動かないってあるのか?
侯爵への説得は何とか終わった。色んな意味で。先の一件があった縁で時間を割いて頂く事ができた。出来たが余りに荒唐無稽の話にぽかんだった。感謝しているとは言ったが、それをひっくり返す位のマイナスだよ。だけど、頭の片隅にはいれておくみたいな事は言ってくれたし、どのルートなのかも詮索はしないでくれた。少し調べれば分かる事だけども黙ってくれた。と言うよりは、ヤベーヤツがヤベー話を持ってきたから深入りは避けた感じかな。まあ、これで軍部と外務に事前に話を通したから本当に起こっても酷い扱いにはならないと信じたい。
……起こらなかったら回復の余地なく酷い状態が続くけどね。
結論から言うと留学から帰国した第三王子は軍事演習に参加した。したけど視察止まりで、規模も日数も場所も例年通りだった。変わった事は何一つなく、国境に張り付いた俺らは演習を見てるだけだった。あ、上司から小言を頂いた出来事くらいだな。
国内で大きな出来事は第一王子の継承権剥奪だ。王族籍離脱についても併せて公式発表された。時期については第二王子の高等学園入学を待ってとなった様だ。他三人も時期を同じく離脱となる事も添えられた。時期に関しては紛糾した様で、再教育終了をもって即離脱派の陛下と一時期でも継承者が一人になるのが不安な大臣たちとで揉めた。入学までは待つが離脱については発表する事で折り合いがついた結果だ。
「後悔してるか?」
何をとは言わない。言わないがお互いに理解している。それ程までに影響は大きいのだ。多分。同期に比べて出世が遅いのは上司の心象が悪いからだとか、部下の視線が冷たいんじゃないかとか。何でもない事でも何か悪影響を及ぼしているではないかと勘ぐる様になってしまった。
「今更だな。昔の俺に忠告したいぜ、食事で釣られるなよと」
もう何度目か分からない程に繰り返してきた言葉だ。確かに食事だけでは釣り合わないな。まあ、直接関係してるって確証がある訳ではない。唯の下種の勘ぐりに過ぎない。おそらくね。
「戦争が起きない事を喜ぼうじゃないか」
「ま、三年もすれば忘れるから、それまでは辛抱だな」
「そうだな。俺は領に戻るつもりだから忘れるのは早そうだな」
「そのかわりに社交会でずっと言われるぞ」
「それは軍にいても変わらないだろ」
「「はあ」」
訓練終わりに酒場でくだを巻くのが日課になってしまった。時期は言ってないからハズレた訳ではない。言い訳に聞こえるだろうがその通りだ。周囲からは奇異な目で見られるがな。それにナターシャ嬢との会合は続いている。相変わらず戦争以外の細々《こまごま》した事については的中しているからだ。
予知夢騒動の事をそろそろ忘却の彼方に葬り去ろうと日々を過ごしていると突然やってくる。
「今年の演習で侵攻してきます」
いつもの様に談話室で予知夢を聞こうと姿勢を正していると突然の宣告だ。訓練終わりで疲れていて脳が理解するのを拒否していた。それは隣のミューゼからの動揺でも分かった。折角、忘れようと平穏な日々を過ごしていたのに。見計らった様にタイミングが良すぎる。まさか、これは復讐の一環なのかと疑ってしまう程だ。
「今年なのは確実なんですね?」
今まで予知夢を外れた事はない。ないが影響が広すぎるから慎重に過ぎる事はないだろう。
「はい。貴族籍離脱の発表の年ですから、間違えようがありませんわ」
「そ、そうですか」
すまし顔でそう言われると警戒するな。悪意ない微笑みだけど、それ故に裏があるって勘ぐってしまう。
「それで今後の流れはどうなるのですか?」
「それはですね……」
今後の流れについては大まかに分かった。後は父上たちと情報の共有だな。軍や侯爵閣下は今回は除外だ。過去に話したってのもあるが、これ以上の恥はかきたくないからな。
「父上たちは一緒に説明で良いよな?」
「ま、それが妥当だろう。だが、手紙で良いだろ」
「手紙で? それは幾ら何でも雑ではないか?」
「そうだな。だが、前回の事もあるから呼びつけるのは気が引ける。だから、概略を伝えて必要となれば来るだろ。判断は父上たちに委ねよう」
「……そうだな」
うん、確かに。前回みたいに無駄足になったら目も当てられないからな。嫡男ではないから重要ではないけど、領地に戻る身としては肩身が狭いってもんじゃないからな。手紙で知らせても演習までは時間があるから王都に来る位は余裕だし、何だったら領地に戻る事も余裕だろう。それに領地に戻ったら婚約者が待ち構えていて更に居辛いからな。
「「こんな大事な事を手紙で済まそうとするな!!」」
……手紙を出してから王都に来るまでが早すぎる。恐らく準備もそこそこにして最短で急いで来たんだろう。王都屋敷に呼ばれて来てみればさっきの怒声だ。気まずいからって手紙で済ましたのが裏目に出てしまった。幸先が悪いな。
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