王宮にて④ ~殿下視点~
ここで加害者の主人公である殿下視点をお送り致します。
「揃った様だな。では始めるか」
父上のその言葉が始まりだった。普段は横で宰相が進行をするが、横ではなく俺らの後ろにいる。しかも座っている。卒業パーティーでの事を聞きたいとの事だったので、父上と母上はもちろん当事者であるナターシャとミグル、マイクも同席している。婚約者であるナターシャは隣にいるのは当然だ。シグル達は同じ卓に座って良いものかとこれでもかと緊張が見て取れる。これからは幾度となく経験するだろうから慣れてもらわねば。ふと、右前方にいる父上たちを見るとどちらも顔色が少し悪い様だ。揃って体調を崩すとは良くない事が起こっているのか? 俺が早く支えなければ。
ここは赤鷹の間。国内貴族向けの中では格式が高い部屋で、重要な会議を行う部屋で有名だ。主に軍議で使用する部屋なので華美にしていない。中央に大きなテーブルと椅子のみという何とも堅牢を体現した様な部屋だ。使用目的が主に軍議だから仕方のない事だが、俺の好みではない。謁見の間までとはいかないが、派手さを追加しても良いと思う。殺伐とした軍議の中には特に華やかさは必要だ。王位に就いたら刷新する事を改めて決意した。
「なるほど。当日の出来事に相違はないな」
父上からの質問は卒業パーティーでの事だ。説明はミゲルが担当だが、今回ばかりは俺がする事にした。自分の婚姻の事を他人に任せる程愚かではないからな。
「……そしてナターシャ嬢と婚約を発表したのです」
「……そう、本当だったのね」
そう一言呟くと目を瞑ってしまった。今の説明で何を悲しむ事があるのだろうか。婚約破棄は国に陰りが生まれるが、直後に正式に婚約を発表するのだ。しかも、義務による婚約ではなく互いに好意を寄せての婚約だ。民には身分差の恋愛劇が人気だから大いに歓迎されるだろう。そう思っていたのに、どうしてだろうか。この反応は予想していない。急に不安がこみ上げてきてしまう。
「他に追加する事はあるか?」
父上は特に感情を表さないで確認の意味を込めて他の三人を順に見る。その声はどこか固く感じる。
「ほ、補足する事は何一つはございません」
こくっ。
やはり緊張からか口ごもってしまっている。宰相家だから社交慣れしているだろうが、絶対権力者の陛下は別格なんだろう。マイクはいつも通り無口だが、緊張が見て取れる。
「そうか。双方共に認識の違いはあれど、事実に偽りはないようだな。では……」
そこからは顔色が悪くとも厳しい目つきになり質問が続いた。詰問といって良い状況だ。何故、責められなければと思ってしまう。想像と違う展開に頭がついていかない。内容もどこか自分ではない誰かに向かって言っている様な錯覚だ。
・婚約は王家と侯爵家で決まった事
・報告、相談がない事
・破棄するに十分な理由がない事
・内乱の可能性を考慮していたか
・側室では駄目なのか
たぶん、こんな事を言われていたんだと思う。途中からはどこで間違ったのか、何が間違ったのか考えるので精一杯で。
「ち……陛下。侯爵家と婚姻するのは王国を更に発展させる為には必要な事だとは認識しております。ですが、婚姻をするのは私です。将来の王妃を決めるのは私であるべきだと愚考致しました」
「国の事を考えての行動だったか。それは父としても嬉しい事だ。だが、それによる悪影響は考えなかったのか?」
「報告せずに発表した事は申し開きのしようもございません。しかし、婚姻後に関係悪化するよりは良いと且つ影響は軽微だと判断しました」
伝わっているかは不安だが、俺なりの考えは言えた。言えたが唾を飲み込むのを苦労する程に口は渇き、陛下に聞こえる程の鼓動が大きくなり、目を直視できない程になっている。
こんな事になったのは小さい頃に花瓶を割ってメイドのせいにした時の言い訳以来だ。ふと昔の事を思い出してしまった。いや、俺は正しいと思っての行動だ。何も悪い事はないはずだ。それに間違っているならミゲルが正しているはずだ。
……間違ってないよな?
「……ふう。なるほどな。少しも納得も理解もできないな。ミゲル、お前はどう考えていた?」
「そ、それは……」
「構わぬ。言葉遣いを咎め故、申してみよ」
順番とばかりにミゲルにも問い質している。同じテーブルに座るだけでも緊張しているのに、失神するのではと思うほどに動揺している。
俺への詰問が終わり周りを見る余裕が少し出来たから、ミゲルを見ると僅かに本当に僅かだが左頬が少し腫れている。よく見ると唇も少し切れている。もしかして、マルグリットに報復でもされたのか? 唐突で一方的な発表だからといって俺の側近に手を掛けるとは良い度胸だ。王太子である俺には無理と見てミゲルに行ったか。破棄をしたのは俺だ、俺にくればいいものを。側近にいくとは。マイクもそうだが将来は国の中核を担っていく重要人物だぞ。
俺の中で傷とマルグリットが繋がっていき、沸々と怒りがこみ上げてくる。今すぐには報復は不可能だろう。だが、即位したらマルグリットも侯爵家も見せしめにする必要がある。家臣に侮られたら国として立ち行かないからな。
怒られているのと傷つけられた怒りで気持ちが段々と落ち着いていくのが分かる。何とか平常心を取り戻したと思ったら。
「……私も殿下と同じで影響は軽微もしくは無視できるものと考えておりました」
うんうん、そうだろうとも。俺と考えが近いからこその側近だからな。
「しかし、間違いである事に気付きました」
おいおいおい。今更間違ってるだと?
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