王宮にて③
「発言、宜しいでしょうか」
アントノール伯爵には第二王子との婚約が可能な令嬢はいなかったはずだ。新たに側室を迎えたって話も聞いてないしな。ミーチャは今回の件には関わってないから発言はしていないがいる。派閥は違うけど領が隣同士だから、それなりに仲は良かった。まあ、派閥争いは王都から離れれば薄れていくしな。
「陛下、レヴィーノ侯爵のお立場は理解しましたし納得出来る話ではあります。しかし、それとこれは別問題です。エンリコ殿下は未だ社交デビューしておらず、選定もまだこれからというもの。それを婚約破棄にするのだからそのままエンリコ殿下へとなるのは余りにも蔑ろにしております。その辺りについてはどの様にお考えなのかをお聞かせ願います」
将来の王妃を輩出するとなれば名誉な事だ。本人だけでなく、家格が一段上がる。王家の威光は過度には使えないが、要所では使える武器になる。人・物・金の流入量が桁違いに増える。それを選定をせずにとなれば文句の百ではきかないな。後は、妃候補に選ばれなくて悔しいではなくて、あくまでもエンリコ殿下の扱いが酷いと訴えてるわけだ、ここがポイントだな。
「ふむ。では、どうせよと? 今回の件は王家に非がある。故に侯爵家に譲歩するのは当然だろ」
「従来通りに進めるべきかと」
「従来通り、か。では、侯爵家に関してはどうするのだ?」
「交易に便宜を図るだけで良いと愚考致します」
「う、ううむ」
「なにより、フェルナンド殿下の尻拭いをエンリコ殿下にさせるのですか?」
ここで王家のとは流石に出来ないか。今回の出来事はフェルナンド殿下の独断で陛下は関わっていないとしないと傷が大きいからな。それに伯爵の言い分は正しい。10歳で候補は3人に絞られ、学園に入る12歳で正式に決まる。それに倣えばエンリコ殿下は確か8歳だ。選定はしているだろうが、決めるにはまだ時間がある。マルグリット嬢よりも優れている可能性は否定できないからな。
「レヴィーノ侯爵も宜しいですかな。慣例を無視してまで婚約を急ぐ必要はないのではないですか?」
「そ、それはそうだ。だが、行き遅れにならんか?」
「可能性としてはあり得ますが、同世代の未婚約の侯爵令嬢に釣り合う令息はおりません」
「むむむ」
そうなんだよな。破棄されたからといって次が直ぐに決まるなんて事はない。侯爵家と繋がりを持ちたいと思っている貴族は多い。それも国内外に。だからといって破棄を見越している貴族家は存在しない。この時期には婚約は決まっているものだ。そんな俺だって決まっている。
婚約破棄をしてまで侯爵家と繋がりを持ちたい貴族家も存在しない。関係を悪化させてまで破棄をしたところで、婚約ができる確証がないからだ。慣例を無視して焦ったところで相手は社交デビューしていない世代だ。姉さん女房にはなるが、婚約できないって事はないだろう。マルグリット嬢に問題があっての破棄ではないからな。
まあ、下の世代と婚約できないと決め込んで博打をする貴族家は少ないがいるだろうな。
「お父様、家を出るのが少し遅れるだけですわ」
「いや、そうは言うが……」
「もう少しあの屋敷にいさせて下さい」
「ううむ、分かった。無理に急ぐ事はしないとしよう。だが、殿下が社交デビューなされた際は一席設ける。それ位は良いな」
「分かりました」
マルグリット嬢が小さく頷く。侯爵は困り笑顔から一転、厳しい顔付きになって伯爵に向き直る。
「そういう事だ」
それ以上は敢えて言わない。被害者が譲歩したのだから、これ以上は何も要求するなって事だろうな。実際、譲歩する必要は微塵もない。ただ単に、慣例を無視するなってだけだからな。慣例だから法整備はもちろんない。まあ、事前に擦り合わせはしてるだろう。エンリコ殿下の婚約相手はマルグリット嬢でほぼ決まりだろうから。形だけでも慣例通りに選定してますよって事にしないと派閥が納得しないからな。
「侯爵が納得ならば余からは何も言うまい。詳細は後に詰めるとするか。それで良いか」
「「は」」
侯爵を筆頭に了承の意を示す。選定を行わずに決定しないだけ、まだ猶予があるから戦いようはあるからな。俺なんかは面倒な事はしないで、マルグリット嬢で決定で良いと思ってしまう。被害家なのだからと。ま、貴族としては到底納得できる事ではないよな。それはそれ、これはこれだ。婚約破棄は余りにも酷い仕打ちだ、だからって優先させる道理はないって事だ。それに破棄させるだけの理由がマルグリット嬢にあったのだろうと判断出来るしな。足の引っ張り合いはお手の物だ。
やっぱり、こんなイベントを考えたメーカーって何だよ。対象年齢を成人にしたって面白いか? 操作キャラは殿下かナターシャ嬢だろ。破棄する事から始まる物語って一体。
ゲームの一幕で良いんだよな?
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