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ミゲルの場合①

今回は殿下の取り巻きの一人、ミゲル視点でお送り致します。

 私の名前はミゲル・デ・ブンターベール。現宰相のブンターベール侯爵家の次男だ。宰相職は世襲ではなく三つの貴族家での任期制だ。だから、私が宰相になる事も当主となる事もないのだ。一応可能性としてはあるのだが、可能性だけだ。それで納得していたし兄上を慕っていたから蹴落としてまでその座に魅力を感じなかった。ただ、学園の入学順位でそれが変わった。

 

 周りが私こそ当主に相応しいと頻りに煽てた。最初は耳を貸さなかった。兄と交代するに値する重大な問題がないからだ。だが、何度も繰り返されると疑問が生じてきた。本当に兄の補佐で良いのか、自分が当主の方が領民は幸せななのではないかと。更に都合の良い事に第一王子殿下と同年齢だ。それが大きな後押しになった。なってしまった。

 

 いつしか兄を補佐ではなく、兄が補佐すれば良いと思う様になってしまった。殿下の最側近になるまでに時間はそう掛からなかった。自分でいうのも可笑しいが優秀だ。それに「俺が即位したら宰相は任せる」と言われたのだ。宰相職は連続で任じられる事はない。だが次期国王に言われたら、これまでの慣例を無視していようがそうなんだと自然と理解してしまった。だが、度が過ぎれば注意もされてしまう。

 

 

 学園の休みに王都屋敷に呼ばれたから執務室に行くと父と兄がいた。父は宰相だから王都屋敷にいる事が当然だ。だが、兄は違う。父が宰相職にあるうちは領地で当主代行をしているはずだ。

 

 「ミゲル、殿下に近付きすぎるなと言っていたと思うが」

 

 「……分かっています」

 

 「分かっていないから注意しているんだ。他の宰相家とのパワーバランスが崩れてしまう」

 

 「……そうならない様に立ち回っているつもりです」

 

 「はあ。殿下と一旦距離を取れ。離れられない様なら唯々諾々と従うのではなく反対をしろ。後は他の宰相家を巻き込め。余計な争い事は避ける様に行動しろ」

 

 挨拶もそこそこにいきなりの詰問だ。父は軍人とまではいかないが、鍛えていて中々に威圧感がある。座っているから目線としては見下ろしているはずなのに大きくみえる。小さい頃に比べて顔に皺が刻まれこれが宰相の貫禄かと納得させられた。

 

 「ミゲル、私からも良いかな」

 

 「……何ですか、兄上」

 

 それまで椅子に座って事の成り行きを見守っていた兄が隣にきた。父と違い内務専門と分かる外見をしている。昔は兄の補佐に納得していたが、今は逆だ。当主になり宰相になる事が侯爵家ひいては王家の為になるんだ。そう思っているから兄の事は見下している。

 

 「ミゲルは優秀だ。望むなら当主継承権を放棄して良いとさえ思っていた。だけどね、今の状況はマズい。王と次期王の側近になれば周囲からは専横と映り国が割れるか侯爵家がなくなるよ」

 

 「流石に考えすぎだし、そこまで考えなしではないよ。それに侯爵家の勢力が増すのは良い事ではないですか」

 

 「それは否定しないよ。でもね、貴族の妬みは警戒しすぎる事はないんだ。結束されて足元を掬われればあっという間に没落だよ。そんな貴族は数えきれないほどだよ」

 

 何を言ってるんだ。貴族の妬み嫉みが原因で勢力が縮小するなんて当たり前じゃないか。分かっているからそんなヘマはしないさ。それにただ権力が増すだけではない、王族に近しくなって権力が増すんだ。何か不都合があったら殿下が助けてくれるだろ。侯爵家を潰せば影響が大きすぎるからな。

 

 「……考えは変わらないか。では、殿下の言動が随分と変わられた様だ。原因は分かるか?」

 

 「……いえ、特に変りはない様に感じますが」

 

 「そうか。今後は関係に最新の注意を図る様に」

 

 「はい。失礼します」

 

 許可を得て執務室を退室する。呼び出された時は身構えてしまったが、乗り切ったと思う。母上との顔合わせの場として晩餐もと呼ばれたが、気乗りがしないので帰寮した。母上からも詰められるとは思わないが、居心地が悪いならと帰寮を選択した。

 

 

 「……どう思う?」

 

 「父上のご想像通りかと思います」

 

 「うむ。バウマン領を調べろ。令嬢周辺はこちらで調べる」

 

 「分かりました。男爵の指示ではないと?」

 

 「ああ。爵位は低いが教育に力を入れているし国への貢献も高い。近く陞爵、役職か領土加増が予定されている。あの男爵が傍観しているとも思えん」

 

 「と言うことは、本人か他所の手が伸びていると?」

 

 「可能性の話だ。だが、隣国は友国で敵国も内政が酷い状況だ。とてもこちらに手を伸ばす余裕はないはずだ」

 

 「そうですね。領地の事はお任せください」

 

 ふむ。ストラーデとミゲルに明確な能力差はない。学科ではほぼ同等、剣術が多少ミゲルが有利。その程度の差しかないのだ。ただ詳しく分析するなら、ストラーデは過去を勘案し現実的な案を策定するのに対しミゲルは過去は調べるが参考にはしない。どこか独自の判断をしたがる傾向にある。

 

 その上でストラーデの方が当主に相応しいと判断した。それに誤りはないだろ。これは教育では如何ともしがたい。修正するものではないからな。調査結果如何によっては追放もあり得るな。いや、学園での事を外にまで波及させるかどうか。悩みどころだな。


お読み頂きまして誠にありがとうございます。

『面白い』『つまらない』など評価を是非宜しくお願い致します。


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