王宮にて⑥ ~ミゲル視点Ⅱ~
取り巻きミゲル視点パート②です。
「先ほどの話に戻ります。このままでは内乱に突入します。その回避の為です」
「どうして破棄で内乱になるのだ!? 話が飛躍しすぎだぞ」
「ここからは余が父としての立場も交えて話そう」
陛下がお声を発した事で殿下も矛を収めて椅子に座りなおした。さっきの二の舞にならない様に今度は感情的にならなければいいけど、無理かな。
「当主の与り知らぬ所で勝手に一方的に落ち度があった訳でもないのに破棄を宣言されたんだ。これで抗議しないのはあり得ない。それは理解してるな?」
「……はい」
「余が破棄を追認しようものなら内乱、独立、非協力など抗議の方法は様々だ。しかも余はもちろん侯爵にも相談はおろか報告もしていない。何も起こらないとは思っていないだろうな」
「……はい。ですが、先ほどもご説明しましたが影響は軽微と判断しました」
「その軽微とは何を指しているのだ?」
「抗議文が届くくらいです」
「はあ。その程度に決着すると想定していたら確かに軽微だな。子煩悩で有名な侯爵の心象は最悪だ、抗議文だけで済む訳がない。侯爵家の利益に反してでも反撃する事は貴族として当然だ」
「しかし、長い王国の歴史の中で婚約破棄は数える程ですがありました。内乱まで発展している例はありませんでした」
そう、一応王国史は調べたのだ。調べた上で抗議文と多少の便宜で問題ないとして進めたのだ。だが、幾ら問題ないとは言っても敢えて侯爵家と敵対する理由にはならない。過去例はないとは言っても今回も同じとは限らない。時代や相手など状況が何もかも違うのに同じ結果になると思っていた。いや、思い込んでしまった。自分たちに都合の良いように。
「過去は過去だ。参考にはするが盲信は愚策だ。過去に従うなら王とはなんだ。王の決断に意味がなくなるな」
「そ、それはそうですが」
「付け加えるなら破棄にまでなった例は王族、貴族共にある。だが今回と違う点は勝手に一方的に破棄を宣告していない。もう一度聞くが事前に余や侯爵に話がないのだ?」
そう。結果だけを見て経緯を判断材料に組み込まなかったのが原因だ。
「そ、それは……」
ここまでくると殿下はしどろもどろになり、視線は彷徨い汗は滝の様に流れている。理知的な陛下とは対称に殿下は感情論で冷静とは程遠い。
「陛下、軽微だと判断した為に事後に報告し婚約破棄を覆させない様にした為です」
「お前は黙っていろ! ミゲル」
余りにも支離滅裂で話が進まなかったので思わず口を挟んでしまった。事ここに至っては形勢は不利。いや、不利なんて次元ではない。自分たちの非を素直に認めてしまう方が陛下の心象は良いだろう。何よりも言い訳が酷くて見てられない。
「そんな理由だとはな。では、事前に相談していれば反対されると分かっていたのだな」
「反対されるとまでは思っておりませんでした。ただ、事前に相談すると対策を立てられ時間が掛かると判断しました。それでも賛成するだろうと見込んでおりました。結果を見せつけた方が手っ取り早いと甘い認識があった事は事実でございます」
「黙っていろ! ち、陛下違うのです。この様な些事にお時間を取らせる訳にはいかないと判断したのです」
あ、と思った時には遅かった。婚約破棄を些事とはどう言い繕っても言い逃れは出来ない。マズいと思ったのか殿下もはっとした顔になったが、両陛下のお顔が一層怖いものへと変貌した。
「フェルナンド、婚約破棄を些事と考えているのね。幼い頃より厳しい王妃教育をしたマルグリット嬢に随分と酷い仕打ちをするのね。第一、ナターシャ嬢は王妃教育をされているのかしら?」
「いいえ、これには特別な教育は施しておりません」
王妃陛下からのご下問に初めてバウマン男爵が簡潔に発言なされた。一番爵位が低い事もあって、成り行きを見守っていたが令嬢の事になったので黙ってはいられなかったのだろ。
「だそうよ。王妃教育の予定はいつを考えていたの?」
「そ、それは婚約成立後に」
「あら、それだと各国に恥を晒す事になるからお披露目も出来ないわね。数年の教育を一晩で出来るとでも?」
「い、いえ。教育が終わるまでは婚約発表はしないつもりで」
「あら。先ほど破棄と婚約を同時発表する予定と言っていたわよね。どちらが正しいのかしら?」
「そ、それは……言葉のあやでして」
もう幾ら何でも無理筋だ。答えが理路整然としていないし殿下の態度が怪しい事この上ない。陛下には感情的になっていたが、王妃陛下には弱いらしい。
「もう一つ。側妃では駄目な理由は?」
「そ、それは……」
側妃が駄目ではない。あの夜は相応しいと発言したが本意は違う。
「それはマルグリット嬢への劣等感からです」
「ミゲル、貴様は黙っていろ!」
「いいえ、黙りません。以前にお話し下さいましたよね。余りに優秀だから王が飾りになってしまうって」
「き、貴様! そんな事を言う訳がないだろうが! 王族を侮辱するとは不敬罪だ!」
さっきまでの青ざめた顔が嘘の様に真っ赤になって鼻息荒く鋭い視線を向けてくる。一番強気に出られるからな。
「静かにしろ! 話は出揃ったと判断する。学生諸君は退出しなさい」
陛下から退出を命じられてしまった。無理もない。加害者側だった私でさえ、無理筋の聞くに堪えない言い訳ばかりだ。とてもではないが忠誠は誓えない。
「ミゲル、分かっているだろうな。こんなにも恥を掻かせたんだ。お前だけではなく侯爵家にも咎が及ぶ様にするからな。覚えておけ」
こんな捨て台詞を吐いて肩で風を切って連れ立って行ってしまった。もう覚悟は決まっているし逃げるつもりはない。自分の印象を良くしようという狙いも少しはあるが。
結局マイクは一言も発しなかったな。
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