王宮にて①
メイン会場である王宮での物語の始まりです。
文言追加。
王宮に数ある→王宮に数ある会合が出来る(令和6年5月15日)
あの日の騒動から数日もしない内に王家から呼び出しがあった。卒業パーティー後に直ぐに仕官する訳ではなく、仕官先にもよるが一か月ほどは猶予があるのだ。俺は軍に仕官する事が決まっているが、早まる事はないのだ。そんな自主鍛錬をしている時に知らせが来た。
あの場では当事者の一人だが、婚約に関しては直接の関係者とは言えない。だから、当日の事を補足する役目で呼ばれたのだと思う。
王宮の赤鷹の間。
王宮に数ある会合が出来る部屋の中でも上から三番目に格式高い部屋だ。国内貴族のみ入室を許された部屋で、派手に装飾する必要がない為に質実剛健が似合う部屋となっている。調度品もテーブルと椅子が数脚とシャンデリアがあるだけだ。数は少ないが、貴重品ばかりだ。課外講義で陛下への謁見や様々な部署の仕事を体験していたが、ここの間は入った事がない。前世でも経験がない。精々が授業で写真を眺めたくらいだろうか。
中央のテーブルには両陛下がお掛けになり、学生が囲んでいる状態だ。今回はそれぞれの両親も一緒にとの事だったので、部屋には一応いる。いるが、話の中心ではないので更に囲う様に座っている。
因みに、殿下グループ以外がここにいる。
今回の事は父上たちには報告済だが、呼び出しがあるとは露ほども考えていなかった。油断しているところに呼び出しがあったので焦った。特に母上が。パーティー会場として王宮を使う事はあるがそれだけだ。政は基本的に男しか関われない不文律があるから仕方のない事だが。
「息子から概要は聞いたが其方らにも話を聞かない事には判断できんのでな。すまんが付き合ってもらう。公の場ではないので言葉遣いに気を付けなくて良い」
「はい」
普段は宰相が進行役なのだが、事が学園内の事であり且つ殿下グループに属している為にここにはいない。
とは言っても話の中心はマルグリット様だ。所々で取り巻きが補足するとマルグリット様の表情は消える。ここで巻き返したいのか積極的だ。ただ、助けなかったのは事実として残るから今更だな。
俺はというと、どちらの陣営にも加わっていないから無言だ。何れは近衛と思っていたので殿下と近づく事も考えはしたが、近衛団長子息のマイクがいたから遠慮したのもある。後はまあ、ナターシャ嬢といつも一緒だったからだ。感情でも理性でも彼女の事は避けていたから。
「王妃教育を通して殿下に側妃や愛妾が求められる事も理解しております。ですので、積極的にナターシャ様を排除しようとは思っておりませんでした。寧ろ協力関係を築ければと思っておりました。ですが、側妃のお話はありませんでしたので、積極的に関係を深めはしませんでした。殿下にお話致しましたが、聞き入れて頂けませんでした。ですので、王妃は私で《わたくし》あくまでも友人の一人として接して頂ければ問題にはしませんでした。ですが、この様な事態を予見できなかった事は申し開きのしようもございません」
「……なるほど、分かった。諫める事は時には必要だが、この場合は其方には責任はないと明言しておこう。侯爵からの抗議があり息子にも注意はしていたのだがな。では、当日の事も詳しく聞こうか」
事実のみを淡々と説明し側妃も愛妾も容認する。それでいて先を見通せなかった事を謝罪した。それは想像できない事が当たり前だ。殿下でなくても婚約者がいるのに色目を使う、これは貴族でなくとも鼻つまみ者の行為だ。まして、貴族となると血統を何よりも重んじる。当事者がどう思おうが家と家との繋がりは無視できない重大事だ。それを無視し、まして王族へと色目を使うなんてナターシャ嬢だけでなく男爵家へと批判が向く事になる。そんな事は貴族ならばしないはずだ。
歴史的にみても複数囲うのが通常で、一人だけってのは数例しかいないはずだ。少ない一例は現陛下だ。民には好意的に捉えられているが、貴族には断絶は忌避される。直系が途絶えても親戚筋から何とかして継がせるから断絶は可能性としては低い。だが、直系が途絶える原因になった人は無能の烙印を押されてしまう。だから、理解はしてるけども心情は別って事だろうな。一瞬だけど表情に陰りがあった。
「ここからはロレンス様が適任かと思いますので」
突然の指名に驚いてマルグリット様を見てしまった。あの場にいたが条件は同じでしょう。恨みがましい目線に気付いて少し笑った。仕方ない。
「では、不肖ながら説明させて頂きます」
とは言っても俺がした事は、説明を求めただけであり糾弾し反対した訳ではない。なので、私情は挟まず第三者視点での説明は簡潔に終わった。説明している最中は取り巻きの視線が厳しかったのは言うまでもない。助けにいこうとする素振りもみせてなかっただろうが。
「……そうか」
そう一言を発し、沈痛な面持ちで両陛下が黙ってしまわれた。ここまで王妃陛下含め周りの父上たちは黙って聞いているだけだ。王妃陛下とはパーティーで挨拶を交わしたくらいだから人となりは詳しくはない。だが、表情から察するに困っている。いや、悲しんでいるかな。殿下もそうだが、両陛下も見目麗しい。美男美女揃いの一家だ。困り顔も絵になってしまう程だ。
「……あの馬鹿が。国を割るつもりか。……他に付け加えたい者はいるか」
学生たちが顔を見合わせてこれ以上ない事を確認したら、代表してマルグリット様がお答えになる。
「ございません」
「分かった。息子たちには後日改めて場を設けるが、これで情報が出揃ったと判断する。それを踏まえて何か意見のある者はいるか?」
ここで初めて周りに控えている父上たちに意見を求めた。現場にいた学生の状況説明は終了し、ここからは政の範疇だと判断しての事だろう。そうなると父上の出番は益々ない。ないが、国の行く末に大きく関係するので我関せずではいられないだろう。
「それでは宜しいでしょうか」
声を挙げたのはもちろんレヴィーノ侯爵だ。
婚約破棄ルートを突っ走るのもありだったかな。こんな面倒な事に首を突っ込むなんて、前世では絶対にあり得なかったぞ。見て見ぬふり、無関心が一番だ。重要イベントに関われた事に喜ぶべきか嘆くべきか。判断に迷うな。まあ、破棄ルートでも国が傾くまではいかないだろうからな。
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