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白豚王女と乱暴王子の婚約事情  作者: ゆうき けい


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 16 ”伝書鳥”の波紋

「よくは知らないけど、鳥を使った連絡方法があるらしい、と聞いたから、ゲッショウ王国なら、絶対使ってると思った。」


伝書鳥の詳細を教えて欲しいと宰相と一人の文官が、訪れた時、アーサーはしらばっくれる事に決めていた。専属侍女テイが、ブリターニ王国の機密に関わる、と忍びとして警告をくれたのだ。これ以上、他国に知られる訳にはいかない。


「そう、そうなのです!」

食い気味に前のめりになる文官に対し、ぐいっとオキナが間に太い腕を差し込んだ。もう片方の腕が、文官の肩に伸ばされ、慌てて彼はソファーの背に背中を張り付けた。


「申し訳ございません、カグヤ第一王女殿下。」

あわあわと謝罪をする文官はアーサーの前に数冊の古い冊子を置いた。

「鳥を使った通信と言うのは、実は、かなり古くから知られております。」

そしていきなり話し始める。

「資料によりますと、鳩を使っていたそうでございます。ただ、きちんと相手方に届かない事が3割ほどあり、更に、途中で通信内容が改ざんされたり、など、まあ、速い事は速いが、機密文書の運搬には向かない、となり、我が国では、街道を整備し、伝令が早馬を走らせるのが主流となりました。」

「あー、鳩じゃなぁ。配達途中で猛禽類に襲われることもあったんだろう。」

つい、自分も良く知っている話題にアーサーは口を開いてしまった。

我が意を得たり、と文官がまた、身を乗り出し、オキナに引き戻される。


「落ち着きなさい。トーマス交通・交易省次官。

申し訳ございません、カグヤ第一王女殿下。この者は、我が国の交通・交易を管理する省の次官を務めておりますが、以前より、交信網の確立を願い出ておりまして、この度、王女殿下のおっしゃられた”伝書鳥”を検討するに当たり、何をおいてもお話をお伺いしたい、と、こうしてまかりこした次第です。」

トキオ宰相が、文官を紹介し、トーマス次官はテイの入れた紅茶を一息で飲み干した。


「そう言われても、わたくしも、良くは知らない。」

同じく、お茶を飲んで、一息入れ、別段、拙い事は言っていないと、アーサーは内心ほっとする。

膝の上にキャスを乗せて、その喉をくすぐりながら、慌てて口を開いてしまわないよう、キャスに集中する。空色のビロードのリボンに金色の小さな鈴のついた首輪は、白猫にとても似合う。


紅茶でのどを潤したトーマス交通・交易省次官は、更に滑らかに話し続ける。きっと、アーサーの言葉は耳に入っていない。

「そうなのです。ですから、我が国では、伝書鳥は鳩から鷹に変更したのですが、そうすると今度は、なかなか、言う事を聞きません。また、鳩と違って、長距離を跳ぶのに向いていないのか、途中で引き返してくることも多く・・・。結局、挫折。

ですが!そんな伝書鳥を使いこなしている国があるのです!それが、カグヤ第一王女殿下のご婚約されるアーサー王子殿下の母国、ブリターニ王国なのです。

なので、是非、是非、ブリターニ王国の伝書鳥にまつわるノウハウを、わがゲッショウ王国にお教え願えないでしょうか?」

突然、トーマス次官は、床に身を投げ出すと、カグヤ姫の足に縋りつかんばかりに詰め寄った。

当然、目の前にはオキナの巨大な剣が、鞘ごと突き刺さっている。


「わかりました。アーサー王子殿下に、おねがいしてみます。」


そんな流れに巻き込まれつつ、アーサーは漸く一人でゆっくりお茶を飲んでいた。

「なぁ、キャス。貧乏小国の俺の国でも、この大国に勝っている事があったんだな。」

この国を訪れてから、ずっと、卑屈に感じていた。だが、今回の伝書鳥の件で、気付かされた。

ブリターニ王国には他にも誇れるものがあるのではないか、と。それに、この伝書鳥の飼育・調教の技術は、使い方によっては、大きく世界を変える事になるかもしれない。情報が早く伝われば、何をするにも他国に先んじる事が出来る。これまで、ブリターニ王国は、情報を得ていても行動に移すための、金と人が足りなかった。もしくは、そんな使い方を考えたことも無かった。

「親父殿、上手く、やれるかなあ。」

不安になる。アーサーは、今、ゲッショウ王国にいて、この国が、伝書鳥のノウハウを非常に欲している事を知っている。だから、少々強気に技術を売りつけたり、大切な部分は売らなかったり、駆け引きをするうえで有利だ。


「キャス、俺さあ、今まで、そんな事、考えた事無かったんだ。」

白猫を抱き上げて、視線を合わせる。いつも小さく丸い猫が、みのーんと驚くほど長く伸びる。

ぷはっと笑って、アーサーはキャスを抱きかかえ直した。

「きっと、今までの俺なら、伝書鳥の問題なんて、親父殿か兄上が考える事だって、気にも留めなかった。もし、難しい事になっても、きっと、ケインが何か良い案を出すだろう、って、全く、関わろうとしなかった、と思う。逃げてたんだな、きっと。」

「だけど、これって、俺のせいなんだよな。俺が何も考えずに伝書鳥の事を聞いたから、こうなったんだ。知らない、出来ない、で済ませられないよな。」

白猫はゴロゴロと喉を鳴らすだけだ。それでも、アーサーは話し続ける。

「それにさー、暇なんだよ、この生活。嫌になるよな。生きるために、食べるために、必死に何かする必要が無いと、退屈するんだな。知らなかった。そりゃあ、持ってる奴の所には、益々集まるわけだ。」

自嘲気味に笑う。

「ダイエットと筋トレは一日にしてならず、ってのは知ってる。勉強も一緒だな。幸い、このカグヤ姫の為に、宰相さんが家庭教師を新しく雇ってくれるらしいんだ。

俺、ちょっと、頑張ってみるよ。こんな白豚と入れ替わるなんて、なんて悲劇だと思ったけど、チャンスに変えていけばいいんだよな。元に戻るまでに、この国で手に入れられるもの全て、手に入れよう。」

「応援してくれよー。」

スリスリと寄せたもちもちぷよぷよの頬を白猫キャスは、勿論にゃ、とぺろりと舐めた。


翌日、アーサーは、もう一通の手紙を書き上げると、それを王都の一番大きな食肉ギルドに届けさせた。この時代、目的を持った伝令以外で手紙を託すなら、巡礼者や商人が一般的だ。その中でも、日々の生活に欠かせない食用肉の流通を担う商人たちは、移動距離と確実性において、他を抜きんでている。


ブリターニ王国の傭兵団に仕事を依頼する方法は主に2つある。一つは当然、ブリターニ王国に正式に依頼する方法。もう一つは、傭兵団に直接、依頼する方法である。しかし、傭兵団は、その仕事柄、常にブリターニ王国には在中していない。仕事場を世界各地に求める彼らの居場所を見つけ出すのは、大変だ。

そこで、肉を扱う商人が絡んでくる。

傭兵団の団員は、肉体労働者だ。よって、肉が大好きだ。毎日、傭兵団には肉屋が肉を卸しに行く。

と言う訳で、カグヤ姫は、隣国トーリアとの国境に近い渓谷で、吊り橋をかける手伝いをしていた金角傭兵団に連絡を取る事が出来たのだった。


ブリターニ王国の傭兵団は二つ。金角と銀牙。


戦争には工兵も必要だから、傭兵団がその仕事をする事も多い。

今回、アーサーは金角傭兵団に、ゲッショウ王国が伝書鳥の仕組みを知りたがっている事、一歩間違えると、ブリターニ王国の国益を大きく損なう可能性がある事、を暗号化して送っていた。後は、受け取った金角傭兵団の団長の判断に任せるしかない。


伝書鳥について、後は知らぬ存ぜぬを通し、アーサーは、新しく来た家庭教師に、ゲッショウ王国を中心とした国際情勢を中心に講義を受けている。これまで、避けていた勉強だったが、教え方が上手いのか、寝落ちすることも無く、毎日、新しい事を知る楽しさに目覚めつつあった。

その一方で、ダイエットも兼ねて、王女宮以外の王城散策など、これまでのカグヤ姫が避けていた人目に触れるような場所にも、毎日、出かけている。

その甲斐あってか、カグヤ姫の悪い噂は少しずつ、影を潜めていったのだった。


そんなある日、カグヤ姫を尋ねて、一人の男が現れた。



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