人格変わってないか?
衍字修正(令和7年2月18日)
はあ、巻き込まれるのか運命なのか。→はあ、巻き込まれる運命なのか。
「数年後に戦争があります」
席に着いて一息ついて途端の言葉だ。簡単に立ち話で済ます事もできたが、官舎の前で注目を集めてしまう上に落ち着いて話がしたいとの事で談話室を借りた。貴族も多く防犯防諜が整えられている一室だ。お茶セットを用意してもらい喉を潤したら直ぐだ。
「ぶはっ! 失礼しました」
余りに突飛な事に咽てしまった。婚約破棄についての事だと身構えていたから、予想外すぎる事に頭も喉も意表を突かれてしまった。大体、戦争とはかけ離れている存在だろう。
「いきなりですね。冗談にしては笑えませんね」
非難を込めて彼女を見据えると逸らさずに見返してきた。笑みは一切なく表情は真剣そのものだ。学園にいた頃はぽわわんとしたお花畑のイメージだったが、目の前にいるのは貴族令嬢だ。姿形は同じだけど別人だと言われた方が納得するほどだ。
「冗談ではない様ですね。ですが、本当だとして何故私なのですか?」
そう。戦争の様な国家の一大事ならば一介の兵士ではなく、将軍、宰相、高位貴族にするべき事案だ。
「今の私には信用はありません。席にすら着けません。お父様も同様です」
ま、それもそうか。
「だとしてもです。私にもコネもツテもありませんよ」
子爵家の次男坊で一兵士に期待しないで欲しい。それに信じるにたる根拠不明な物を話せる訳ない。精々が酒席で与太話として話題にあげる位だろう。
「予知夢です」
「夢、ですか。根拠には乏しいですね」
なんだ夢か。根拠ナシって事だな。説明もできないし確認もできない。警戒だけさせて徒労に終わるだろう。警戒心を煽る事が目的か。いや、それに何の得があるんだ? 無駄な事をしている事を嘲笑う為か? 軍に限っては無駄ではないな。駄目だ、目的が分からない。それに予知夢であるなら婚約破棄を選ぶ意味がない。どうして避ける事を選ばなかったのか。破棄するのが最善だとでも?
「夢なので確認できないですよね。幼い頃から外れた事はないんです。いえ、なかったんです」
あ、何だろう。嫌な予感が。
「婚約破棄は外れました。原因はロレンス様、貴方です」
夢とは違う結果になったイレギュラーな存在である俺。だから俺に頼ると。いや、それでも俺である意味が薄い。
「それは結果的に予知夢ではない事の証明ではありませんか?」
「ええ、それでも確信しております。ただ、納得が出来ない事も理解しておりますので、これから起こる事をお話致します」
そう言うとこれから起こる事を時系列で話し始めた。戦争理由から場所、規模、編成、終結時期など事細かにだ。出鱈目の作り話かと思ったが、地図を交えて淀みなく真剣に整合性も極端に破綻する事なくだ。
簡単かと思われるが、以前であれば信じるに値しないと突っぱねる。そもそも同席はしないだろう。それが何もかも真逆の貴族令嬢の振る舞いだから混乱している。貴族令嬢が隣国の情勢や軍事について詳しいのも拍車を掛けている。ただ、それだけで信じるのは話が別だ。
「なるほど。ですが、このままでも勝つのですよね?」
「ええ、辛うじてですわね。ですが、被害を抑える事は重大事ではありませんか?」
「そうですが、信じ切ってしまい予期せぬ事で被害が拡大する事もありますので」
予知夢が確実だとして計画を練ると予期せぬ事に対応が後手に回り混乱してしまうだろう。まあ、確実性のない予知夢を計画の根本に据える程に愚かではないだろうが。
「ええ理解しております。ただ、辛勝の場合は参戦国が増え亡国となります」
「!! 尚更、上層部に掛け合うべきだと思いますが」
おいおいおいおい。亡国って、それこそ俺じゃないだろ。俺に扱える限度をとっくに超えてるぞ。
「レヴィーノ侯爵にお話頂ければ十分です」
「……子爵家次男の話を聞いて頂けるとは思いませんが」
「あの件で侯爵家と繋がりは出来ていたと思いますが」
面識は確かに出来た。出来たが荒唐無稽すぎるぞ。ちょっとお茶でもしようかと簡単な話ではない、存亡に関わる極めて重大事だ。信じさせる自信なんてないぞ。
「……話は出来ると思い……ます。ただ、信じる根拠が薄く無視されると思いますが」
「それで構いません。記憶の片隅にでもあれば十分です。予知夢通りに推移していけば侯爵家からお呼びが掛かると思いますので」
「……なるほど」
つまり、予兆もないのに戦争の機運ありと忠告する頭の弱いヤツを演じれば言い訳か。ただそれをすると予知夢通りになれば再評価になるし、何も起こらなければ最低評価になるのか。戦争は起きて欲しくないが俺の評価は急降下って事か。個人の評価と国の存亡。比べるまでもないか。
「これでロレンス様を選んだ理由がお分かりになると思います」
「ですね……」
外務閥の侯爵が目当てなら、確かにナターシャ嬢では無理だ。婚約破棄の当事者であり破壊者だ。幾ら貴族令嬢の作法に則っていようが席に着く事すら出来ないだろう。間に俺を挟めばいけなくもないか。
「いつ侯爵に?」
「まだ詳しい日時が不明ですので、これからもお会いして頂ければ幸いです」
「私には婚約者がおりますので何度もお会いするのは外聞が悪すぎます。学園へ臨時講師として招聘されていますのでその時にでも」
「ええ、それで十分です」
「その際に小さな予知夢を教えて頂きたい。予知夢が信じるに値すると判断する為にも身近な事から実績を作るべきだと思います」
「ええ、もっともですわね」
もう満足したとばかりに優雅に紅茶で喉を潤している。これだけでも貴族令嬢の作法に則っていて、婚約破棄騒動を起こした張本人とは似ても似つかない。
予知夢なんて一笑に付す事も出来るが、事が事だけに無視を決め込む事が最善ではない事は分かる。分かるけど、俺の行動に掛かってるって事だよな。まだ先の事とは言え荷が重い、重すぎる。
はあ、巻き込まれる運命なのか。
もう少しだけ続けると思います。
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