断罪は未だ始まらず ~宰相視点~
少し間が空いてしまい申し訳ないです。
ようやっと断罪フェーズの始まりです。
今回は宰相視点で書いてみました。
「あの日から幾日も経っていないとはいえ、考えを改めたと思っていたし実際に変わったのだろう。だが、それはあの時だけの方便だったのだな」
「そ、それは……」
「相談を受けた際にどう謝罪をするのか方針を決めたはずだ。それがどうすればこの様な事になるのだ?」
赤龍の大広間は伯爵以上であれば婚礼の際に使用が許可されているのだ。もちろん私も使用した。それ以下であっても格式は落ちるが広間はある。伯爵以上の婚礼は陛下の許諾を得る必要がある為に、王宮の広間が貸し出されるのだ。
パーティーが開始されてからは妻と共に会食を楽しみつつ談笑に花を咲かせていた。学生たちにはまだ難しいだろうが、加害側である事などおくびにもださずに談笑するのだ。話題にも出せないから都合が良いと言えばそれまでだがな。それでも敢えて話題を出さなければいけない相手というのもいる。
「レヴィーノ卿、奥方もお久しぶりですな」
「おお、ブンターベール卿。久しぶりですな」
「こうして子供たちの卒業パーティーに参加できるとは思いませんでしたな」
「まったくですな。主役は娘たちですから遠くから見ているだけですが、嬉しいものですな」
これほど緊張したのはいつぶりだろうか、侯爵位を継承する時か婚約が本決まりした時か。兎に角、人生の重大事に匹敵するだろう。当たり障りのない会話を続けていると、遠くで息子もマルグリット嬢と一緒にいるのが分かる。視線に気付いてレヴィーノ卿もそちらに向くと少し目元が厳しくなり「ふむ」と呟いて黙ってしまった。
「レヴィーノ卿、先頃もお伝えしましたが都合が良い日に一席設けたいのだがどうだろうか」
「……ふむ」
少し背が高いから厳しい目つきと相まって威圧感が凄い。外見だけでは外務閥に属しているとは思えない程だ。
「この場でも良いのでは?」
「いや、ここは耳目が多すぎる。それに立ち話で済ませて良い問題ではないのでな。後は、この後に陛下から何らかの発表があると思うのでな」
「何か知っておられるのか?」
「この場を提案したのは私だ。だが、内容までは把握しておらんのだ」
「分かりました。内容次第ですが時期は早めの方が良いでしょう。その際は使いやりましょう」
「では、その時にでも」
緊張の一時を終えて息子の所へと歩を進めていく。それまでも挨拶に来る貴族に対応しながらだ。これでも陛下に次ぐ地位の宰相位に就いている身だ。他愛ない談笑でも顔を売りたいと思うのは当然だ。
貴族との談笑を終えて息子の元に辿り着いた時には独り立ち尽くしていた。周りには殿下たちすらもいない様で完全に孤立している。王家主催のパーティーだから料理も演奏も一流だ。これから待ち受けている事を思えば今は味がしないだろう。
と、ここで冒頭の会話に戻る。周りには誰も近寄らないから余計に孤立感が際立つ。気落ちして項垂れているのは分かるが、言わなければならないだろう。
「……はい。ですが、マルグリット嬢を前にしたら予定を早めてでも自分だけは謝罪しないとと焦ってしまって」
「どんな会話をしていたのか分からないが、今更焦ったところで事態は好転しない」
「で、ですが謝罪するなら早い方が……」
「ミゲル、その気持ちは大事よ。でもね、深く考えずに行動した結果を身をもって体験したでしょ。どうして同じ過ちを短期間に繰り返すの?」
「……はい」
周りに我ら三人しかいないとは言え、妻の突き放した言い方は結構クルものがある。成長してからは余り煩くは言わなかったが、今回の事で言わずにはいられなかったのだろう。
「パーティーは間もなく終わりとなるだろう。その際に陛下から発表があると思うから、それまでは何か腹に詰めておけ。折角の王家主催だ、料理はどれも一流で美味いぞ」
「……そうします」
「辛いからこそ下を向くな。どんな時でも侯爵家の人間である事を自覚し堂々としていろ。その様な姿を民に見せれば統治に悪影響が出るぞ」
トボトボとテーブルに向かうので、その姿が余りにも情けないので苦言を呈してしまった。
「あなた、あの子は戻れるでしょうか」
「分からん。たった数年で侯爵家としての言動が見る影もない。再教育で修正できるとしてもどれだけの年月が掛かるか。或いはある程度のところで引き取るか、だな」
「そうね。戻る事が一番ですけど、どちらにしても侯爵家籍を剥奪ですものね」
一瞬期待を込めてこちらを窺っているが、対処は余程の事がない限りは変えないつもりだ。卑怯かもしれないが、殿下の処分が正式に発表されるまでは保留にしている。対外的には厳しく対処するとは言っているが、憎くて厳しい処分にする訳ではないのだ。
「その考えに変わりはない」
今のところは……な。だが、この考えは口にするつもりはない。希望を見せた事で叶わなかった時の落差が大きいからな。
久しぶりにダンスでもと思ったが主役は学生である事と状況的に辞退した。料理も演奏も一流で且つ王家主催となると踊らない選択肢は本来ないはずだ。妻も本音は踊りたいのだろう。その証拠に身体が演奏に合わせて小刻みに揺れているのだから。
そんな益体もない事を考えていると演奏が終わり楽団が退出していった。それと同時に両陛下が開催を宣言した時と同様に一段高い場所にお立ちになり終了を宣言される様だ。
「皆、パーティーは楽しめただろうか。学生だけでなく親もいる事で中々、騒げなかっただろう。だが、親である余から言わせると楽しく幸せであった。卒業パーティーをもって諸君らは一人前と見做され奉職する事になるだろう。その最後を見届ける事が出来る事はこの上ない幸せなのだ。改めて卒業おめでとう」
ここで親世代が一斉に拍手をし改めて卒業を祝う。学生たちは恥ずかしそうにしつつもどこか、晴れ晴れとしていた。一部を除いて。
「……だが、この場で正さないとならない事がある。その為にこの場を設けたと言っても過言ではない。これから名を呼ばれた者は余の前に来なさい」
続くこの一言で場が俄かに騒然としてきた。ここには貴族のみだから声を荒げる事はないが、これから起こる事を何か予感めいたものがあるのだろう。さて、波乱なく終わると良いのだが。
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