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白豚王女と乱暴王子の婚約事情  作者: ゆうき けい


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15/105

 15 銀行

「と、言う事があってね。」

モーガン・フェイの報告に、アーサーはそうだろ、そうだろ、と非常に満足げに頷いた。

『やっぱり、ケインは天才だな。』

「で、どうなった?」

「いやー、何言ってるんですか、カグヤ姫様。先ずは、貴女に銀行を紹介して頂かないと。アーサー王子様は銀行の名前すら知らないんですから。」

それは本物のアーサーなら仕方のない事だが、本物のカグヤが知らない、とは、一体どういうことなのか。

「だって、仕方ないでしょ、カグヤは、あれ欲しい、って言えば、いつの間にか届いてたのだから。銀行家に会っていたとしても、名前なんて聞かないわ。」

超大国の王女様の買い物など、そんなものなのかもしれない。アーサーは心の中で溜息をついて、「わかった、調べておく。」と答えた。


「ロマーニャ連合国ヴァニス商会でございますね。カグヤ姫様の契約銀行は。」

早速翌日、アーサーは護衛のオキナを連れて、宰相を尋ねた。

カグヤ姫の銀行、について尋ねた所、直ぐに返事が返ってきて驚く。

「・・・。銀行は金を運用するところ、と聞いた。カグヤの金は残っていないのか?」

今までも散々、第二王妃たちに王女宮の予算をかすめ取られていたのだ。契約銀行だけそうなっていないはずが無い。

けれど、白髪の宰相は、口元をふっと緩めた。

「流石に契約銀行の口座は無事でございました。本当の契約者様は亡くなられたシラユキ第一王妃殿下であらせられますから、第二王妃殿下であっても、そう簡単に好き勝手出来るものではありません。」

そうして探るような視線を向けた。

「銀行をどうなさるおつもりですか?」


何と説明したものか。アーサーとしては、母国ブリターニの為に、出来る事があるなら何でもやりたい。カグヤが使って良い、と言った。そうする事でアーサー王子の体に入っている彼女が、きちんとした食事や生活が送れるから、カグヤ自身も積極的に使って、と言っていた。

但し、それは当人たちの立場での事。

ゲッショウ王国宰相の立場からすれば、いくら婚約者とは言え、カグヤ姫の資産をアーサー王子の為に好き勝手に使わせることは、許可できないだろう。

考え考え、アーサーは説得を試みる。


「先ずは、ブリターニへの小麦の供出、感謝する。これで、この冬は餓死者がかなり減るだろう。だけど、毎年、小麦を無償で渡す事は、出来ない。だよな。それ位は、お、私でもわかる。ブリターニ側も理解しているだろうから、一息つけるこのタイミングで、新しい事を始めようとしているんだ。」

「その為の資金、と?」

「いや、えっと。カグヤの小遣いを懸賞金にして、国を豊ににするアイデアを募集する。その中から、銀行が金を出しても良さそうな、物になりそうな事業があれば、ってレベルの話なんだ。だから、銀行家にブリターニ王国に投資?をしてもらえるか、先ずは、そこから、になるんだけど。ブリターニは銀行家に伝手が無いから、カグヤに紹介して欲しい、って。」

「ふむ。」


宰相は長いひげを撫でながら考える。

こんな説明で良かったのか?アーサーもキャスを撫でながら、宰相の様子を探る。


『このお考えは、カグヤ姫様が思いついたのだろうか?ご婚約者であるアーサー王子の国が貧しいのは、周知の事実。ご婚礼まであの国に小麦を供出する事位、このゲッショウ王国にとっては、大した負担では無い。けれど、実家からの援助に頼らず自国で何とかさせよう、と考える、その方向は非常に素晴らしい。例え、ご結婚の後、お二人がネザーランドの王になるとしても、ブリターニ王国の立て直しに尽力された経験は、その後のネザーランドの運営に大きく役立つに違いない。

それに。』

宰相は、不安げに自分を見る第一王女を観察する。

『あの事故以来、姫様はお変わりになろうとしている。王女宮の改革もそうだが、ご自身の生活もかなり見直された、と聞いている。確かに、ドレスもシンプルになったし、ご年齢を考えない厚化粧もすっかり落とされた。体形も・・・。まあ、これは、直ぐには結果は出まい。勉学にも以前よりは真剣なようだ。』


「よろしいでしょう。ヴァニス商会に連絡を入れましょう。ですが、カグヤ姫様、ブリターニ王国の振興は困難かもしれません。そこは、ご理解いただけますか?」

ぱっと、カグヤ姫の表情が輝いた。

「勿論、わかっている、宰相。ブリターニも、これまでも色々やってはいるんだ。ただ、金が無くて、手が出せなかったこともある。今回、ゲッショウ王国の援助でひょっとすると、何か見つかるかもしれない。国民には希望が必要だ。ありがとう!」

白猫を抱き締めて、嬉しそうに立ち上がり、カグヤ姫は宰相に頭を下げた。

その姿に硬直する老人を残し、アーサーはドスドスとドアに向かう。

「直ぐに手紙を書かなきゃ。あ、オキナ、カグヤが使える伝書鳥っているの?」


「私に頭を下げられた?お礼を言われた?」

宰相を始め、室内にいた秘書官たちは護衛を引き連れ去って行ったドアを暫く呆然と見つめていた。

我儘、高慢、贅沢。散々悪口を言われていた白豚王女の変化に付いて行くには、老人の常識が邪魔をしそうだ。

「これは、これは・・・。面白い事が起こりそうですねぇ。」

彼の筆頭秘書官が、クスクスと笑いながら、上司を振り返る。

「ヴァニス商会には、資金だけでなく、人材の提供も検討するよう、連絡いたしましょうか?」

その提案に、宰相は頷いた。

「姫様に新しい家庭教師を手配する事も考えても良いかもしれない。・・・。ところで、伝書鳥とは何か、知っている者はいるか?」

その問いに、答えられる者はこの部屋にはいなかった。

「手紙、とおっしゃっておられましたから、関連部署に聞いてまいります。」

筆頭秘書官は一礼してその場を辞す。

カグヤ姫の周囲で何かが動いている。今の所、それは、まだ小さな動きだが、国を巻き込んでの大きなうねりになりそうな、そんな予感を宰相は抱いた。


「そっか、伝書鳥って使わないのか。便利なのに、あれ。」

自室に帰り、さて、カグヤに銀行の名前やトキオ宰相が約束してくれたあれこれを手紙に書いたところで、この手紙が届くのは、どれぐらい先になるかを思いついて、アーサーは少し残念に思う。

満月では無いので、鏡の道は使えず、直接、カグヤやフェイと話をする事が出来ない。盛り上がった気持ちのまま、手紙を書いたが、何日も経って向こうに届き、何日も経って返事が来る、のはとてももどかしい。


「婚約者への手紙を届けるためだけに、流石に、早馬を走らせるわけにもいきませんからね。」

入浴後のカグヤ姫の髪の手入れをしながら、専属侍女となったテイが言う。

「あれ?でも、ひょっとして、姫様ならいけるんじゃないですかね、国王陛下に可愛くおねだりしてみては?」

鏡の向こうで、ニヤリと笑う。途端に顔を顰めるアーサーの頬肉をタプタプと揺らす。

「おい。」

「ふふっ。私のお仕えするカグヤ様は、そんな事なさらないと知ってますけどね。噂のカグヤ様ならあり得たのかなぁ、と思いまして。」

お肌のマッサージしますね、と、頬から首、肩と適度な力を入れてもみほぐす。

「姫様、少し、すっきりとしてきましたね。爪のお手入れもされますか?」

『忍びを走らせますか?』

そうして、声を出さず口の動きだけでそう尋ねる。

「いや、今回はいらない。」

アーサーは、見かけの質問と本当の質問に同時に答えた。

「では、おやすみなさいませ。」


カグヤ姫をベッドにいざない、枕元のテーブルに水の入ったポットを用意すると、テイは静かに、部屋の灯りを落とし、部屋を出る。

直後に窓の外から、声がかかった。

「姫様、伝書鳥ってアーサー王子から聞いたの?あれってかなり特殊な通信手段だからね。普通は、早馬だよ。あたしら忍びは特別な訓練をしてるし、普通の人が通らない所を走るから、場所によっては早馬並みに情報を届ける事が出来るけど、空を行くだけあって伝書鳥って別格だから。」


ユーラリナ大陸西方に強大な領土を持つゲッショウ王国は、端から端まで馬で駆けたとしても10~12日はかかる。緊急の場合は、馬を乗り換えて走らせ、7日程になる。これはあくまで軍馬を夜間も不眠不休で走らせた場合で、本来はありえない速さだ。国内外の安定しているゲッショウ王国では、情報の速やかなやり取り、に対する重要度の認識は低いが、主要街道がきちんと整備されている為、この速さが実現可能だ。トキオ宰相としては、地方街道の整備の必要を感じている部門でもあり、今回、婚約を結ぶブリターニ王国とのやり取りに乗じて、取り掛かるのも悪くない、と思っている。


そんな背景を伝えたテイは

「こんな重要な情報をポロンと姫様に教えちゃうなんて、アーサー王子って、言うか、ブリターニ王国の機密管理が不安。」

とのつぶやきを残して、消えた。


ベッドの上でアーサーは頭を抱える事になる。

『拙い、のか?だって、みんな普通に使ってたじゃん。』



伝書鳥についての詳細を尋ねて、宰相と筆頭秘書官が、改めて、カグヤ姫に面会を申し込めてきたのは、数日後の事だった。



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