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白豚王女と乱暴王子の婚約事情  作者: ゆうき けい


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 19 ヴァニスの商人

ヴァニス商会のシャイロとラヴィンを加え、カグヤ姫のお小遣いを元手に、国民から公募した”ブリターニ王国を良くするアイデア”の選定は、より具体的な形となった。

年端のいかない子供とは言え、シャイロの経営感覚は群を抜いており、カグヤ推薦の”甘い樹液から砂糖を作る計画”についても、「1本の木から採れる樹液がAグラムとして、樹液から砂糖への変換効率を5%とした場合、樹液を採取する人件費と加工するための工場の建設・維持費用、完成した砂糖の販売ルートの確保、及び、採取木の保全管理など、考えると、販売価格はetc.etc.」と、カグヤにはチンプンカンプンながら、国の財務を取り扱う文官からは、「なるほど」「確かに」「その場合は」など、活発に質問と意見が飛び交い、疲れているはずの文官たちの表情が生き生きとしてくるのをカグヤは不思議な生き物を見る様な目で見ていた。


また、万能の天才と謡われるラヴィンは、その書類処理能力も天才級であり、山と積まれていた国中から上げられたアイデアの数々を”〇”、”✖”、”!”にあっという間に仕分けていった。

✖は、実現不可能なアイデア

〇は、現実に実現可能で、利益も望めるもの

そして、彼は国王やアーサー王子たちに、〇のアイデアの中から、優先順位を付けて着手する事を勧めた。

では!は何か。

「儂としては、こちらのアイデアは直ぐに実現は不可能でも研究に値すると思いますぞ。」

と、良ければ、自分はこちらのアイデアの実現に向けて研究チームを立ち上げたい、と申し出た。直ぐには芽が出ない、何年も何十年もかかるかもしれないが、可能性を秘めた研究。

「ロマンじゃ。」とラヴィン老師は言うものの、そう言った余裕がブリターニ王国に無いのも事実なので、この!案は、案として売りに出すことを考えても良いのではないか、とも提案する。

「アイデアを売る?ですか?」

ケイン王子が首を傾げる。そんなものが売れるとは考えた事が無かったのだ。

「左様。例えば、このロマノ時代の水道橋の復活。千年前に実際に使われていた物が天災や人災によって廃れてしまったが、整備すれば再び使えるかもしれない。その通りじゃ。じゃが、千年の内に、水道橋のあった筈の場所に、別の建物が建てられたりなどして、どのようなルートであったのかすら、わからなくなっているところもある。それらを解明し、再び道を繋ぐ。どうじゃ、ロマンじゃろう?」

そう語るラヴィン老だが、カグヤにはさっぱり理解できない。

「他にも、温泉を利用した暖房設備、とか、寒冷地作物の開発、海水からの塩の精製など、確かにこの国ならではのアイデアが多いが、少し改良すれば、他国でも十分役立つ技術の素案が幾つも見られる。」

「そうですね、我がロマーニャ連合国も周囲は海ですから、海水から塩を得る事が出来れば、岩塩を輸入する必要がなくなるかもしれません。塩は生活に密接にかかわるので、その供給が安定するのは大きいですよ。」

と、シャイロも賛成する。

「ある程度までの理論を構築し、簡単な実験で証明できれば、後の事業化は他国に委ねる。ブリターニ王国は、その発明の基本的理論を売った代金と、その後のその発明により得られる利益の一部を手に入れる、と言う形にすれば、後々、莫大な利益をもたらす可能性のある発明を譲ったとしても、一定額の利益供与は確約される。そう言う契約が良いでしょう。」

「そんなに上手くいくの?」

「それこそ、私の腕の見せ所ですよ、アーサー王子殿下。」

シャイロがドンと胸を叩く。


そして、本題である”ブリターニ王国を良くするアイデア”大賞は、〇印の実現可能で利益が望めるアイデアの中から、絞り込むことになった。とは言っても、どのアイデアも直ぐに利益が出る訳では無い。結局、三つのアイデアの発案者に懸賞金が贈られる事となった。

・既にある毛織物の技術を生かした新たな製品の開発

・泥炭地の開拓

・遷都

である。

因みに、カグヤ推しの樹木の砂糖は、諦めきれなかったカグヤが、後日、アーサーに頼み込む事により、カグヤ姫のお小遣いから資金提供を受け、!枠で研究が開始となっている。


「ここはやはり無難に毛織物でしょう。」

そう言う大半の大臣たちの意見を聞き流し、裁定者であるヴァニス商会のシャイロが推したのは”遷都”だった。

「馬鹿な!王都を移す、だと?」

「そんな事が認められる筈が無い!」

「この国の歴史を知らぬ余所者が、何を言い出すかと思えば!」

全会一致で拒否される。

その中で、彼らの子供か孫の年代のシャイロは臆することなく、発言を続けた。

「勿論、毛織物の技術を生かした新製品開発が確実性が高いです。遷都にはお金がかかりますからね。ですが、これは、もう一つの泥炭地の開発を兼ねてもいます。土地の選定と整備は今から始めておくべきでしょう。

大体、反対なら、このアイデアが最終選考に残った段階で、否定すべきです。決定後に反対するのであれば、それに代わるアイデアの提出を願います。

私共はゲッショウ王国第一王女殿下カグヤ姫様のご依頼を受けて、この場におります。お手伝いが不要と言うのであれば、仕方ありません。私共はこれにて、」


「あ、いや、待て。これは確かに、我々では思いつかない。」

ブリターニ王国国王は、退室しようとするシャイロに慌てて声をかける。

「あまりにも、規模が大きな話で戸惑っているのだ。これは流石に資金に無理があるのではないか?」

この言葉を待っていた、とばかりに、シャイロはにっこりと微笑んだ。その目の奥に肉食獣の光を見たような気がして、カグヤはぞっとした。

「その件についてご相談がございます。

貴国とゲッショウ王国で提携する予定の伝書鳥による情報伝達を事業化してみませんか?」


その後、ブリターニ王国宮廷は、ヴァニス商会シャイロによる”情報の価値について”、という講義を延々と聞かされるのだった。


「つまり、私が言いたいのは、情報とは、これ程に価値のあるもの、なのです!」

話に一区切りがついた時、誰も、シャイロに反対する気力は残っていなかった。

「と、言う訳で、国王陛下。この度の伝書鳥の件、是非、このヴァニス商会シャイロを窓口に使っていただけないでしょうか?」


後半は疲れて半分聞き流したようなものだったが、これまで、普通に諸外国を飛び回る傭兵団への連絡に伝書鳥を使っていたが、実は、その技術は、非常に価値の高いものだったことを知った。

もし、ここでシャイロが言及していなければ、自分たちブリターニ王国は、百戦錬磨のゲッショウ王国に良い様に転がされ、みすみす、自分たちの特別な技を安く、もしかすると、不当に奪われていたのかもしれない。そう思ってしまった。

そう考えると、ロマーニャ連合ヴァニス商会の狙いの裏も見えてくる。


「しかし、シャイロよ。もし、我が国の伝書鳥の技術が他に先んじて進んでいるのなら、お前たちヴァニス商会の狙いも伝書鳥を使っての情報収集、で良いのか?」

「はい。私共の、いえ、私の望みは、このユーラリナ大陸全土、いえ、もっと言うなら、他の大陸ともつながる一大情報網の確立です。」

「大陸全土?」「他の大陸?」

それを聞いた多くの者は、何を馬鹿な、夢物語、子供の考える事、疲労も相まってか、そんな否定の言葉を呟いた。

ぐっと、シャイロの唇が引き結ばれる。


そんな中、「うるさい。」と、小さく吐き捨てて、不機嫌さを隠さないアーサー王子が、席を立った。

「夢を語って何が悪い。」

『おなか減った。』

初の公募による公共事業の選定会議は午前中から始まったにも拘わらず、シャイロの長演説や、各アイデアの検討で既に、午後の遅い時間になろうとしていた。

ゲッショウ王国でのカグヤ姫時代、午前のお茶、昼食、午後のお茶、夕食、夜食、とそれなりの量を一日中、食べていたカグヤにとって、朝のビスケット数枚の食事?の次が夕食、となっているアーサー王子たちの食生活は、体は問題がなくとも、心が、空腹を訴える。今、延々と続いた選定会議に決着がつこうとしている。にも拘わらず、くだらない事で上げ足を取り、決定を先延ばしにしようとする貴族たちに、カグヤのただでさえ短く脆い堪忍袋の緒は、切れてしまった。

そんな訳で席を立ったアーサー王子のおかげで、選定会議は、あれ以上混乱することなく、最優秀アイデア”遷都”を認め、その実現にむけて動き出す事となった。




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