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白豚王女と乱暴王子の婚約事情  作者: ゆうき けい


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13/105

13 アーサーの家族

『何これ、これが王城?』

心の中で叫んだ。声に出さなかった自分をほめてあげたい。ここまでの旅の中、カグヤはかなり忍耐強くなったと思う。ブリターニ王国の王都ディンバラン。王都自体が、ゲッショウ王国の地方都市レベルなら、王城は領主の館より、ともすれば質素だった。

国力の違いと言ったらそれまでなのだろうが、こんな街の真ん中に、普通の家の様に立っている。堀も塀もなく、隣の建物との距離も近い。城と呼ぶには無防備な建物。せめて3階建てなのが一応、他と差別化されている、と言った所か。

馬車から降りて唖然とするカグヤをしり目に、使節団は解散していく。アーサー王子と護衛騎士のトリスタン、使節団と共に帰国した大使が、その建物・王城に向かう。

カグヤにすれば、『え、扉、木なの、石じゃないの?』から始まり、『うわっ、狭っ。これホントに廊下?下働き用の通路じゃ無いわよね、知らないけど。』『何、もう広間なの。ってこれ、広間じゃ、全然無いし。』と、脳内で突っ込みまくっている内に、ブリターニ王国国王の前に着いてた。


大使が跪き、護衛騎士は静かに正面から去り、右側に並んだ騎士達の下座に着く。突っ立ったままのカグヤの裾をそっとモーガンが引っ張り、膝裏をしたたかに押された。かくん、と体勢が崩れ、片膝をつく。

「な!」

怒って振り返ろうとしたカグヤに、視線で王前である事を知らせるモーガンに、ムカッとしながらもカグヤはずっと習っていたブリターニ式の騎士礼をとる。

「ただいま戻りました。父上。」


ざわ、と広間に詰めていた貴族たちの間に動揺が生まれる。


「うむ、よくぞ戻ったアーサーよ。此度のゲッショウ王国第一王女の誕生会への参加、ご苦労であった。

それで・・・。其方が、第一王女の婚約者になった、と言うのは本当か?」

流石に、こんなメガトン級の爆弾、当事者の父親が知らない筈がない。よって、これは単なる確認、なのだが・・・。嘘であってくれ、と言う期待(?)を周囲からヒシヒシと感じる。

「は、ぁ。ま、ぁ。そう?なるのですか?」


もし、成人の16歳までにこの入れ替わりが解消出来たら、婚約は無かった事にする。

カグヤとアーサーは、魔法使いフェイを証人に、そう言う婚約宣誓書に署名している。

疑問形のアーサー王子の返事に、片眉を上げて、ブリターニ王国国王は、視線で大使に問う。

「恐れながら申し上げます。国王陛下の許可が頂ければ、このお話は私が進めさせていただきます。」

そう言って差し出したのは、ゲッショウ王国の国璽の押された正式な婚約の書類だった(当然、カグヤとアーサーが署名した物とは、全くの別物である)。

宰相補佐が受け取り、宰相が目を通した後、国王の元に届けられる。

「ふむ。確かに。」

隅から隅まで目を通し、それを何度も繰り返して、やっと国王は顔を上げた。

「本当の様だな。」

『長い!何度確認してるのよ!』

ずっと、片膝をついて控えているカグヤは、長い間頭を下げさせられている事に、我慢がならない。

『疲れてるのに、いつまで待たせるのよ。それに床!汚い。古い。冷たい。』

イライラオーラがカグヤから立ち昇りそうだ。


「楽にせよ。」

やっとそう声がかかり、カグヤは怒りの感情を表さないようゆっくりと顔を上げた。

そこには複雑な表情をした国王と王妃がいた。それは、為政者としての顔に隠し切れない両親としての感情が紛れていた。

「この婚約お受けしよう。」

「「「おめでとうございます!」」」

臣下たちの声が、揃った。


その後、ゲッショウ王国宰相から、当初の予定より滞在期間が延びた事へのお詫び、としてと目録が国王に手渡された。封蝋を解いて中身を確認したブリターニ王国国王は、またしても瞠目する。

目録には、ブリターニ王国国民を半年は飢えさせずに済むだけの小麦の提供が約束されていた。

『宰相って誰だっけ?あんまり覚えてないけど、わざわざ、そんな事したんだ。』

他人事で聞いていたカグヤだったが、明るい表情を浮かべた大臣たちが次々に勝手な事を言い始めると、胸の奥がどんよりとして来る。

「おおっ、流石はゲッショウ王国。」

「正式な婚約成立となれば、持参金はいかほどになるのか?」

「それがあれば、我が国も一息付けますな。」

玉座で、国王は苦笑いを口元に浮かべた。王妃の顔は次第に土気色になり、とうとう、席を立つ。それに合わせ、国王はアーサー王子にも退室を命じた。

「アーサー、ご苦労であった。夕食まで休むと良い。」

「はい。」

広間を下がるアーサー王子にも「お手柄でしたな。」など、声がかけられる。が、不機嫌を隠そうともせず、カグヤは無視した。それをどう勘違いしたのか、いかにも同情したような声が上がる。

「お可哀そうに。流石のアーサー王子も白豚王女がお相手では怒りたくもなるでしょう。」

衛兵がカグヤの為に扉を開け、そして、閉めた。広間のざわめきが遠くなる。


「ふざけないで、怒ってるのはこっちよ。」

両拳を握りしめ、カグヤは呟いた。

散々、ゲッショウ王国からの援助を有り難がったその舌の根も乾かぬうちに、その援助が誰のおかげで得られたのを忘れ、恩人を貶す。あまつさえ、アーサー王子を同情する様子をみせてはいるが、その実、貧乏くじを引いたと笑っている。そんな貴族たちに虫唾が走る。


「ご立派でしたよ、アーサー王子。」

半歩後ろに従うモーガンが、そんなカグヤの気持ちを更に逆撫でした。ガン無視して、ドンドン歩くが、勿論、初めての場所である。気が付くとアーサー王子の自室どころか、ここが王城であるのかすら、わからない場所に立っていた。


「アーサー。」

柔らかい女性の声が、この体の持ち主の名を呼んだ。

しばらく、自分の事と気が付かなかったカグヤは数拍おいて、ゆっくり振り返る。その視線の先にいたのは、まだ、顔色のすぐれない王妃だった。

「はは、うえ?」

カグヤにとっては呼び慣れない呼称。

カグヤの母、ゲッショウ王国第一王妃は、射干玉の髪と瞳をし、白磁の肌を持った華奢な麗人だった。王宮の国王の私室に大切に飾られた肖像画で確認しても、カグヤはおぼろげにしか覚えていない。その実母は、目の前の女性とは全く似ていない。

どちらかと言えば、その金色の髪と青い瞳は、第二王妃と同じ色合いだ。にも拘らず、第二王妃に感じる冷ややかさを感じない。少し垂れ気味の目がそう思わせるのか、困った様な笑顔で、ブリターニ王国王妃は微笑んだ。

「お帰りなさい、アーサー。初めての親善外交が大変な事になってしまったわね。疲れたでしょう?一緒にお茶をしましょう。」

迷子のカグヤは無事、王妃のサロンに到着した。


そこには国王を除く王族が揃っていた。

ブリターニ王国王妃グィネス、第一王子で王太子であるユーサー18歳、第三王子で7歳のケイン。兄のユーサーは軽く微笑んで手を挙げ、弟のケインは席を立って飛びついてきた。

「お帰りなさい、兄上!ゲッショウ王国のパーティは如何でした?」

事前のアーサー情報によると、兄は真面目な堅物だが、優秀な跡取りとして、既に国政の一端を担っており、弟はまだ幼く病弱ながら天才的に賢く、将来の宰相として期待されている、らしい。


「つまらなかった。」

子供に抱きつかれるなどと言う経験のないカグヤは面食らってしまったが、一方で、いつもなら、自分を高く持ち上げてぐるぐる回してくれる兄が、ぶつかった衝撃でふらついたのにケインもびっくりしてしまう。

「兄上?お加減でも悪いのですか?」

「ケイン、アーサーも長旅から帰ったばかりですよ。向こうでは気疲れもしたでしょう。さぁ、座って、お茶にしましょう。」

「はい、お母さま。」

兄上、こっち、と手を引かれ、アーサーはユーサーと向かい合う席につく。

「はは、アーサーが気疲れ?母上、それはありえませんよ。」

ユーサーの軽口に思わず頷くカグヤに、ユーサーは首を傾げた。「言い返してこない?どうしたんだい、アーサー。お前がこの兄の言葉を素直に認めるとは、夏だと言うのに雪でも降るのかな?」

「ユーサー。」

グィネス王妃が軽く息子を咎めた後、暖かな視線をアーサーに向ける。

「今回の外交でアーサーには得る物があったのでしょう。ですが、アーサー。」

母親の顔になり、グィネス王妃は心配そうに尋ねた。

「本当に良かったの、アーサー?ゲッショウ王国第一王女との婚約。」

カグヤの両肩に力が入る。〚ああ、やはり、この人も噂の白豚王女との婚約を望んでなどいないのだ。』

「良いも悪いも、我が国に選択権は無いのですよ、母上。」

ため息交じりにユーサーが言う。

「大使の話では、お前はかの姫君に大けがを負わせたらしいじゃないか。戦争にならなかったばかりか、賠償金さえ要求されず、アーサーとの婚約で済ませてくれるなんて、驚きを通り越して信じられなかったよ。おまけに食糧支援までして頂いて。一体、どんな魔法を使ったんだい?」

探るような視線を向けられ、カグヤはひるんだ。

実際、カグヤを溺愛する父王の態度から、それは99%起こりうる未来だった。だからこそ、不本意ではあるものの、アーサーことカグヤ姫の提案に乗ったのだ。入れ替わったまま、ブリターニ王国との戦争になれば、アーサー王子の中のカグヤが一番に殺される。


「そうね、例え最初が償いの為であっても、それでも、わたくしはアーサーの幸せを願うわ。」

「傭兵団を率いて、あちこちの戦場を渡り歩くより、傀儡と雖も一国の国王の座が約束されたのです。貧乏王国の第二王子には、過分な出世、と口さがない者も多いのも仕方ありません。」


「ユーサー、控えよ。」

漸く全ての報告を聞き終え、広間から戻って来た国王は、静かに苛立ちを纏い始めた王太子を諫めるのだった。



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