反対側が僅かに持ち上がり、それに手をかけて、指の力だけで持ち上げた。外れたタイルの下に、カグヤ姫の言葉通り、真鍮の取手が現れた。


「多分、オキナ一人では持ち上がらない。トリスタンも手伝って。」

そうは言われても、大人の手のひら大の取手を二人で握るのは無理がある。どうしたものかと戸惑うトリスタンを他所に、オキナは剣帯を外し、取手の輪に通すと、その片方の端をトリスタンに渡した。

「あ、ありがとうございます。」

即座に対応できるオキナに尊敬の念を抱き、トリスタンは彼と呼吸を合わせて、取手を引いた。

大人一人が通れるサイズの空間がそこに拡がっていた。持ち上がった床石の裏に、縄梯子が取り付けられている。

「王族の緊急脱出用通路としても使えるように作ったんだ。」

縄梯子を降ろしながら、アーサーはにやりと笑った。



「アーサーとカグヤの入れ替わりが、モーガン・フェイの封印解除と関係してるのは間違いない。だから、一度その現場に戻ってきちんと調べた方が良いという話になった。」

アーサーがカグヤに説明をする。

アーサー王子が刺客に襲われ、しかもその刺客が黒幕不明なまま死んでしまった。

これは、ゲッショウ王国にとっても、由々しき問題だ。自国のプライドをかけて、解決する必要がある。ただでさえ婚約式の準備に追われていたトキオ宰相にとって、寿命が縮むほどのストレスに違いない。これ以上、何も起こって欲しくない、その気持ちを汲んで、カグヤ姫とアーサー王子は、大人しく故シラユキ王妃の離宮に引きこもる事にした。


表向きは。


動くなら即。

それがアーサーの行動原理。もう、自分とカグヤの秘密がバレてしまったのだから、隠れてこそこそする意味はない。しっかり周囲を巻き込んで、以前から考えていた計画を行動に移す事にした。

深夜、離宮を後にする。

警護してくれている近衛騎士達には、”敵を欺くにはまず味方から”と、離宮を不在にする事を黙っている様に命じた。

「私達を狙う者がいる以上、所在を明らかにするのは悪手だ。」と言えば、納得してくれた。大人数では目立つので、少数精鋭で移動する。一旦は王女宮に戻るが、その後も、点々と居場所を替える可能性を伝えておく。

これまでの経験上、オキナに絶対の信頼を寄せる近衛騎士達は、自分たちがしっかりと囮としての役割を果たす事で、カグヤ姫を間接的に護る事を理解している。

「お任せ下さい。何人たりとも離宮には近づけさせません。」

そうした鉄壁のガードが、中にカグヤ姫がいる事の証明になるのだから。


そんな近衛騎士達に見送られ、カグヤ姫一行が向かったのが、ここ、王宮内庭園のガゼボであった。

「三年前のあの時、俺たちが落ちた遺跡に入る為の入口は二つ。

一つはお前が助けを呼ぶために、フェイに案内されて向かったトンネルの先。今、そこは、鉄の扉が付けられ、衛兵が立っている。

そしてもう一つが、ここ。俺たちが落ちた穴、だ。それを塞ぐためにガゼボを立てたんだが、その時に緊急脱出用にも使えるようにしてもらった。」


ランタンを持ってオキナが片手でするすると縄梯子を降りていく。その横をぴょーんと飛び降りる白い毛玉。

「キャス、偵察任せた!」

その姿にむかってアーサーが声をかける。「にゃっ」と暗い穴の奥から返事が返って来た。

「次、俺が行くから、カグヤはテイの後、殿がトリスタン。悪いが、イゾルテは留守番。」

「侍女のテイ殿ではなく、騎士の私が残るの?何で?」

「・・・あまり言いたくないが、イジーよりテイの方が強い。」

アーサーの言葉に、イゾルテは納得がいかない。

「あ、じゃあ、私が残るよ。」

テイはすんなり、イゾルテに譲った。その表情も口調もこれまでの専属侍女然とした、控えめさも丁寧さも無く、イゾルテだけでなくカグヤもトリスタンもぎょっとする。


「この格好の方が、見つかった時に言い訳がきくし、ブリターニ王国の女騎士様が、王宮内庭園に一人でいるなんて、怪しすぎるもんね。」

そう言いながら、テイは服のあちこちから色々な物を取り出しては、アーサーに渡していく。

「なら、トリスタン先に行ってくれ。次はカグヤ。で、イゾルテ。最後は俺だ。俺が入った後、テイは床石を戻してくれ。但し、中から開けられるよう、完全に閉じてしまわないように頼む。テーブルも戻して、万が一、誰か来た場合に、ぱっと見違和感なく、誤魔化せる程度で良いから。」

差し出された多種多様なアイテムを、躊躇なく受け取って、服のあちこちに忍ばせるカグヤ姫を、トリスタン達は唖然と見ている。


「トリスタン?どうした?カグヤを背負って降りても良いぞ。下でオキナが待ってる。俺もすぐ行くから。」

動こうとしない三人に不思議そうにアーサーは首を傾げる。

トリスタンは慌てて、カグヤを背負うと縄梯子を降りて行った。カグヤは突然の出来事に驚いているうちに連れて行かれてしまった。穴の奥から、あわあわした声が聞こえてくる。


「オッケー。さて、姫様が使えそうなのはこんな所かな。」

テイはアーサーがきちんと装備したのを確認して、すっと表情を変えた。

「ご無事のお帰りをお待ちしています。」

そして、お手本の様なカーテシーを見せた。

「行くぞ、イゾルテ。」

アーサーに促され、イゾルテは、気まずげな表情を浮かべる。

「あ、あの・・・。」

「ご武運を。」

一礼したままに続けられた言葉に、言いかけた事を飲み込んで、イゾルテは、深々と頭を下げると縄梯子を掴んだ。

「俺の乳母子なんだよ、あまり虐めないでくれ。」

そう言って、自分も降りて行こうとするアーサーに、テイはスカートの裾をひらひらと振って答えた。


縄梯子を降りた先は、開けた空間で、後から持ち込んだ燭台にオキナがランタンの炎を移したおかげで、全体が仄かに見渡せるほどの明るさになっていた。

部屋の中央には崩れた石柱がある。

「あれが、モーガン・フェイが封じられていた石柱。三年前に俺たちが落ちて来た本来の穴はあの真上だったんだけど、流石に、ずらして入口を作ったんだ。」

そう、アーサーが説明する。

「あの時のまま?」

「当然!下手にいじられて元に戻れなくなったら大変だからな。石柱は欠片の一つも動かして無い筈だ。全力で国王に媚びを売ったよ。」


オキナとトリスタンが周囲を警戒しつつ、石柱に近づく。カグヤを促して、アーサーが一歩足を踏み出した時、突然、足元の地面が光った。

「ふしゃーあ」

キャスが威嚇の声を上げ、アーサーの前に立ちふさがる様に駆け戻り、その体が巨大化する。

「「「な?」」」

その姿に驚く暇があればこそ。

足元の光は崩れた石柱を中心とした円を描き、一瞬、眩く輝いた。


そのまぶしさに目を閉じ、再び開けた時。


そこには、壁に剣で縫い留められた一羽の鳥がいた。


「おやおや、これはまた大勢だのう。」

「あらぁ、良い男。もらっていいぃ?」

「あ、じゃあじゃあ、私はあの魔描が良い。使い魔にしたい。」

年老いた女性、若い女性、幼い少女。それぞれが好き勝手に、アーサー達一行を品定めしていた。


「マリ・ベルザンディ様?」

20代後半赤髪赤目のグラマラス美女をその中に見つけ、アーサーは驚くと共に警戒を高める。

母国ブリターニで最も尊敬を受け、伝説と呼ばれるドルイドの賢者、マリ・ベルザンディがそこにいた。

対となる二人の姉妹マリ・ウルズ、マリ・スクルドと共に。


「ここは一体・・・。」

「ソリスティスでも無いのに、狭間がつながったのかのぉ。呪詛の魔力に惹かれたか。」と老女姿のマリ・ウルズ。

「ここは、ここ。どこにでもある場所でどこにもない場所だよ。いらっしゃい、命の期限のある者達。」と幼女姿のマリ・スクルド。


「「「モーガン・フェイはそこだよ。」」」

三人のドルイドの賢者が指差したのは、壁に剣で縫い留められた一羽の鳥だった。





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