噂はアテにはならず……
断罪から少し離れまして侯爵一家とのやりとり回です。
少しで済ますつもりが1話になってしまいました。
侯爵一家との緊張の一時を過ごす間も陛下からのお言葉は続いていた。陛下のお言葉を遮ってまで雑談は不敬かなとは思いはしたけど、侯爵から話し掛けてきたんだ。責任が及ぶことはないと信じたい。まあ談笑している訳ではなく声を潜めているので問題はないだろう。そろそろ終わりかなと思っていると、最後にと付け加えた後に再教育後であるならば殿下とナターシャ嬢との婚姻を認めるとご発言なされたのだ。これには先ほどまでの決定が霞む程の騒めきが起こった。
それで本当に終わりの様で両陛下含む八人は各々パーティー会場に消えていった。必然的に四人は取り残される形になり、一種の空白地帯となりもの悲しさが拍車を掛けている様だ。
ナターシャ嬢との婚姻は俺も驚いた。婚約破棄したにも関わらずナターシャ嬢との婚姻は認める。結局のところ、男爵家との婚姻に利があるが侯爵家との関係悪化を恐れたのだ、と。男爵家に都合の良い解釈をすればこうな……らないな。
うん。ならないな。余りにもご都合主義が過ぎるな。ゴールありきの突飛な発想、いや妄想だな。
「驚きの連続だったな」
その声で意識と体を侯爵に正対する。
「マリアンナだ」
一言。先ほどの態度と合わせて夫人には頭が上がらない様子なのがありありと伝わってくる。余計な事は墓穴を掘るんだろうな。
「お初にお眼に掛かります。ハロルド・フォン・カステル=カヴァレーニが子。ロレンスと申します。社交界の華と謳われる夫人にお目通り叶いましたこと恐悦至極に存じます」
「あらあらご丁寧に。マリアンナ・ル・スレイ=レヴィーノよ。社交界の華だなんて夫にも言われないのに嬉しいわ。それと格式ばった挨拶は不要よ。ここでは礼を失しない限りは許されます」
「だとしてもです。格式や敬意はどの様な場面でも重要だと思いますので」
「必要以上に遜る事はないのよ。貴方方が主役で私たちは添え物なのよ」
「それこそ尚更ですね。幾ら主役になろうとも添え物を疎かにしては台無しになってしまいます」
「あら、嬉しいわね。では主役を脅かす位に輝かなくてはね」
「今でも逆転していますので、これ以上輝かれますと埋められない程になりましょう」
「お口がお上手なこと。それと先日、助力して頂いた事は決して忘れませんわ。侯爵家として母として感謝致します」
半分社交辞令の応酬の中で夫人からの突然の感謝のお言葉。目礼。
「誰かが声を挙げなければならなかったのです。それが偶々私だっただけの事です」
「それでもよ。どれだけ救われたか。……王家に輿入れは早まったかしらね。娘を娶る気はないかしら?」
「おい」
婚約破棄が正式に決まった瞬間に王家批判ともとれる発言をする。これは侯爵じゃなくとも止めにかかる。
「分かってますよ」
「愚痴の百や千言いたい事は理解しているがここではない。場を考えろ」
「そうですわね。折角の良い関係を壊すなど愚物と同じ事はしませんわよ」
「まったく。子爵家と男爵家も敵に回すつもりか」
「ご冗談だと理解しておりますが、そこまで評価頂けるのは望外の喜びです」
「あら、冗談ではないわよ。婚約さえしていなければ候補に挙がっていますわよ」
「ははは」
笑って良い冗談だよな。夫人は笑顔だが目が笑っていないし、侯爵は困り顔だしマルグリット嬢は……表情が読めないな。高位の方相手は唯でさえ心労が絶えないのに冗談の判別がつきにくいのは勘弁して欲しい。
「それはそうと軍に内定していますのよね?」
「あ、はい」
「侯爵家から推薦があれば近衛に入る事も可能よ。どうします?」
侯爵が小さく頷く。
「……そこまで期待をして頂ける事に感謝致します。ですが、お断り致します」
「理由は?」
「近衛を希望しておりましたのは事実です。ですが、数年後には領地に戻ります。唯の箔付けの為に近衛がある訳ではございませんから。それに」
「それに?」
「私はどうにも頭より体を動かす方が性にあっておりますゆえ。宮廷ではお力にはなれません」
「……そう、そう言う事にしておきますか」
全部事実だ。だけど実力が認められて近衛に行きたかった。青臭い考えだけどね。後、裏口入学するみたいで後ろめたさが勝ったのが大きいかな。何となく諦めてない様子だけど。
「余り困らせてはいけませんね。さて、両陛下にご挨拶に伺わなくてはね。貴方もどうかしら?」
「いえ、父たちと伺うつもりですので」
「そう。ではまた」
夫人だちは去っていく。と。
「ごめんなさいね。話して分かったと思うけど母はご覧の通りの人だから、余り気にしないでね。だけど、侯爵家として感謝しているのは本当だから」
マルグリット嬢が本当に申し訳なさそうに俺にだけ聞こえる様にして言う。それで今度こそ三人とも去っていく。
何事も起こってない様で心には嵐が吹き荒れた様だ。人の噂ってアテにならないな。容姿端麗で華奢で服飾のセンスも良く、言動に嫌味が感じられない。正しく理想の華って感じだ。だけど、話した感じは外は華奢、内は頑丈だ。あの様子だと尻に敷かれているだろうなと。それと納得もしてしまった。母娘なんだなと。
「おほん、そろそろ帰るか」
「ちーちーうーえー」
「な、なんだ?」
「助けを求めたのに無視ですか?」
「お、お前。侯爵閣下相手に何を話せばいいのだ?」
「それでも息子を見捨てる親がどこにいますか」
「み、見捨てたのではない。お前なら大丈夫だと思ったから静観していたんだ」
「はあ、物は言い様ですね。私も疲れましたが母上もお疲れでしょう。そろそろ帰りましょうか」
「そうだな」
ちくりちくりと言い合い、パーティーもそろそろ終わりだろうと思い最後に両陛下にご挨拶に伺おうかと思った矢先に。
「どうして助けに入ってくれませんでしたの?」
ここで話し掛けられるとは思ってもみなかった。誰あろうナターシャ嬢だ。
前回の投稿から約1か月。
前回投稿時後書きに「頑張るぞ」と書いたにも関わらず頑張れなかった。。。
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