どうして助けると思った?
ようやく真・卒業パーティ編が終わります。
「ど、どうしてとは?」
挨拶も礼法もなく急に話し掛けられた為に心構えが出来てなかった。この場で近寄ってくる事はないと高を括ったのが敗因だろうか。
「マルグリット様の事を助けたのなら私の事も助けるべきでは?」
「??」
助ける? 何を言ってるんだ、この娘は。大体何から助けるって言うんだ。意味が分からない。
「だから、どうして助けて下さらなかったのと聞いているの」
黙っているとイラついた様に強い口調で詰問してきた。眉間に皺が寄り淑女がする様な表情とはかけ離れていた。ついでに両親はとっくに離れている。
「……助けるとは何からですか?」
「もちろんあの様な受け入れられない処分からですわ」
目を大きく開けて信じられないといった表情だ。
「私ではなく、お父上や殿下に頼るべきだと思いますが」
「マルグリット様を助けた様に陛下の判断に異を唱えれば結果は変わりました」
「陛下の判断に学生である私が異を唱えると? その様な事が出来ると本気でお思いなのですか?」
「殿下に出来たのですから陛下にも出来ますでしょ?」
本気か? 殿下はあの時点では学生だったからいけたんだ。当主でもないのに遮る事が出来るか。卒業パーティーだとしてもだ。
「無理ですね。それに処分を軽くさせる意義を見出せませんので」
「……本気ですの? 余りにも厳しい処分で抗議するには十分だと思いますけども」
「処分内容は妥当ですし抗議をしたところで結果は変わりません。それに抗議をしたら陛下からの心象が最悪になります」
「いいえ、貴方の言う事は陛下も受け入れて下さります」
「陛下に意見を押し通せる程の立場でもありませんので無理ですね」
この自信は一体どこからくるんだ。在学中、交流らしい事はしてこなかったし陛下からの信頼が篤いなんて俺でさえ聞いた事がない。それなのに俺の意見を聞いて、処分を撤回若しくは軽減するなんてあり得ないだろ。妄言にも程がある。殿下たちはどこに惹かれたんだ? 余程うまく自尊心を擽られたのだろうか。
「私ではお力になれそうにもありませんので」
話はここまでと思い反転して去る事にする。「あ」の声と共に右手が挙がりかけていたが、一瞬目線を固定して続きがない事を確信して歩き出した。数歩歩きだした所でボソッと独り言が聞こえたが無視をした。これ以上は関わりたくないからだ。
「酷いと思いますけど」
「学友だろ、我々がいては話の邪魔になるだろうと思ってな」
「面倒事に巻き込まれたくないだけでしょうに」
ジト目で見ると咳払いして顔を逸らされてしまった。もうそれが答えだろうに。ま、この対応は今に始まった事ではないので怒る気にもならないけどね。
「ちょうど頃合いでしょうから陛下にご挨拶に伺いましょうよ」
今回は卒業パーティーと銘打っているが、主催は王家だ。主催に挨拶なしに退場は許されないからな。幸いといってはなんだが、少し話していたからちょうど良い順番になった様だ。
「陛下、本日は貴重な卒業パーティへの招待、誠に心より感謝申し上げます」
「カヴァレーニ卿か」
面倒事や交渉など所謂貴族らしい事が悉く苦手な父上だが、挨拶などを聞いていると流石にそつがない。父上がいるから挨拶はしなくて済む。全員と挨拶をしていたらいつまでも帰れないからな。だから、ニコニコ笑顔で突っ立っていれば楽だ。
「ロレンスだったか、其方には助けられた。近衛を希望するなら推薦するぞ」
「!! み、身に余る光栄です。ですが、実力を認めて頂き近衛へ参りたく思います」
「……そうか。青いな。……だが、今回はその青さに助けられたのも事実か。分かった、焦る事なく研鑽せよ」
「はっ」
そこから少し話して挨拶を終えた。油断したよ、俺に話しを振ってくるとは。陛下からの誘いを思わず断っちゃったけど、大問題にならないだろうか。話の辻褄合わせでは断る一点だったけども。この話しが中央軍にいけば訓練内容が苛烈になるだろうから心配だ。
「陛下からの誘いを断って問題にならないかな」
「大丈夫だろ。近衛は精鋭の集まりだ。学生が気軽に入れるとこではないのは陛下もお分かりだ。寧ろ実力が足りないと断ったのは好印象だろうな」
「でも毎年何人かは近衛へ推薦されますよね」
「あくまでも推薦止まりだ。基準に満たなければ配属は国軍になる。そして例外なく全員国軍配属になっている」
「な、なるほど」
宮廷政治で近衛へ推薦されるが正式には配属に到らないと。納得できる考えだけど履行されているとは思わなかったな。
「それよりも近衛に行きたいのか」
「んー、憧れはあるよ。でも、今回みたいな事を見ると揺らぐよ」
「あなた、小さい頃から憧れてましたものね」
「そうだったか。だが、お前はバランス感覚が良いから近衛でも通用すると思うし、何より中央に一人いると何かと助かるのも事実だからな」
「だとしても実力不足でしょ」
「直ぐにとは考えていないさ。当主交代の時に近衛の末席にいてくれれば大いに助かるさ」
「希望に添えないだろうけど留意しておきますよ」
それ以降は他愛ない会話で王都邸宅までの少しの間を過ごした。心地よい馬車の揺れと流れる景色を見ていると一連の出来事が思い起こされる。婚約破棄、断罪。一連の出来事は現実だけどもゲームの一幕って事で良いんだよな。これが現実なら教育の敗北だぞ。でもゲームって事なんだろうな。
「断罪回避も必須イベントなんだけど……」
あの時にボソッと呟いた事が脳裏から離れない。
前回投稿から二か月も。。。
こんな師走に投稿するとは。ま、遅いのが原因なんですけどね。
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